第26話

 だとしたのなら……二人とも知っていてその日を意図的に選んだという事だろうか……?


『そうだ。……主の思う通りにでもあるな。その日は色々魔法的に偽装しようと思えばしやすいのもある。それは知らずに選んだのだろうが……結果的に功を奏したのだろう。


 そう告げてから、苦笑するような気配をアストラから感じた。


『主は寮の自室から抜け出すとき常にで身を隠していただろう? だからこそ誰も気が付かなかったのだし何処に居るのかも把握できはしなかった。基本的に自室に居ないなど誰も思わなかったのだから……それらも主に幸運を招いたのだろう』


 確かにこっそり出かける時は、バレないようにその前の生から私の体内にある宝物の力を使っていた。

 おかげで見つからずに寮の屋上へと行けたのだ。


 誰からも見つかりたくない時はこっそり構内であれば使ってもいた。

 思うだけで姿を隠してくれるのだから本当に簡単に出来たのだ。


 そうだった。

 私は……見つからないようにしながらアイオーンを良く視ていたと思う。


 単純に心配だったからなのだ。

 中等部から大学部までは全寮制だからなのも理由の一つだった。

 アイオーンの立場が立場だったからこそ気が気ではなくて……


 中等部からは学校は一種の独立機関のようになるのだ。

 独自の自治にそれらをまとめる生徒会。

 中等部と高等部は同じ構内にあるのも不安要因だった。


 アイオーンが……彼が害されないかが気にかかっていたのだ。

 だからといって皇太子の婚約者である私が下手に動くのは非常にまずかった。


 あの当時の学校内は異常だったと思う。

 よくある乙女ゲームさながらだった。


 けれどそれに救われていたのも確かだ。

 皇太子の側で常に侍る女生徒がいたからこそ本当に助かっていた。


 だから私は初等部より中等部。

 中等部より高等部の時の方がより良く自由に動けたと思う。


 ――――けれどだから分からない。


 アイオーンもフィーニス様も私に関心は無かったはずだ。

 段々顕著になっていって高等部の頃にはあからさまだった。


「やはりおかしいわよ……フィーニス様を裏切ったことなど無いし……あれ程憎まれる理由は――――」


 そこまで言ってから言葉に詰まった。

 考えてみれば答えは出るのだ。

 当時は鈍くて愚かな私は全てには気が付けなかったけれど、物語を思い出した今は……

 あの方の置かれていた環境が正確に見えてくる。

 私の当時感じていた諸々と物語との設定から導きだしたものは……フィーニス様は私をとても憎らしく思っていただろうということ。


 元々、私はあの方を憎いとは思った事が無い。

 あの方の立場を思えば全て仕方が無いと当時もそう思っていた。

 人生を多く重ねたからこそ、まだ幼いあの方を放ってはおけなかったのも大きい。


 ――――婚約式で誓った事が……果たせなかったのが心残り。


 私は間違えた。

 致命的に間違えたのだ。


 最期に目にしたフィーニス様の表情と、思わず独り言ちていらした言葉を忘れることなどできはしないから。


 ――――やはり私は罪人でしかないらしい。


 償おうにもフィーニス様はもういらっしゃらないのだろう。

 彼が……アイオーンが皇帝になったという事は……

 では物語通りに――――弑されたのだ。


 ――――アイオーンの手によって……


 これ以上は考える事が出来なかった。

 何かがあふれて止まらなくなりそうで怖かったのもある。

 ……私はどうしたら良いのかが分からないのだ。

 いつも選択を誤っている気がする。

 必ず間違えてはいけない所で間違えている気がするのだ。


 思考を逸らす様に前世での双子の妹の事を考えた。


「グローリアはどうしてあの人の手引きをしたのかが本当に分からない……それともアイオーンの事を抜きにして私はあの娘に……妹に疎まれていたという事……?」


 常に私を伺う様に見詰めていたのを思い出す。

 引っ込み思案でおどおどしている姿ばかりが脳裏に過る。

 人付き合いも苦手で私の後ろに隠れてばかりいた。

 ――――そんなあの娘が……アイオーンの事を必死に私に頼んだのだ。


 私は……どうしたら良かったのだろう……?

 アイオーンに近づいた覚えも無い。

 あの娘を貶める人達から庇った事はあれどイジメた事も蔑ろにした事も無いのだ。

 ……他に何が……何が出来たのだろう……?


 厳しく言い過ぎた……?

 母親がいないのだから姉の私がと……出しゃばりすぎてやりすぎたのだろうか……?


『主、その、だな……人の機微には疎いのだが……当時の主の双子の妹は主に甘え過ぎていたのではないかと思う。すぐに主を頼り盾にして、自分にとって悪い事があると主の所為だと逆恨みばかりしていたように感じた。――――この件も逆恨みだ。主は甘すぎるうえ自己評価が低すぎる。自分に非があったのではとそればかりではないか。――――不敬を承知で言わせて頂く。主は一切気が付いてはいなかったが……アイオーン様は常に主を視線で追っていた。かの方に想いを寄せていた者ならば誰もが気がついたのではないだろうか。強いて罪の所在を問うのであれば…罪があるのはアイオーン様も同様だろう。主同様本人さえ気がつかぬ無意識に視線で追っていたのさえ咎めるのであれば……だが』

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