第46話 北の村

 その後1週間程カイは王都周辺の魔物退治で身体を動かし、王城でイレーヌと鍛錬をして過ごした。外よりもイレーヌとの模擬戦の方がカイにとっては鍛錬になる程にイレーヌの腕も上達している。既に大剣を持っていた時よりも今の片手剣の二刀流の方がずっと強くなっていた。


 そうして王都に来て3週間が経った頃の真夜中、カイは『Jim’s Bar』の扉を開けた。


 中にはこの前と同じくカウンターの中にジムが1人でいるだけだった。入ってきたカイを見ると椅子を勧め、その前に薄めの酒をグラスに入れて置く。


「ダンジョンクリアしたみたいだな」


「ああ。刀はなかったよ」


 短い返事をするカイ。


「ここに来る客、客と言っても殆どが王都をベースに活動している冒険者だが、奴らが言っていた。キアナから来たランクSのシノビがあっという間にダンジョンをクリアしたってな」


 カイはグラスに口をつけると、顔を上げて、


「正直ヌルいダンジョンだった。王都近郊のダンジョンはヌルいのが多いらしい」


「そりゃそうだろう。辺境のキアナと比べちゃあ可愛いもんだろうよ」


「そしてヌルいダンジョンのボスはしょぼいアイテムしか落とさないというのもわかった。それがわかっただけでも収穫だよ」


 カイの言葉を聞きながらジムは自分の酒を作って一口飲むと、


「となると王都近郊のダンジョンではない場所…そうなるな」


 頷くカイ。


「こっちもあれから調べてみた。どうやらカイの方針が正解みたいだぜ」


 例によってカーバンクルのクズハは俺には関係ないとばかりに椅子に座っているカイの腹の上で横になって寝ている。その身体を撫でているとジムが話だした。


 刀に限らず片手剣でも大剣でも業物、極物と言われるものはレベルの高いダンジョンのボスからしかドロップしていない。従いランクの低いダンジョンにはまずないだろう。

 

 それとダンジョン以外では地上にいるNMクラス、それも上位NMクラスからドロップしている事もある。


「そう言う情報が集まってきたんでな。それで今度はレベルの高いダンジョンと強い地上NMがいる情報を集めてみた」


 流石に情報屋としてアニルバンが認めているだけはある。依頼者の意図、動きを先読みして情報を取ってくる。カイが感心していると、


「まずダンジョンだが、ここハスリアだとやはりキアナ周辺に集中している。キアナ以外だと港町フェスの近くに2箇所あるらしい」


 フェスはキアナから2週間ちょと歩いたところにある港町だ。フェスの途中まで道を歩いたことがあるカイはあの辺りかと思って聞いている。


「ハスリア以外のローデシア、モンロビアについても少し情報が入っている。大体この辺がレベルの高いダンジョンが集まっているらしい」


 テーブルの下から地図を取り出して説明していくジム。その地図は素人目に見ても詳細な地図で街や街道、ダンジョンの場所などが明記されている。これほどの地図は王家か騎士団くらいしか持っていないはずだと思いながらも地図を指差すジムの説明を聞いているカイ。


「どの国も辺鄙な場所に多いな」


 カイの言葉に頷くジム。


「そうなるな。この地図はカイにやるよ。あると便利だろう?」


「貰ってもいいのか?かなり貴重な地図に見えるが」


 地図にはアマミの場所も正確に記載されていた。


「ランクS、いや実質ランクSS以上のカイにふさわしいものさ。それに俺は同じものをもう1枚持っている。気にするな。王家の紋章を見せてもらったお礼の1つだよ」


「かたじけない」


 そうして地図を見ているとジムの指が1箇所を指した。


「そして王都の北、北西の霊峰じゃなくて北東の方角にある高い山。ここに強い魔物がいるらしい。らしいというのは誰も山に入ってないからだ。以前ランクAの冒険者のパーティがこの近くまで行ったが山の麓でランクAがうじゃうじゃいてとてもじゃないが攻略できずに帰ってきている。ここなら山の中に高ランクがいそうだろう?」


「確かに」


 高ランクが集まっている場所ならNMがいてもおかしくない。高い確率で何かいそうだ。


「行ってみるつもりかい?」


「せっかく王都にいるんだからな、このまま北東に行ってみる価値はある」


「カイは知っていると思うが、王都から北にある街はここが最北だ」


 地図上の一点、村を指して、


「この村からでもカイの目的地までは1週間から10日はかかるだろう。たださっきも言ったがこの山を攻略した奴はいない。麓にランクAがいるから奥にはもっと強いのがいるだろうと推測しているだけだ。無駄骨になることだってあるぞ」


 ジムの言葉に頷き、


「ダンジョンを片っ端から潜ろうとしていたから同じさ。行って何もなければそれでも構わない。いずれにしてもそうやって虱潰しに調べるしかないと思っているからな」


「北東の山に行ってきたら帰りに寄ってくれ。話を聞かせて貰えるとありがたい」


「わかった。そうしよう」


 そうして店を出て宿に戻ったカイ。部屋の中で今し方ジムからもらったガランツ大陸全土の地図を広げて見ながら


「無闇に大陸の中をウロウロしなくても済みそうだな。このまま北東に出向いて、それから王都経由でエルフの森、そして一旦キアナに戻ろう。その後はフェスに行くか他国に行くか考えよう」


 カイの言葉に尻尾を大きく振って同意するクズハ。そのクズハを抱え上げると、


「また野営だぞ」




 翌日まずは王城に行き、イレーヌに王都の北東の森に行くので暫く鍛錬はできないと話を通した。話を聞いたイレーヌ、


「カイと鍛錬出来ないのは残念だが、そう言う事情であれば仕方がない。また王都に戻ってきたら鍛錬の相手を頼む」


 次はギルドに顔を出しギルマスに行先を言う。ギルマスには先日北に行ってみると言っていたが、これから向かうと仁義を切るとその足で王都を出て北の村を目指して歩き出した。


 北に向かう街道も基本は冒険者達によって魔物が排除されているので比較的安心ではあるが、たまにランクBクラスの魔物が街道近くにいることがある。魔物の気配を感知するとそのたびに街道から外れて魔物を退治しては北に進んでいくカイとクズハ。


 途中の宿もない村では村の敷地内に泊まらせてもらいながら北に進むこと5日目、カイはハスリア王国の最北端にある村に着いた。

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