ドラゴン・テイル
今井雄大
第1話 十七歳の誕生日。そして、死
遠くで鳥のさえずりが聞こえる。開け放たれた窓からは、暖かな朝の日差しが差し込んでいた。窓の外には、一面の緑が広がっている。木々が青々とその枝を十二分に伸ばしているように見えた。のどかな辺境の村、その一角を担う家の窓からの景色だった。
「起きなさい、アムス。今日はあなたの十七歳の誕生日よ。王様に謁見に行く日よ」
まだベッドでまどろんでいる少年に、少年の母が声を掛ける。少年はそれに答えるようにムックリと上半身を起こした。しかし、まだ顔は寝ぼけたままだ。
寝ぼけている頭の中で少年は、思った。……そうだ。今日は十七歳の誕生日だった。
アムスは思い切り伸びをすると、ベッドから飛び降りた。辺境のこの村では珍しい、黒髪が揺れる。
「早く朝ご飯を食べてしまいなさい」
再び、アムスの母が声を掛ける。言いながらアムスの母は、彼の部屋を出て行った。アムスもそれに続く。
食卓では、すでにアムスの父が食事を始めていた。アムスの母と、アムスも自身の席へと着く。
食事をしながら、アムスの母は小言を開始した。
「王様の前に行ったら、ちゃんとするのよ」
アムスは朝食を食べながら、それを手で制すると口を開く。
「二人に話がある。今日でアムス・フリーウッドは死んだ。我はギレウス。
アムスは、いや、ギレウスは、ポカンと口を開けたままの両親二人をゆっくり見回すと満足そうな顔を作る。
一万年生きた暴竜神ギレウスでも、この十七年は非常に長く感じた。それは、偽りの自分だったからに他ならない。
人間に転生しても、ギレウスには暴竜神だった頃の記憶があった。だから、生まれた直後から、人の言葉も理解することができた。それは、良い。ただ、通常の場合、竜は生まれ変わっても竜になるのが通例だった。それが貧弱で、か弱い人間に転生したことにギレウスは憤っていた。
アムス・フリーウッドが幼かった頃に、竜の力を解放しようと試してみたことがあった。その時は、幼くて、か弱い人間の体に竜の力が耐えきれず、大怪我を負った。死にかけた。
それから十数年、ギレウスはアムス・フリーウッドの体が出来上がるまで待つことになった。じっと息を潜めて、待って、待って、待った。人間のフリを続けながら。やっと、アムスの十七歳の誕生日である、今日がやってきた。それは、一万年を生きた暴竜神ギレウスでさえ、永遠に感じるような時間だった。
朝食もそこそこに、ギレウスは家のドアを開け放ち、外へと出る。
ギレウスの体に陽の光が降り注ぐ。空は快晴。素晴らしい青空が広がっていた。ギレウスはまるで、もう一度生まれ変わったように清々しい気分だった。
ギレウスが家から出ると、後ろからまだ状況を理解できていない顔をした両親も外へとやってきた。
ギレウスは、もう数歩離れると、両手を横に広げた。その手の動きに合わせるように、背中から伸ばした手の倍の長さはあるであろう翼が出現した。
その羽は、まるで巨大なコウモリの羽のようだった。色は漆黒。ただの人間であるアムスの両親でさえ、それが禍々しい力を持ったものだと感じ取ることができた。
「まさか、本当に……」
アムスの父の呟きが聞こえないように、ギレウスは両親を振り返り口を開いた。
「十七年間、世話になった。我は今からこの国を我が物にする。そうなった暁には、汝らが少しは贅沢できるように計らおう」
それだけ言うと、ギレウスは空へと舞い上がった。
ギレウスは、自分の体を簡単に調べる。暴竜神の力を解放しても、アムス・フリーウッドの体に特に異常は感じられなかった。唯一、腰というか尻の辺りに鈍い痛みがあったが気にしないことにした。
「王都は、確かあっちだったな」
ギレウスは体を王都へと向けると、アムスの両親が見たことないような速度で飛び去った。
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