まほろば

ヨル

まほろば

自分の居場所を求める。

過ごしやすい場所を探す。

気付けばここは人の欲と情に塗れてとてもまほろばとは言えないだろう。


それでも雑踏の中に紛れてあなたに辿り着く。

私もまた、この背景の一人に過ぎないのだから。

今夜だけの関係を、口づけで誤魔化してシャワールームに消える。


午前25時の都心。向こう側であなたは何を思う?


もう帰れないし、帰しはしないから。

あなたから「好き」は聞いてないし、滅多に履かないハイヒールのせいで足は痛いし、この関係も関係と言えるほど時間が経ったのかわからないけれど、私達は今日、裸だった。


あなたのことで知らないことは、裸のまま今知りましょう。もっとこのままでいましょう。

この先なんてないと、果ててしまったら元の他人へ戻ることなんて知らないでいよう。

辛気臭いことばかり考えていたらつまらないよと声にならない声が何よりもうるさい。

そんなことを知ってか知らずかあなたは私をベットに誘う。


私の上で仰け反りどこまでも淫らに踊ってみせた。

汗ばみ、力の入る指先とあなたの髪の匂いが強烈に私を煽る。


今だけはあなたのことで精一杯のはずが何故か気持ちと体が不釣り合いだ。

そもそもどうして気持ちと体を競わす?

こんなことをしていても、私は満たされず不安になるだけで、欲に溺れる心は寂しいだけだと訴えている。

これ以上を知らないのにこれ以上を望んでいる。

私は一体何をを望んでる?なんて言って欲しい?

自分で蒔いた種なのに、なんでこんなことを考えている?

そういう自虐的な趣味だとしても、本当はあなたの事も、私自身のことも見失っている。


あなたの昔のことなんて知りたくもないけど、でもきっと強いひとだからって振られたりしたんでしょう。


そんな話をする日が来るとは思えないし、私の心は寂しさを増すばかりだけれど、それでも今を楽しみましょう。

こういう時の決まったセリフだけが聞こえていたらいい。

雑音がうるさい。

私の我儘なんて知らなくていい。

聞こえないはずの声が一番しつこくて涙が出るほどに集中できない。


それでも今は、一緒に裸でいましょう。

この部屋に明かりが灯るまで、まほろばの夢をみて。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

まほろば ヨル @0317asa

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ