第2話生まれ換わる世界(2)

穴から落ちて数秒後 ───

「あの、バカ女!次あったら〆る!」

上空に放られた優の体は、身動きがさ出来ない程に重力がかかっていてそのまま自由落下真っ最中である。

標高200mはあるであろう高さから僕は何とか足掻いていた。

「おぃぃ!死ぬって!!死ぬ!!!誰か助けて!!」

自分の周りに誰もいないと知っていても助けを求めている。

この状況を打破すべく、僕は重力に抗いつつリュックの中を漁り始めた。

取り敢えず何かパラシュート的な何かを考えていると、リュックの中に、ビニールシート(2m×6m)が入っていた。

ビニールシートの全端を片手に纏めて持つと、パラシュートで降下したみたいにゆったりと落下し始めた。

体感で約1時間後、時間にして6秒。僕はやっと我らが大地に降り立った。

辺りを見回すと見覚えのある光景があった。

道はコンクリートで補装され、自動車が往来している。

歩道を歩いていた人々は片手にスマートフォンを持ち歩いていたりと、当たり前の日常がそこにあった。

優はその光景を見て息を飲んだ。

ただ一つ、違う事を言うとすれば全てが「逆」

なのだ。

言葉の形や法則など万物の理全て。

しかし、言葉の発音は例外で少し同じ様だった。

これは、先程ここを通り過ぎた人との会話で確認した。

「すいません。ここから近くのコンビニはどこに向かえばありますか?」

「あぁ、jdndbsこの角hsb左hdbs.dn曲がった先に見えるudjebeiwhe?」

その人の言うように(発音で分かる範囲で)角を左に曲がったが、コンビニは無かった。

道を戻り、右に曲がってみると見覚えのあるコンビニを発見した。

そんな世界に降り立った優は困惑していた。

そんな優に更なる追い撃ちが拍子にかかる。

電柱に「佐藤優君「告別式」」と書かれている看板が取り付けられているのだ。

この世には同姓同名の人がいるのだと優は自分を落ち着かせた。

しかしながら、人間は自分の目で見ない限り信じない生き物なので、確かめに看板に示された葬儀場に向かった。

遺影を覗いてみた。

たしかに遺影に今此処に生きている筈の優の顔が写っていた。

周りが僕の姿を見る度にどよめき、数々の畏声を上げた。

「父さん、母さん。何やってんの?何かのドッキリ?僕、まだこうして生きてるんだけど?」

両親が動いている僕を見てこう言い放つ。

「息子の前で不謹慎な事をするな!」

「キャー‼︎動く死体!ゾンビよー!誰か始末して頂戴‼︎」

息子である僕にそう叫び、塩や岩塩を投げつける始末。(そもそも岩塩は何処にあったのかは疑問だが。)

こんな所にいたら、関係ない僕もお釈迦になっちまう!

優は葬儀場から逃げ出し、何処かの公園に行き着いた。

ベンチに腰をかけながら優は自身の現状を把握して毒突く様に叫ぶ。

「あぁ、まさか当の本人にさえも分からない状況なのにどうしてこんな展開になんだよ!!」

僕の頭を抱えながら吐き出した声に応えをくれる人がいる筈も無く、声は無に帰した。

落ち着く事を忘れた脳でこれからの事を考えていると、こん。と何か硬い物に手を当てた感触が伝わって来た。

優は不審に思って自分の服を調べると、制服のポケットに見覚えの無いモノが入っていた。

謎の球体だった………

大きさは直径約6cmのスーパーボールぐらいなのにも関わらず、ガラスみたいに硬い。

ビー玉みたいに中が透き通っていて美しく、

しかし水晶玉とは似つかない反射光が軟らかさをもっている。

中にはボトルシップの様に、綺麗な金髪碧眼の少女と、その少女と対になる様に銀髪紅眼の少女が対極を表すかの様に埋め込まれていた。

髪の色と目の色が互いに美しいコントラストを醸し出していた。

その球体を眺めていると、こちらに向かって来る足音がした。

コツ…コツ…コツ…コツ…

少しづつだが、確実に自分の元に近づく音がする。

そう考えた僕は足音がする方に目を向けた。

するとそこには、30代に見える男が立っていた。

男の目は虚ろ気で僕の顔ではなく僕の手中に収まっている球体が微かに映っていた。

「寄越せ。その[オーブ]を寄越せぇぇえぇええぇ!」

男が手に持っているジャックナイフの刃を拡げ僕目掛けて走り出した。

男から逃げ出そうとした時、既に遅くナイフが体を貫こうとしたその刹那。

頭の中に色んな記憶が走馬灯になってどーっと一方通行で流れていく。

こんな所で死ぬのか?未だ彼女さえ出来てないまま死ぬのか?何もなし得ない愚者のまま野垂れ死ぬのか?それだけは絶対嫌だ!けどこの状況を打破出来る策があるわけないし、このまま死を迎えるしかないのか?!おいふざけんな!死んでたまるか!!世界線の死の補完の為に関係無い俺を殺すのか??冗談じゃない!!と僕は頭の中で考えながら男の行動を凝視していた。しかし身体は動かない。死への恐怖で脚が竦んで逃げれないのだ。男の持つナイフが僕の身体に突き立つその刹那、男曰く。そのオーブが僕の目前に浮き、光りを放って砕けた。

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