第74話 モンロビアダンジョン その1


 そうして応接室を出た一行はギルドの受付に戻ってそのまま酒場に移動した。ブルや他のメンバーがカイをオースィンの冒険者に紹介する。


「カイは半端なく強いからな。お前ら余計なちょっかいを出すと痛い目に合うぞ」


 ブルがそう言うとリチャードが周りを見て、


「ランクAの魔獣の攻撃も普通に受け止められる俺がカイとの模擬戦で手首を折られそうになったぜ」


「ブルやリチャードが言うなら相当だな」


「というかソロでランクSSクラスを2体同時に相手にしてソロで倒し切ってくるなんて普通できないだろう?」


 そう言った戦士のスリムの言葉に皆びっくりして、


「ランクSS2体をソロで?マジかよ?」


 口々に言うオースティンの冒険者。ランクSというのは知ってはいるものの実物を目にするのは初めてのことだ。しかもこの街でNo.1のパーティの連中がそのランクSのカイの実力を認めている。自分を見る目がだんだんと変わってきているのを感じていたカイ。

クズハを肩にのせたまま果実汁を飲んで黙って彼らのやりとりを聞いている。


「カイ。この街にきた目的を話した方がいいんじゃないか?」


「そうだな」


 そう言ってギルマス にも話をしたアマミの使命であと1本の幻の刀を探していると説明していく。黙って聞いている周囲の冒険者達。カイの話が終わると、


「刀自体目にしないからな」


「見たことないな。今カイが持ってる刀を見たのが初めてだぜ」


「刀の話は聞かないわね」


 そんな声を聞いて、


「だからダンジョンボスが持っているんじゃないかと思って片っ端からダンジョンを攻略しているんだ。


 その言葉に頷く冒険者達。


「明日から早速ダンジョン攻めるのかい?」


「いや数日は街の周囲で体を慣らすよ。長旅だったしな」


 そんなやりとりの後、ブルらに礼を言うと先にギルドを出て宿に向かったカイ。カイがギルドから出ていくと、そこにいた冒険者が、


「ランクSっていうからもっといかつい男で、偉そうにしていると思ったけどイメージと全然違ったな」

 

 その言葉にうんうんと頷く他の冒険者達。それを聞いていたブルのパーティの僧侶のリンスと魔道士ケイトの女性二人が、


「でしょ?ぱっと見はとてもランクSには見えないでしょ?でも実力は半端ないわよ。それでいて性格はすごく良いわよ。面倒見もいいしね」


「あの外見だけ見たら強そうに見えないかもしれないけれど、私たちはカイの強さを知っている。刀も魔法も半端ないわよ。とは言っても本人は軽く流していたって言ってたけど、それでも私たちよりもずっと強いわ」


 女性二人の言葉にリチャードが続けて


「さっきも言ったが俺はキアナであいつと模擬戦をしてぶっ飛ばされてる。しかも本気武器じゃなくて木刀の刀でな。カイは軽く流す感じで俺の盾に木刀をぶつけてきたがそれでも俺が今まで受けたことが無いほどの圧だったよ」


「模擬戦での奴の木刀捌き、ほとんどの奴が見えてないな。それでまだ本気モードじゃ無いって言うんだからさ。あとリンスが言った様に良い奴だよ。自分がクリアしたダンジョンの事についても丁寧に説明するし、キアナじゃダンジョンボスを倒して出たレアな武器や盾を世話になった奴らにタダであげてたな。俺は刀だけしか使えないって言って」


 ブルが続けて言う。黙っている周囲の冒険者達。どうやら事前に抱いていたイメージと実際のランクSのカイのイメージが大きく異なっていた様だ。


「カイはいい奴だが、敵対してきた奴には容赦しないだろう。今ここにいない奴らにも言っといてくれよ。間違ってもカイには絡むんじゃ無いって」


 ブルが再度念押しする。

 

 ギルドに紹介された宿に部屋を取ったカイ。その日は部屋で装備の刀の手入れをして旅の疲れを取った。


「ここで刀が出るといいな」


 じっと刀の手入れを見ているクズハも尻尾を大きく振ってカイの言葉に応える。


 翌日、カイは旅の疲れをとるのと街の様子を見るために午前中はオースティンの郊外でランクBを相手に軽く体を動かした後、午後からは市内をブラブラとしていた。


 シノビの格好で肩にカーバンクルを乗せているカイの姿はオースティンの街では珍しく行き交う人の視線がカイに注がれるが全く気にすることなく街をぶらつくカイとクズハ。


 街の人に混じって冒険者達ともすれ違う、彼らもカイを見るが冒険者の間ではランクSになったシノビというのは通達で知っていて有名で、またこの街のNo.1パーティのブルらから話が廻っていたこともあり、彼らがカイを見る目は街人の好奇な視線とは異なり畏怖の視線だった。


 そうしてオースティンについて3日目の朝、カイはギルドに顔を出すと受付嬢に未クリアダンジョンの場所を聞き街を出てそこに向かう。


 市内の風景も郊外の風景もキアナ周辺とほとんど変わらず、整備されている街道を歩いて2日目の昼過ぎに目指すダンジョンが見えてきた。ここは3つの未クリアダンジョンの中で最も最近見つかったところで草原の中にポツンと入り口だけがありまだ宿もアイテム屋もない。


 入り口にいた衛兵にカードを見せるとびっくりされ、


「ハスリアのランクS。シノビの事は聞いていたがこのダンジョンに来るとはな。今は誰も入ってない、貸し切りだよ」


「ありがとう」

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