第60話 フェスを目指す その2
そうして翌日の昼過ぎにカイの視界に目的地が見えてきた。他のダンジョンと同じ様に周囲には宿や道具や等の建物が草原の真ん中に建っている。
街道から外れてそれらの建物に近づいていくと石の壁で囲まれているダンジョンの入り口が見えてきた。入り口でギルドカードを差し出すカイ。カードを見る前にその格好でシノビのカイとわかっていたのか入り口にいた門番の衛兵はカイを見て、
「ランクSのカイか。このダンジョンに挑戦するのか?」
「ああ。これから潜ってくる」
「ここは未クリアだ。一番深く潜った冒険者はランクAのパーティで15層までだ。気をつけてな」
衛兵の言葉に軽く片手を上げるとカードを石盤に当てると中に入っていく。
「ランクAのパーティで15層までか。俺達も15層まで一気に駆け抜けるぞ」
しっぽを振るクズハを肩に乗せたままダンジョンの中を駆け出していった。
オーソドックスな洞窟形のダンジョンの中を駆け抜けるカイ。途中で遭遇する低ランクの魔獣は右手に持っている刀で倒しながらどんどん進んでいき5時間程で15層までクリアし、一旦地上に戻っていった。
「いきなり15層まで行ってるのか。噂通りのシノビだな」
ランクSのシノビ。その名前はハスリア王国内では冒険者や関係者の間では知らない者がいない程だった。前回の武道会で優勝してランクSになって以来その名前と実力はハスリア国内で広く広まり、ハスリアのみならず隣のモンロビア、ローデシアでも話題になっていた。
シノビという珍しいジョブのカイはその外見と相まって冒険者をしている者から見れば一目でわかり、カイを見た冒険者は彼をみると畏怖の視線を送る。
ただ畏怖の視線を送ってくる彼らにも知らないことがある。
1つはカイはランクSだが非常に人当たりが良い冒険者であること。これはキアナや王都の冒険者達の様に直接カイと話をしている者にはわかっている事ではあるがそうでない者達から見ればランクSというだけで距離を置いてしまう。
そしてもう1つはカイの実際の実力はランクSではなくランクSS以上であることだ。
ダンジョンのそばにある宿の部屋で刀の手入れをしながら
「明日からはクズハの出番だぞ」
任せとけと尻尾を振るクズハ。
翌朝ダンジョンの16層に飛んだカイとクズハ。15層からちらほらと見えていたランクAの魔獣が16層になるとメインになっているが、
「拍子抜けだな」
そう言うとクズハの強化魔法を貰って目の前の洞窟を進んでいくカイ。遭遇する魔物は刀1本で倒しながら進んでいく。そうして何の抵抗もなくあっさりと16層をクリアするとそのまま17層もクリア。
18層になるとランクAが洞窟の通路に4,5体固まっていてカイを見つけると魔法を撃ってきたりするが強化されているカイには全く効果が無く、そのまま止まることなく洞窟内を進んで19層に降りていった。
19層も今までと同じで洞窟のフロアになっている。分岐が多く普通なら迷うところだがカイは気配感知能力をフルに使って行き止まりを見つけ、それを避けながら通路を進み、途中で出会うランクAの敵を魔術と刀でさっくりと倒して進んでいった。
20層に降りる階段を見つけてその階段に向かって歩きながら、
(このダンジョンもハズレだったかもしれない)
そう思って20層に降りたったカイの目の前には今までの19層分とは全く違う風景があった。
「砂漠だ」
雲一つない空、目の前は見渡す限りの砂漠。道はおろか木1本すら生えていない。
階段に座ってボックスから取り出した水を飲みながら、
「これは初めてだな。ようやく楽しめそうになってきたよな、クズハ」
カイの隣に座って同じ様に砂漠を見つめているクズハの尻尾が大きく揺れる。
水を飲みながらしばらく見ていると砂漠の砂が盛り上がってそこから巨大なさそり、スコーピオンが姿を現した。ランクはSだ。スコーピオンは砂の中から出ると炎天下の中をしばらく進みそうして砂漠の丘の向こうに消えていった。
ニヤリと笑ったカイは立ち上がると刀を両手に持って、クズハが肩に飛び乗ると砂漠に歩みを進めていく。
歩き始めると一歩踏み出す度に足が少し砂にめり込む。なるほどこれは足元の動きに制限を受けると思いながらも数歩歩いただけで砂漠の歩き方を理解するとそれ以降はほぼ普通の歩き方で砂の中を進み始める。
身体能力のみならずあらゆる条件にも即対応できる能力はシノビとしては当然の事ではあるがそのシノビの中でもカイの対応能力は抜きん出ていた。
道のない砂漠を進んでいくカイとクズハ。上からは強烈な太陽の光が降り注ぎ、気温は40度以上になっているがドラゴンの鱗で作った防具にいるカイは常に常温状態で汗すらかかずに進んでいく。肩に乗っているクズハもどうやら全く暑さを感じていない様だ。もっとも食事すら取る必要がないクズハなので元々我々とは違う体の構造をしているのかもしれない。
そうして砂漠の丘の上に立つとその前方をみるカイとクズハ。一面砂漠で所々に魔獣が徘徊している。
そうして再び今度は砂の丘を降りていると前方の砂が盛り上がったかと思うと砂の中からスコーピオンが現れ、カイに遅いかかってきた。
砂が盛り上がる前からそこにいた魔物の気配を感じ取っていたカイは慌てもせずに両手に持った刀で襲いかかってきたスコーピオンの両方の爪を切り落とし、返す刀で首を綺麗に切断した。そして何もなかったかの様にクズハを肩に乗せて真っ直ぐに進んでいく。
その後も砂の上を徘徊していた大型の蜥蜴やスコーピオンを雑魚を蹴散らす様に進んでいくつかの砂の上の丘を超えた時に、前方にオアシスが見えてきた。
大きな池の周りにはヤシの木が生えている。魔獣を倒しながらオアシスについたカイ。池の中に魔物の気配がないのを確認すると木の根元の日陰なっている場所に座り込む。
「それにしてもこのフロアはずっと昼間なんだな。太陽の位置が変わらない」
座ったカイの横、地面に降りるとそこに座り込んだクズハの背中を撫でながら言う。
アイテムボックスから水を取り出して飲み、しばらく休憩すると
「さて行くか」
その言葉で肩にジャンプするクズハ。
立ち上がるとオアシスを抜けて再び灼熱の中、砂の上を歩いていく。その後も砂の中から出てくる魔獣を討伐して2時間程あるくと砂漠の中に石を積み上げた小さな小屋が見えてきた。近づくと扉は無く、その中には下に降りていく階段が見える。
そうして20層から21層に降りていったカイ。その階段の先は20層と同じ砂漠のフロアが広がっている。ただ、20層と違うのは太陽が大きく西に傾いている事だ。
「このフロアは太陽が動く様になっているんだな。今から攻略したら夜になるか。一旦戻ろう」
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