忍(シノビ)無双

花屋敷

第1話 旅立ち

 ガランツ大陸の東側を治めている広大な国土を持つハスリア王国、その王国の南にそびえる大きな山脈の麓一帯は辺境領と呼ばれており王国内の一地域である。その辺境領内の最大の都市であるキアナから10日程東に歩いていくとアマミという人口5,000人強の街というにはやや小さく村というには大きい街がある。


 アマミの村はこの大陸の中でも異質の文化、風習を持っていてそれを代々継続してきていた。はるか昔、東の海の向こうからやって来たと言われているアマミの人々は決して閉鎖的、排他的ではないが、大陸の他の街とはあまりに異なる特殊な文化の為に過去からアマミに移住してくる人は多くはいなかった。そして大陸に住んでいるアマミ以外の人たちはアマミのことを昔からこう言っている。


 曰く、黒髪、黒い瞳の人を見たらアマミ出身者だと思え。

 曰く、アマミの人は家の中では靴を脱ぐ。

 曰く、アマミの人は全て刀という武器を使う。

 曰く、アマミの人は皆シノビ(忍)となる。


 そして曰く、シノビを極めたアマミの人は地上最強の戦士となる。


と。



 その街、いや住んでいる人は村という。その村の一角にある大きな屋敷の裏の庭では2人の男が向かい合い、刀の形をした木刀の二刀流がぶつかる音が絶え間なく聞こえていた。


 屋敷の塀沿いには”サクラ”と呼ばれる木が沢山生えていてそれが綺麗なピンク色の花びらを咲かせている。


 サクラはずっと昔にアマミに移住してきた人々が持ちこんだ木でこのガランツ大陸でもここアマミとその周辺にのみに生えている木だ。


 向かい合っている1人は40過ぎの男、もう1人はまだ10代後半に見える青年。お互いの二刀流の動きが見えない程に早く、激しく木刀がぶつかりあう。

そうして木刀を撃ち合った二人が離れると


「今日はここまで」


「ありがとうございました」


 お互いに一礼をして広場にある仕切り線から離れる袴姿の両者。


「今日は攻撃、防御とも見事であった。もうお前に教えることはなさそうだ」


 師匠のクルスが目を細めながら褒めると


「ありがとうございます」


 吹き出る汗をタオルで拭きながら若者が答える。


 若者の名はカイ。このアマミの街で育った17歳の男。

街の入り口に赤ん坊として捨てられていたのをクルス夫妻が養子として育て上げてきた。


 本当の子供の様に可愛がってきたカイの成長を喜んでいるクルス。普段は普通の親子の口調で会話をする二人だが鍛錬の時は師匠と弟子の関係になり、カイも育ての父に対して敬語を使う。


 鍛錬が終わり屋敷の縁側に並んで座る2人。夕陽が広い屋敷の庭に差し込んでいてサクラの木々の長い影が鍛錬をしていた庭に伸びている。


 クルスはタオルで流れ出ている汗をぬぐうと、


「そろそろここを出ていってもよかろう。今のお前なら大抵の魔物は苦もなく倒せる筈だ」


 その言葉を聞いて目を輝かせたカイ。

 

「では、いよいよ幻の刀と小太刀を探す旅に出てもよいと?」


 その言葉に頷いて


「ああ。もう大丈夫だろう」

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