第40話「里親さん」

 ネコのポスターを張りまくってから数日。

 母さんの元へ一本の電話が入る。

 

 その声はたどたどしい女の子の声で、どう聴いても小学生くらいの子が一生懸命にネコがほしいということを訴えていた。


「はい。わかったわ。今はポスターのあるスーパーから掛けてきてくれているの? うん。お母さんはいるかな? 代われる?」


 しかし、女の子から帰ってきた返事は、


「お母さんには内緒なの? う~ん、それじゃあ、お母さんとちゃんと相談して、しっかりと飼ってもいいってなったらまた電話ちょうだい。ねっ」


 そうして母さんは電話を切る。


「流石に、ただ欲しい子にはあげられないよね」


「そうね。親に反対されたらまた捨てられちゃうものね」


 そう話していると、再び電話が鳴る。


「動物病院からね。もしかして里親が見つかったのかしら」


 動物病院にはこうしたポスターが良く張られ、尚且つ貰い手もよくつくのだ。


「はい。里親ですね。ありがとうございます。えっ、80歳代の老夫婦ですか? えっと子供さんとかは……、県外在住。う~ん」


 母さんはしばらく思案してから、


「すみません。まだ子猫ですので、そのお話は無かったことにさせていただいていいですか? はい。ありがとうございます。他に欲しい人がいれば是非、はい」


「母さん、老夫婦の人たちじゃダメなの?」


「ネコって室内飼いだと長いと15年くらい生きるじゃない。流石に80過ぎじゃ最後まで面倒見れないかもしれないでしょ」


「まぁ、その可能性は高いかな」


 親の許可もない子供や、最後まで育てられるか分からない高齢者のところには出せないわ。もちろん、それだけの条件ではなく、しっかり飼える生活環境かどうかも見定めるのが重要になってくるわ!」


 そのとき、再び母さんの電話が鳴った。

 

 母さんはその電話に出ると、そこからは若い女性の声。

 そして、すぐに謝罪の言葉が聞こえる。


『すみません。先ほど娘が……』


 というのが辛うじて聞き取れ、これは一件目の女の子の母親かなと思っていると、ずばりそのようで、


「お母さんにちゃんと相談したんですね。それで、はい。でしたら、こちらからお伺いしますよ。場所は――」


 母さんは電話を切ると、私の方を向いた。


「ミト、2匹貰ってくれるって」


「おおっ! どの子?」


「白黒とグレーね。やっぱりサバは残っちゃったか。とりあえず、2匹連れて行くの手伝って」


「了解!」


 私は白黒とグレーを捕獲すると、ペットキャリーへ入れる。

 ペットキャリーは嫌がる子がとても多いので、問答無用で入れられるよう上も開くタイプが理想的なのよね。


 もはや阿吽の呼吸と呼んでもいいくらいの手際で、私が入れると母さんが扉を閉めた。


 不安そうにする2匹と、これが別れになるとも知らずにぼんやりと段ボールの中のタオルに顔をうずめる幸せそうにするサバ。不憫になりつつもこれが最良の選択だと言い聞かせ、キャリーを持って外の世界へ。

 

 だいたいのネコは車に乗せるとパニックになるので、私は後部座席で極力振動がこないようキャリーをひざに抱える。

 ついでに、ペットシートをキャリーの中に入れてないときには膝上に乗せるのは危険だから注意してね。ネコが恐怖で漏らしてしまう可能性があるのよね。


「ミーッ! ミッー!!」


「大丈夫だよ。きっと、良いところだからねぇ~」


 穏やかに声をかけつつ車で揺られること十数分。

 とある一軒家の前へとたどり着く。


 車を降りた母さんの第一声は、「この家なら大丈夫そうね」だった。

 確かにペット禁止のマンションとかではないし、それなりに庭も広く整備されていることからもしっかりとした人が住んでいる印象を受ける。ついでに裕福そうでもあるので、きっと問題なくネコも大事にしてくれるだろう。

 

 車が止まったのが分かったから中から人の好さそうな女性と女の子が現れた。

 母さんは、ペットキャリーを渡し、さらに子猫用のエサを山ほど贈呈する。

 さらに今までにペット飼った経験があるか聞き、「ない」と答えたこのご家族に、飼育上の注意やアドバイスを一通りし、最後に、


「この子たちは、去勢や避妊はまだなんですけれど、もしする際にはこちらで費用お出ししましょうか」


 との提案までする。

 

「いいえ、もううちの子ですから、こちらで行いますので大丈夫です」


 その言葉を聞くと、母さんは満足そうにその家を後にした。

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