第73話 モンロビアへ その2


 そうして歩いていった2日後に一行は国境に着いた。時間帯がよかったのかほとんど並んでいない国境のゲートに着くと全員が衛兵にギルドカードを見せる、そうしてハスリアから出国するとそこから50メートル程先にあるのがモンロビアのゲートだ。


 モンロビア側のゲートで次々にギルドカードを見せるメンバー。最後にカイがギルドカードを出すと衛兵の表情が変わる。


「ランクS。あんたがシノビのカイか。通達は回ってきている。モンロビアにようこそ」


 カードを返してもらいすんなりとモンロビアに入国した。そうしてモンロビアに入り2日経った日の午後、街道の山道を歩いているとカイの気配感知に魔獣が引っかかる。


「左にランクBの魔獣2体だ」


 列の最後尾にいたカイの声で全員が戦闘モードになる。それを見たカイ。


「世話になってるから俺が倒してくるよ」


 そう言うと最後尾から一番前まで移動すると街道を先に歩き出す。すぐに左の森から

オークが2体飛び出してきた。と思ったら次の瞬間には2体とも綺麗に首から上を切られて地面に倒れる。


「…見えたか?カイの刀捌き」


「いや、構えたと思ったらもう鞘に刀をしまって、そしてオーク2体の首が跳ねられてた」


「なんて早いの」


 カイの戦闘を見たメンバーが口々に言う中、


「カイ、今のはお前の本気モードじゃないだろう?」


「ああ。相手がランクBだからな。本気を出す必要もないだろう?」


 声をかけてきたブルにあっさり言うカイ。それを聞いて残りのメンバーがお互いに顔を見合わせて、


「気配感知から討伐まで無駄がない。それでまだ本気モードじゃなくて流してるというのかよ」


 もう一人の戦士のスリムの言葉に頷くメンバー。その後歩いてると突然森に魔術を撃ったかと思うと森の中で叫び声を上げる魔獣の声がした。


「魔法の軌跡が見えなかった」


「私よりも威力がある魔法かも」


「イーグルも言っていたがあらゆるジョブを極めている感じだ。俺達じゃあ相手にならないレベルだ」


「ソロでダンジョンクリアしまくってるっていうのも頷けるぜ」


 魔獣を倒しても何もなかったかの様に街道を歩くカイに、


「カイの気配感知ってどれくらいの範囲まで有効なんだ?」


「狩人のサーチスキル程じゃないよ。500メートル位かな」


「それでも凄いよな」


「気配感知はスキルじゃなくて後から会得したものだから誰でも習得できるはずだ。普段から周囲に気を配る癖をつけておくと自然と身について使っているとその範囲が徐々に広がっていく」


「なるほど」


 街道を歩きながらのやりとり、頷きながらもブルは内心で


(ここまで戦闘に特化している奴は見たことがない。武器と魔法の威力に加えて気配感知能力。全てが普通じゃない。これがシノビを極めた姿なのか。俺達じゃあ到底足元にも及つかない。イーグルが言っていたのも頷ける。こいつはランクSじゃない、ランクSSいやSSSクラスの化け物だ)


 そうしてモンロビアに入国してから10日後の昼過ぎにオースティンの街の城壁がカイの目の前に現れた。外から見る感じではキアナと同じ様な城壁で、その城壁の長さからかなりの大都市であることがわかる。


 少し並んで城門をくぐってオースティンの街に入ると、


「やっと帰ってきたー」


「やっぱり地元は落ち着くわ」


 などと話している中、リーダーのブルが、


「カイ。先にギルドに顔を出そう。ギルマスを紹介しておくよ」


 全員でギルドに向かい、扉を開けて中に入っていく。


 ギルドのマークはどこも同じだ。盾と剣のマークを見つけるとブルを先頭にその扉を開けて中に入っていった。


「おっ、ブルじゃないか、久しぶり」


「どこに行ってたんだよ?」


 オースティンでトップを走るランクAのパーティは有名で次々にギルドの中にいた仲間から声がかかってくる。そうして最後にカイがギルドに入るとその視線が一斉にカイに向けられた。


「おい、あれ」


「ああ。初めて見たな」


「あれがシノビか」


「ランクSになったシノビってあいつか?」


「カーバンクルをティムしているって聞いていたが本当だったんだな」


 等あちこちのテーブルでカイを見ながら囁かれる声。そんな声を聞いてもカイは表情一つ変えずに他のメンバーと一緒に受付のカウンター前に行くとリーダーのブルが、


「ギルマスいるかい?」


「少々お待ちください」


 受付嬢は立ち上がると奥に行き、すぐに戻ってきて、


「こちらにどうぞ」


 案内されるままブルのパーティ5名とカイはカウンターの奥に消えていった。それをじっと見ていたオースティンの冒険者達、


「そういやブルの奴ら、ハスリアのキアナに武者修行に行ってたな」


「ああ。そこであのシノビと知り合ったんだろう」


「ランクSだからもっといかつい奴かと思ってたが、見た感じは華奢に見えたぜ」


 酒場で思い思いに話をしている中、ギルドが用意した会議室でブルらと待っていると、オースティンのギルドマスターのウィニーが部屋に入ってきた。クズハは例によってカイの肩の上で器用に横になっている。


「キアナから帰ってきたのか」


「ああ。今着いたところだ」


「皆元気そうだな」


 挨拶を交わしながらカイを見ると、


「ここオースティンのギルドマスターをしているウィニーだ、よろしく。君がキアナのシノビのカイだな。20数年ぶりのランクS。こっちのギルドにも報告が来ている」


 そう言ってウィニーが差し出してきた手を握り返し、


「キアナから来たカイだ。しばらくこの街に世話になる。よろしく」


「こちらこそ。歓迎するよ」


 全員椅子に座るとブルが、


「カイはハスリアで未クリアのダンジョン、それも高難易度と言われているダンジョンを片っ端から攻略している。しかも全てソロでだ」


 その言葉に片方の眉を上げるギルマス。ブルの言葉に続けて他のメンバーからも


「半端なく強いシノビだよ」


「ランクSに偽りはないわね。ひょっとしたらランクS以上かも」


 それらの言葉を聞いて、


「オースティンでNO.1を張っているお前達が言うから相当な実力があるんだろう。それでこの街でもダンジョンを攻略するのか?」


 聞かれたカイはアマミの使命について説明をする。話を終えると、


「そう言う訳であと1本、刀を探している。ハスリアのダンジョンはクリアしたのでモンロビアにお邪魔しにきた。ここになければローデシアに行くつもりだ」


 黙って聞いていたギルマスのウィニー。


「わかった。ここオースティンのダンジョンで未クリアになっているのは3箇所だ。職員から後でその場所を聞くといい。それと宿も決めてないんだろう?こちらで予約しておいてやろう」


「かたじけない」


 その後はブルらがキアナでの活動の内容をギルマスに報告するのを横で聞いていたカイ。話が終わると立ち上がり、ギルマスが


「探している刀が見つかるといいな」


「そう願っている」

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