あなたに寄り添えば

雨月紫陽花

第1話 開演

「あぁ、今日も一日歩き詰めでくたくた、、、。」

ため息をつきつつ、目の前のグラスを恨めしそうに眺めているのは、少し抑えめの茶髪にしたセミロングの女性。ビジネスバックとパンツルックのスーツから仕事帰りのようだ。

「お口にあいませんかな?」

そう尋ねられたのは、この店の店主である。

「すみません。そういうわけではなく、ちょっと疲れちゃいまして。今日は営業で外回りしていたのに、全く手ごたえなし、あからさまにバカにされた対応の取引先もあって、すごい嫌な気分になってしまって、おまけに最近は友人や彼氏とも全然連絡なくて、何やっているんだろうな、、、て思っちゃって、気づいたらため息、、、。」

「そうでしたか、私は会社勤めの経験はありませんが、そうそう嫌なことは、いつまでも続くものではありませんよ。今日は、こちらでゆっくり時間を過ごし、また明日から頑張ってください。幸い、今日は特に予約客もなく、あなただけですから。」

「ありがとうございます。では、お言葉に甘えさせてもらおうかな。同じものを水割りで。」

「かしこまりました。ところで、気分転換に私がこの前仕入れた、とある青年の恋物語などお聞きになりませんか?」

そう言いながら、店主はグラスを前に出してくれた。

女性は少し考えつつも

「そうですね。一人で飲んでるだけだと、余計に考え込んでしまいそうですし、聞かせていただこうかな。」

その返事を聞き、店主は気をよくしたのかにこやかになりつつ

「それでは、始めさせていただきましょう。これは、枝垂しだれ君というとある喫茶店で働く青年の恋物語なのですがね。」



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