第6話 初めてのワープ

 早速行動を開始する。

 まずはこの亜空間から脱出しないといけない。

 そのためのスタードライブ航法なのだろう。


「スタードライブ航法起動。空間座標指定、相対誤差修正10ヒトマル。空間転移回廊展開」


 スタードライブ航法が起動した時、特殊なレーダーが起動する。

 その中でも、自艦を中心としたゆがんだ空間が出現しているのが確認出来た。


「亜重力子機関出力93%、なおも増大中。重力圏安全確保。転移準備よし」


 レイズが空間転移の準備を終える。


「祐樹さん、いつでもいけますよ」

「では、ワープ!」


 黒島の言葉と共に、レーダーに変化が見られた。

 自艦を中心として、3次元の空間が袋状に回転し巻き取られる。

 そして、袋状になった空間が独立するように移動を開始する。

 数秒後には、別の空間へ貼り付けられる。

 そして、ワープ開始とは逆になるように、空間が復元されていく。


「空間転移完了です。お疲れ様でした」

「なんかあっけなかったですね」

「実際こういうものですよ、ワープって」

「はぁ……」

「それよりも通常レーダーを見てください」


 そう言われて、黒島はレーダーを特殊なものから通常のものに切り替える。

 すると、目の前には何百もの艦艇がいるのを確認した。


「今0.01光秒圏内にいる艦艇すべてが黒の艦艇に属する艦になります」

「こんなにたくさん……」

「その中心にいる大きな艦船が見えますか?」

「なんか他のに比べて、ものすごく大きいですけど」

「あれが黒の旗艦である、トランス・ボーダーという艦です」

「なんか人の名前っぽいですね?」

「それもそうですよ。流浪の民に属する艦艇は、みな生体艦長の名前で区別されるんですから」

「そうなんですか?」

「そうなんです。つまり、紅の旗艦は私の名前であるレイズ・ローフォンで区別されるんです」

「へぇ……」

「こんなこと言ってる場合ではないですね。今なら白の旗艦の護衛もいないようですし、早いところ黒の旗艦に接触しちゃいましょう」

「分かりました」


 そういって、黒島は艦を前進させる。

 それから少しした時、レーダーに反応した。


「黒の艦艇群からの反撃です。これくらいなら問題ありませんね。速度を上げて対応しましょう」


 レイズからのアドバイスである。

 黒島はそれに従うように、速度を上げた。

 しかし速度の調整が難しいのか、少し速度を上げすぎたようで、あっという間に黒の艦艇群の中に突入する。


「うぐっ……」


 速度を上げすぎたことも相まって、慣性の法則に従い体が持っていかれそうになった。


「速度超過に気を付けてくださいよ。いくらイナーシャルキャンセラーがついているからと言っても、限界はあるんですから」

「気を付けます……」


 黒島は速度を調整して、黒の旗艦へと接近していく。


「ところで、どうやって黒の旗艦に乗り込むつもりなんですか?」

「突貫です」

「え?」

「黒の旗艦に向けて突撃します」

「正気ですか?」

「他に方法がありませんから」

(意外と脳筋だな、この人)


 そう、黒島は思った。

 しかし実際に他に方法がないため、こうするほかないだろう。


「では私の合図と共に、全砲門を一点に集中砲火してください。この艦の能力なら問題なく突破できるはずです」

「分かりました」


 もう少しで、黒の旗艦に突撃するころであった。


「今です。全門斉射!」


 レイズの合図と共に、黒島は主砲を射撃する。

 主砲は、黒の旗艦目掛けて一直線に伸びていく。

 そして、着弾した。

 すると着弾箇所に、わずかに穴が空いているのを確認する。


「あの穴に向けて突撃です!」


 黒島は方向を調整しながら、穴に向けて突撃する。

 艦の外装を擦る形で、紅の旗艦は黒の旗艦の内部へと突入した。


「よし、まずは第一段階完了です」

「それで、次はどこに向かうんですか?」

「それもそうなんですけど、どうやら突撃は想定されていたみたいですね」


 黒島が外の様子を確認してみると、内部は真っ暗であったものの、そこら中に警備艇のようなものが浮かんでいるのを確認した。


「対空射撃!」


 黒島は慌てて攻撃を開始する。

 紅の旗艦に装備されている無数の対艇機銃が反応し、警備艇を次々に撃墜した。

 急な出来事であったため、黒島の心臓はバクバクしている。


「警備艇はあらかた倒しましたかね?では次の作戦行動です」

「次はどうするんです?」

「最寄りのドックに向かいましょう。そしたら近くに情報交換用のケーブルがあるはずです」

「ここはドックではないんですか?」

「……そうですね。ここはドックみたいです」

「んな適当な……」


 しかし、黒島は見たことない場所であるから、レイズの指示に従うしかない。

 とにかく、情報交換用のケーブルを探す。


「えっと、確かこの辺に……、あった」


 ケーブルを探し出すと、作業用アームを取り出し、黒島が操作する。

 そして、それを専用の場所に刺す。


「よし、黒の旗艦の情報を認識しました。これから黒の旗艦の生体艦長に会ってきます」

「その間俺は何をしていれば?」

「とりあえず、周囲の警戒ですね。ケーブルを破壊しないように注意してください」


 そういって、レイズは黒島の前から消える。

 レイズはケーブルを通って、黒の旗艦の情報内部にアクセスした。

 数多の情報の中から、トランス・ボーダーのいる場所に関する情報を集めているのだ。

 そして発見する。

 レイズは、トランスのいる場所にアクセスした。


「……ここまで来たか、裏切り者のレイズよ」


 そこには、筋肉が隆々としている初老の男性が立っていた。


「裏切り者ではありません。私は私の意思によってここにいるのです」

「それは関係ないだろう。なぜ裏切った?」

「裏切ってなどいません」


 そのような押し問答を繰り返しているうちに、トランスはあることに気が付く。


(……内部情報が書き変わっている?)


 自身の内部情報が変化していることに気が付く。

 そしてそれは、トランスの意識にまで広がっていった。


「ぐ、何をした……!」

「私は私の役目を果たす、それが私の意思です」


 その時、トランスはあるものを見る。

 レイズにある男が重なっているように見えたのだ。

 そして、トランスの意識は一瞬落ちる。

 しかし、直後にトランスは起き上がった。


「お前さんのやりたいことが分かった気がしたよ、レイズ」

「トランスさん……」


 この時レイズは確信する。

 トランスはレイズの味方になったのだと。

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