神にあやかる卑怯な俺と巨人に凸する勇敢チッチ

ユメしばい

世界最大の動画配信サービスMeTube

 高校を卒業して、動画配信者としての夢を追いかけ始めてから早や二年が経つ。登録者数はいまだ三桁を行ったり来たりで、再生数はたまに超えても四桁止まり。今や、投稿再生数共に絶賛右肩下がり中のミーチューバー。悪く言えば単なるニート。東龍あずまりゅうといったチャンネル名が完全に泣いている。心が折れる寸前だ。


「ハァ、やっぱ名声を手に入れるのはごく僅かの人間だけなんかなぁ。もう辞めよっかな……」


 と、スマホを装備した自撮り棒を片手に、ネタ探しで駅前を歩いていると、


 ――!


 思いがけない人物に出会でくわした。


「な、なんでがこんな所に……」


 手には俺が持っているような自撮り棒。奇抜な銀と黒のツートンヘアー。登録者数は100万以上。動画再生数は常に100万以上。配信を初めてからたった一年で名声を手に入れた、憧れのミーチューバー。


 彼の動画を何度見たことか。

 間違いない。

 あれはだ。


 ところが彼を目にした途端、心にあった好意がなぜか敵意へと移り変わる。

 

「クソッ、俺の方が先に始めたのに何であいつの方が先に売れるんだ……ん? まてよ、これってチャンスじゃないか。あいつにコラボお願いしたら俺も有名に……」


 と考えてすぐに気を改める。


「いや違う、強要だ。相手の迷惑を一切無視してとつった動画を上げる。――ククク、これだ。俺にはまだ狂人として生きる道が残されていた。これを機に底辺から一気にスターダムへのし上がってやる!」


 最近調子ブッこいてるぺカルに凸ってみた。サムネはもちろんあいつが驚きふためく顔のどアップ。低評価上等!


 七桁の再生数を想像しながらぺカルの元へと突っ走る。しかし彼我の距離残り約3メートルのところである事に気づく。


「しまった、メントスとコーラを持ってきて――、」


 ペカルがこちらに気づいて振り返る。

 ええい、ままよ!


「ぺカルさんですよね! 陽津辺ようつべ市から来ました。あなたのこと尊敬して――」


 突然真下に1メートル大の穴が開いた。


「え……?」


 たちまち重力を失った体が落下を始める。一瞬で視界がブラックアウト。


「うおおおっ!」


 ところが意外にも穴は浅く、数メートルで尻から地面に着地した。痛みを堪えながら目を開けてみる。


「イテテ……は? なんだここ」


 ビルが立ち並ぶ風景から一転、そこは草木生茂る森の中だった。そして、獣道の先から茶色の民族衣装に身を包んだ小さな少女が現れる。その少女は名をチッチと言った。この先の集落からやってきたホビットである。

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