第37話 山吹・宝石箱

幾つもの出会いがあって、たくさんの別れがあった。

あの日からどれくらいの月日が流れたのだろう。

私は今も考えないようにしている。

それでも、私の姉の娘は今年大学をを卒業する。

私の心根とは関係なしに、時間だけが通り過ぎていく証拠だ。

記録として残る時間の記憶は、時に無慈悲だ。

今年もまたあの日が近付いている。

今でも思う。


「夏なんて、なくなってしまえば良いのに」


と。

それは、記憶が呼び起こされてしまう苦痛に私自身が耐えられないからで、自発的健忘症は完全な病ではないのだ。

しかし、時間の流れは新たな生きる術を与えてもくれた。


「記憶は想い出として塗り替えられる」


あのふくよかな女性が教えてくれたことだ。

手狭な庭が、山吹色に染まりはじめている。

冷たい麦茶を私は飲み干して立ち上がった。

今年の4月に植えた鳳仙花に、たっぷりの水をやらなくてはならないからだ。

もうすぐ花を咲かせてくれるだろう。

楽しみだ。


妻と娘と私の想い出。

家族で買った風鈴が、風に揺らされて優しい音色を響かせていた。

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