第26話 王都武道会 決勝

 翌日の決勝戦は昨日以上に観客が入って王立武道場は立錐の余地もない程観客で埋め尽くされている。


「国王様ご入場」


 その声がすると観客は一斉にその場で跪き、国王とその取り巻きが席についてようやく皆顔を上げた。


 その頃カイは控室でカーバンクルのクズハと一緒にその時を待っていた。


 普段と同じく焦りも興奮もなく、平常心でその時を待つカイ。これもアマミの厳しい訓練で身につけた強い精神力があればこそだ。


 じっとカイを見つめてくるクズハに、


「ああ。今日もクズハは見ておいてくれ。俺が一人で決着をつけてくる」


「そろそろお時間です」


 職員の声に立ち上がると肩にカーバンクルを乗せて控室を出て会場に向かう。


 会場に入るとクズハは肩から降りてカイの前をちょこちょこと歩いていき、階段の下までくるとそこに座って主人を見つめる


「じゃあ、行ってくる」


 そう言ってクズハの頭をポンポンと2度ほど叩き、階段を上がって会場に出るカイ。


 カイが会場に上がると大歓声があがり


「あれがシノビのカイだ」


「俺は昨日も見たけど、めちゃくちゃ強いぞ」


「そうだとしてもイレーヌには勝てないだろう」

 

 観客席でそんな風にあちこちで話をしている中、反対側から騎士の装備に身を包んだ金髪の女性が現れた。


 カイの時とは比べ物にならないほどの大歓声が会場を包む。


 カイは階段を上がってきた女騎士をじっと見て


(なるほど。運だけじゃないってのは本当だな。相当できる)


 一方のイレーヌもカイを見て


(近くで見ると尚更よくわかるな。あのシノビが只者ではないということが)


「王国守備隊隊長、イレーヌ」


 呼ばれると割れんばかりの拍手が起こる


「シノビ、カイ」


 こちらにも相当の拍手が


 イレーヌが剣を持って2、3歩前に出ると、カイも両手に刀を持ち、同じ様に3歩前にでる。


「流石にイレーヌ相手だと最初から抜刀するか」


「そりゃそうだろう。それにしてもお互いに相手を認めてるな」


 観客席でゴメスとバーセルが会場に視線を向けたまま言葉を交わす


 審判が開始の笛を吹くと会場は大歓声が沸き起こった。その中カイもイレーヌも同時に相手に向かっていきそして会場の中心で両者がぶつかった!


 剣と刀がぶつかり合うものすごい音が数度したかと思うと、両者が同時に背後に飛ぶ。


「すげぇ迫力だ」


「ぶつかったと思ったら両者引いたぜ」


 普通の観客にはカイとイレーヌの剣と刀の動きは全く見えていなかった。


「おいバーセル、今のお前見えたか?」


「いや、俺が見えたのは最初のぶつかり合いだけだ。その後は全く見えなかった」


「お前もかよ、俺も見えない。何回剣と刀がぶつかったのかすらわからん」


 それにしても、とバーセルが言い、続けて、

 

「イレーヌが戦闘で後ろに引いたの、初めてじゃないか」


 バーセルが言うと、


「そういやそうだ。あいつが後ろに下がるのは初めてだ」


「それ程の腕前なのか、カイは」


「ああ。そうなる」


 短い言葉のやりとりでこの2人は目の前の会場で戦っている2人、カイとイレーヌには到底追いつけない、レベルが違いすぎると実感していた。


(刀の鋭さそして早さ重さ、全てが想像以上だ。この私が後ろに引かざるを得ないとは)


 中央でぶつかり、自信を持って振り下ろした大剣を左手に持った小太刀で受けたかと思うと右手からもう1本の刀が正確にイレーヌの首筋を狙ってきた。


 身体を拗らせてかろうじてその刀を受け止めるとすぐに左手の刀が首筋に襲いかってくる。それもなんとか受け止めたが次は無理だと瞬時に判断し、背後に飛ばざるを得なかったイレーヌ。これが長い大剣じゃなく普通の片手剣なら既にやられていただろう。


 一度の刃合わせで既に息が上がってきている。


 一方正面にいるシノビは戦闘が始まった時と全く変わっていない様に見える。


(隙がない。このままではジリ貧になってやられる。どうせやられるなら仕掛けるしかない!)


 イレーヌは再び中カイに向かっていく。


 カイは引いたその場で向かってくるイレーヌを動かずにじっと見ていた。


 そうしてイレーヌが剣を横払いにして斬りつけてきたそのタイミングで左手に持った小太刀を手首のスナップを効かせて大剣の刃に刀先を当てて上に払うと、イレーヌの大剣が手から離れて飛んでいく。


 イレーヌがしまったと思ったその時には自分の首筋にもう1本の刀の先が突き立てられていた。


「…参りました」


 その場で跪いたイレーヌが言う。


「勝者、カイ!」


 今までで最大の盛り上がりを見せて、大歓声が上がる。


「やっちまったぜ、あのシノビ」


「イレーヌの剣を弾き飛ばしやがった」


「どれだけ強いんだ」


 観客が口々に思った事を言ってる中、カイはイレーヌに手を伸ばす。そしてイレーヌの差し出された手を掴むと彼女をその場から立ち上がらせた。


「いい剣筋だ。3年連続優勝は伊達じゃない」


「完敗とはこのことだな。想像以上だった」


 お互いを称え合い、会場の端にそれぞれ分かれると、イレーヌは騎士の正式な礼をし、カイは首を垂れるアマミの風習に則った礼をする。


 階段を降りるとカーバンクルが飛びついてきた。その頭を撫でながら


「強かったよ。でも勝ったぜ、クズハ」


 そう言って控室に消えていく。


「凄い戦闘だったな、バーセル」


「ああ。2度目のぶつかり合いも見えていた奴はほとんどいないだろう」


「これでカイがこの国のナンバー1になったか」


 カイとイレーヌが下がったあと、会場にいる司会者がカイが今年の優勝者となったことを報告し国王陛下が会場の観客に向けて


「今年の武道会も無事に終わってなにより。ハスリア王国は全ての国民に門戸を開いておる。来年も新しい者が多数この武道会に参加することを余は望んでおる」


 そうして国王一行が武道場を後にし、それから観客が順に会場から出ていった。


 控室で座っていたカイの所にしばらくすると職員がやってきて、明日の午後に王城に来てもらい国王の前で勝利の報告を行い、それから報酬がもらえるという説明を受けた。

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