第47話 北の山 その2

 村にある宿に部屋を取って宿の食堂に行くと4人組の冒険者らしきグループが食事をしていた。シノビの格好のカイとクズハが食堂に入ると視線を向けて、


「シノビのカイだよな?ランクSの?」


「そうだ。王都からやってきた」


「俺達は王都所属の冒険者だ。ランクはB。俺はこのパーティのリーダーをしているウィルソンという」


 ウィルソンと握手をしたカイ。彼らの隣のテーブルに座って食事を注文すると、


「俺達はこの村の周囲に出る魔物退治のクエストでここに1週間いる」


「なるほど。この周囲だとランクはBクラスなのか?」


「そうだな。ランクBとCだ。まぁランクBクラスも単体で出てくるので討伐はできてるよ」


 聞くとこの村からは定期的に魔物の間引き依頼が出ているらしい。クエストの報酬が良いので冒険者に取っては人気のあるクエストだという。


「ところでカイはこの村に何か用事があるのか?」


「いや、俺の目的地はここじゃない。ここからまだ10日ちょっと北東に歩いたところにある高い山を目指している」


 その言葉を聞いてお互いに顔を見合わせるランクBの冒険者達。


「未開の山と言われているところだな」


 ウィンストンが口を開くとその仲間も


「ランクA以上がうじゃうじゃいるって言う話は聞いたことがある」


「だから行くのさ」


 食事をしていた手を止めて言うカイ。


「たしか、幻の刀を探してるって話だよな。それを探してかい?」


 カイは行く先々で刀の情報を取ろうと旅の目的を話していたので王都に所属している冒険者達はカイが刀を探しているというのは皆知っている。同時にカイが王都の武道会で優勝してランクSになったとてつもなく強いシノビだと言うのも知れ渡っている。


 男の言葉にカイが頷くと、


「なるほど、あの山とその周辺なら何かありそうだよな」


 その言葉に反応して顔を上げると


「何か知っているのかい?」


「いや俺達も聞いているだけだ。何でも山の麓辺りにいる魔獣でもランクAクラスで、山の奥にはきっとランクS以上のがいるだろうって事だけだ」


 1人がそう言うとリーダーのウィンストンも


「この村の連中も言っていた。村から北東に行けば行くほどやばいってな。だから村の連中もほとんどがここから北や東には行かないって話だ。カイが行く北東の山はこの村からでも見えるぞ。明日朝にでも見たらいい。歩く方角の参考になるだろう。ここから北東なんて道も無いからな」


「カイなら行けるんじゃないか、頑張れよ」


 そうして冒険者と話をしながらの食事を終えたカイは部屋に入り、いつもの刀の手入れをしながら、それをじっと見つめているクズハに、


「北東の山には何があるか、楽しみだよな」


 翌朝宿の部屋の窓を開けると北東の方角に高い山が見えた。周囲の山々よりもずっと高く一目でそれだとわかる。カイの肩に乗っているクズハを撫でながら、


「あの山だ」


 山を指差しているカイに尻尾を振って応えるクズハ。


 宿を出るとクズハを肩に乗せて山を目印に道なき道を歩いていく。最北の村から1日程度の範囲は冒険者が魔獣の間引きをしているせいか夕方まで魔獣に一切に出くわす事なく進み、野営をする。クズハの強化魔法の威力も増大しているのでランクB以下なら全く気にしなくても良い程だ。ランクAの相手でも恐らく大丈夫だろう。


 翌日の午後あたりからは魔獣を見ることが多くなってきた。ランクBがメインで単体、複数で俳諧しているが何の問題もなく倒しては進んでいくカイ。


 その夜はクズハの結界魔法の中でしっかりと休養を取り、夜が明けると再び北東を目指して進んでいく。


 そうして最北の村を出て7日目の夕刻、カイとクズハの前に山裾が見えてきた。よく見ると山は1つではなく高い山の手前に低い山が2つあり、奥の山に行くにはもう少し時間がかかりそうだ。目に見える範囲で山を覆っている木々は高く10メートル以上の木が山の斜面から真上に伸びている。


「この低い山裾でランクAが出てくるのなら奥にいるのはそれなりに強い奴だろう。楽しみだな」


 最初の山裾近くの安全な場所で夜を過ごした翌朝から山へのアタックを開始する。山裾に近づくと事前の情報通りにそこにたむろしている魔獣はランクAばかりだ。オークやトロルなどの獣人、虎、狼、猿などの魔獣が全てランクAだ。


 クズハの強化魔法を貰ったカイは無造作に山に入ると真っ直ぐに進んでいく。クズハはランクA程度なら問題ないと理解しているのかカイの肩に乗ったままだ。向かってくる魔獣、魔人を2本の刀と魔術であっという間に討伐しながら山を登っていくカイ。


 まるで戦闘などなかったかの様にその歩みが止まることはなく山の中を進んでいく。


 そうして最初の山の頂上に着くと目的地の山の頂がよりくっきりと見えてきた。目標の方向を確認すると今度は山を降りていくカイとクズハ。例によってランクAの魔獣、魔人がカイを見ると襲ってくるが何の抵抗もなく切り裂き、魔術で倒して進んでいくと1つ目の山と2つ目の山の狭間の谷に出てきた。谷の底の部分には細い川があり透明な水が山から麓の方に流れている。


 どうやら谷間は一種のセーフゾーンになっている様だ。周囲に敵の気配がないのを感じ取るとカイは掌で川の水を掬って口に運ぶ。


「美味い!」


 思わず声に出して言い、何度か口に運ぶとアイテムボックスにある水筒にこの川の水を入れて補充する。クズハは河原の石の上に座っては流れる川を見ていて…


「魚でもいるのかい?」


 そう言ってカイがクズハの視線の先を見ると川魚が2匹流れに逆らう様に上流に頭を向けて岩陰に留まっているのが見えた。カイが弱目の雷の遁術を唱えると痺れた魚が腹を上にして川の上に浮かび上がってきた。それを捕まえると、


「煙を立てたら見つかるか。まぁそれでもいいか」


 河原にある木を燃やして取れた魚を焼いて口にする。


「美味いな。やっぱり魚は焼いた方が美味いな」


 火を使い煙が出たが魔獣が近づいてこなかったのでカイは食事を終えるとこの場所で野営することにした。クズハの強化魔法の結界が張られた中で刀の手入れをしてから河原にある大きな岩に凭れるとそのまま目を閉じた。


 翌朝川の水で顔を洗ったカイ、ジャンプする様に飛び跳ねて川を5歩で渡ると2つ目の山に入っていく。


 2つ目の山の上りは相変わらずのランクAの魔獣、魔物でカイとクズハにとっては何の障害にもならず、行く手を邪魔する敵を倒しながら進んで2つ目の山の頂上に昼前に着くと、そこからは最終目的地である3つ目の山の全景が目の前に飛び込んできた。


 最後の山は今までの2つの山よりもずっと高く、木々は山の中腹辺りまでしか生えていない。そこから上は背丈の低そうな木々が生えてがおり、頂上付近は土肌が見えている。カイが見ている場所からは最後の山は木々と山肌しか見えず魔獣がいるのかどうかはわからない。


 しばらく見ていたカイは肩に乗っているクズハの身体をポンポンと叩いて、


「あそこに行けば何かいそうだな、クズハ。早速行こうか」


 カイの言葉に尻尾を振って応えるクズハ。

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