異次元無双の紅き艦

紫 和春

第1話 ガラス玉にはご注意を

『第4次攻撃艦隊、全滅』


 このような文字が踊るスマホのニュース。

 黒島祐樹は学校からの帰りに、スマホを使ってニュースを眺めていた。


「はぁ、こりゃ人類滅亡も待ったなしかなぁ」


 そういって、黒島は夕暮れの空を見上げる。

 衛星軌道上に存在する敵の宇宙船がゆっくりと上空を移動していた。


 ――西暦2074年9月、人類は究極の危機に陥っていた。

 それは、公式記録としては初めてとなる、地球外知的生命体と思われる存在との接触である。

 人類と知的生命体が接触したのは、約5か月前の西暦2074年の4月であった。この時は地球を取り囲むように接近してきたのである。

 国連はこの存在を隠すことはできないと判断した上で、接触当初は攻撃の意図が見られないとして攻撃をしないように各国に要請を出した。

 その上、米国主導でこの知的生命体に対して対話などを行う使者を送ることにした。

 すぐに準備が整えられ、ロケットが打ち上げられ、知的生命体の機体に近づく。

 しかし、ここで思わぬ誤算が生じる。知的生命体の機体からビームが照射され、使者を乗せたロケットが爆散する事件が発生したのだ。

 これ以降は何もしなかったものの、この事件をきっかけに、世論は混乱を招いた。

 人類に敵対すると主張するグループとそれに反対するグループ。また今後も状況を静観するグループや、人類に非があるとするグループなど、とにかく大量の意見が噴き出した。

 とにかく現状は何もないのだが、今後もそれが続くとは限らない。そのため国連では、この知的生命体を敵と認識して、攻撃を行うように勧告を行った。

 これに真っ先に反応したのがエジプトであった。エジプトは数年前に、大気圏外まで届く地上発射型の大型ミサイルを購入して、その試験をしようと考えていたからだ。

 早速ミサイルを使った所、一時は命中したかに思えた。しかし現実には、ミサイルは敵の対空防御によって、完全に無力化されていた。そして、報復攻撃をするように、エジプトの首都、カイロに質量爆弾のようなものが投下され、エジプトは壊滅的な被害を被った。

 その後、日米露中を中心とする初の国連軍が結成され、一致団結して敵に攻撃を加えようとした。しかし、連合軍はあっけなく敗走し、以降幾度となく攻撃を加えるものの、成果をあげられずにいたのだ。


 ――このような経緯もあり、黒島の中では、ほとんど諦めのようなものがついていた。


「これで人類も終わりかぁ」


 そんなことを呟いているときだった。

 黒島は道端にあるものが転がっていることに気が付く。


「これは……、ガラス玉?」


 そう、手のひらサイズはあろうかという大きなガラス玉であった。

 どちらかというと、典型的な占い師が持っているような水晶玉である。

 それが道に落ちているのだ。不思議以外の何でもないだろう。

 黒島は、それを無視しようとも考えたが、なぜか視線を外すことができない。

 そして、黒島の意思とは反対に、勝手に手がガラス玉に伸びていたのだ。

 少しずつ近づく手。そして手がガラス玉に触れた。

 その瞬間、黒島の視界いっぱいに光が溢れた。


「うわっ!」


 黒島は思わずまぶたを閉じる。

 急なことであったものだから、尻もちをつきそうになったが、地面とば別の感覚が襲う。

 なにかソファに座ったかのような感覚である。

 黒島はその感覚に驚きつつも、ゆっくりと目を開ける。

 するとそこは、薄暗い機体の中のようであった。

 何か計器類のようなものが見える。

 黒島は、周囲を見渡す。その時にも、違和感のようなものを感じた。

 それはすぐにわかる。自分の荷物が浮いているのだ。

 その瞬間、黒島は若干パニックになる。


「えっなんで?ここはどこ?」


 しかしすぐに、ハタッと気が付く。

 ここでは呼吸ができる。そこまで深刻な状態ではないことに気が付いた。

 その時、黒島の目の前に、何か光のようなものが現れる。

 するとそこに向かって、どこからともなく先ほどのガラス玉がやってくる。

 そして、そこに吸い込まれるように入っていった。

 するとどうだろうか。

 計器類が息を吹き返したように、色とりどりの色彩を放ち始める。

 そしてどこからともなく、謎の女性が現れたではないか。


「だ、誰?」


 黒島は思わず尋ねる。

 その声に反応するかのように、声が響く。


「dabo ishdo uare fqo ngeo ......」

「へ?」

「Setting up the audio......」

「なんて?」

「音声設定中……」

「に、日本語?」

「あ、ようやく聞こえた」


 女性はそういって、黒島に相対する。


「初めまして。私はレイズ・ローフォン。このあかの旗艦の生体艦長です」


 そう女性は自己紹介した。

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