第20話 鮫島結城というフィルター
私が学生時代に、足しげく通っていた南九州のちいさな映画館・トトの映写技師はとても美しく、ツインテールがよく似合う女学生だった。
ミスター・グッドバーを探してを観終わった後で、ホールで時間を潰していた私に彼女は「ご機嫌いかが?」と、声をかけてくれた。
色白の額に浮かぶ血管が妙に艶めかしくて、学生服のまま、俯き加減にペプシコーラを飲んでいた私は、緊張のせいか何も言えないでいた。
それでも、常連客として認識されていたから、彼女はどんな映画でも私に見せてくれた。年齢制限などなかった。
当時、話題になっていた村上龍のトパーズを読んで、その生々しさに気分が悪くなったことをひた隠しにしながら。
「映画化されて欲しい小説ってある?」
という彼女の問いに。
「トパーズ」
と、答えた童貞だった私は、さぞかし滑稽に映っただろう。
あの頃と比べたら、私も相当歳を重ねたように思うし、見てくれを気にする人生を棄てた身として言えた立場ではないが、戻れるのなら、映写技師に君は素敵だよと告白しておきたかった。唯一の心残りの解消法として。
人生に何の意味を見つけるというのか?
死にたがりの出来損ないは、萎れた向日葵のように眠ったままでいる。
恋をしないのか?
浴びるほど酒を飲んで後悔もしないのか?
恥辱まみれの生涯。オマエ越しに見える世界は、色褪せたピンク映画のようにエロチシズムでスリリングで飴細工のように繊細で素晴らしいぞ。
「起きろよ。朝だ」
鮫島結城の肉体が創り出す、真実のドラマを私に魅せてはくれないか?
死ぬにはまだ早い。
オマエがいなくなるということは、私も消えるということだ。
そう、捕虫器の蟲みたいに。
「起きろよ、朝だ」
人生の始まりには選択肢がないというが、切り開くのはオマエだ。
勇気がないのなら、私が夢を見せてやろう。
それからでも遅くはない。
「起きろよベイべー、私の愛おしい存在・・・最高のオナニーを見せてくれ」
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