第38話 金閣寺での一幕
途中、寄り道をしたものの、さらに約40分程自転車を漕ぎ続けた俺たち。
そして。
「やーっと、着いた!」
「とうちゃくー!」
自転車から降りた俺たちは、パチンとハイタッチ。
なんだか妙にハイテンションだ。
「金閣寺って言っても、結構広いコースなんだな」
入り口で渡されたパンフを見ながらつぶやく。
「1時間くらいかかるみたいだよ」
時計を見ると、昼を少し過ぎた13時。
南禅寺と、途中の豆腐屋で結構時間をかけてしまった。
ゆっくり回って、1時間をここで過ごしたとして。
京都駅までは、自転車でもまた1時間くらいかかるらしい。
お土産に1時間かけたとしても、新幹線が来る19:00まで余裕はある。
「よし。ゆっくり回ろう」
「景色が綺麗だもんね。急ぐのはもったいないよ」
「金閣寺は、
「日本史の授業でやったよね。
「天皇家を乗っ取ろうとしたなんて言ってる研究者も居るんだよな」
前に興味を持って図書館で手にとった文庫本を思い出す。
「でも、Wikipediaだと、そんな証拠はないんだって」
「本当のところはどうだったんだろうな」
なんて、歴史談義を交わす俺たち。
こう見えて、俺も古織も読書量は多い方だ。
意外にぱっと知識が出てくる。
「でも、眺めは綺麗だけど……、人、多いね」
「まあ、有名観光地だしな。仕方ない」
祇園のように人混みでしんどいという程ではない。
とはいえ、そこそこの客入りで、一箇所に留まってじっとしてる余裕はなさそうだ。
手をつなぎながら散歩するくらいの余裕はあるのが幸いか。
歩いてしばらくすると、あの有名な金色のお寺が見えてくる。
この場所は、
「金色のイメージが強かったけど……綺麗だな」
「緑色と金色がよく合ってるの、不思議だよね」
舎利殿は、周囲の木々や植えられたらしき松もあって、独特の美しさがある。
空が晴れていて、池に金色が反射しているのも、美しさを増している。
「ね、ね。もうちょっと近づいてみようよ」
「ああ」
というわけで、舎利殿に一番近い地点まで接近。
「やっぱ、ほんとに金色なんだな」
金一色の建物なんて普段見る機会はそうそうない。
だからか、やけに浮いて見えるというかなんというか。
「この金箔、全部で何円するのかな?」
興味津々といった表情と声。
「お前な……さすがに無粋だろ」
いつもは古織がしているツッコミを今度は俺がする。
「ちょ、ちょっと考えちゃっただけだよぅ」
「俺もちょっとは考えたけどな」
節約生活をしているせいで、気を抜くと卑しさが首を出すのが困りものだ。
「あ、そうだ。この辺で記念写真撮ろうぜ」
「賛成!」
近くの観光客にお願いしてもらい、スマホのカメラで数枚ツーショットを。
「新婚旅行、楽しんでくださいね」
と言って、地元の人らしきお姉さんが去っていったのが印象的だった。
「えいっ」
と肩に重い感触。
気がつくと、古織が肩にぶら下がっていた。
「なんだよ?」
「こうした方が、新婚さんらしくない?」
といいつつ、こちらを見上げてくる。
「ま、まあそうだな。新婚ぽいかもな」
こうやって甘えてくるこいつがどんどん可愛く見えてくる。
周囲の人が何やら見ている気がするけど、これくらいはいいか。
舎利殿を後にしてさらに奥に進むと、身長より少し高いくらいの滝があった。
「言いにくいけど……少しショボいな」
「みーくんも、無粋だよぅ」
「っていってもな」
もっとどでかい滝なら違うのかもしれない。
しかし、ちょろちょろと流れている滝の美しさはよくわからないのだった。
風流を解するには俺は程遠いらしい。
その後は、足利義満がお茶の水に使ったと言われる泉である
「水道代、どのくらい節約できるかな?」
「……」
「じょ、冗談だよ、冗談だってば」
わかるんだけどな。お茶に使う水と言われると、どうしても水道代が浮かんでくる。
実に世知辛い話だ。
その他にも、色々なスポットを回ったものの、結論としては。
「あのお寺以外、案外見所がないもんだな」
「金閣寺は一度行けば十分って聞いたことあるよ」
もっと歳をとって、風流だか侘び寂びを理解できれば違うのかもしれない。
しかし、金色に輝く舎利殿以外には目を奪われることがなかったのが正直なところ。
「あと、やっぱり人が多かったよな。外国人の人とか」
「ね。もっとゆっくり散歩したかった」
人が多いので、意外にゆっくりする暇がなかったのも誤算だった。
「とにかく、気を取り直して行こう」
「うん!」
「あ、土産物、どこで買うかな」
「
「じゃあ、そこで。っと、ちょうどオヤツの時間だな」
「近くでスイーツも食べていこ?」
「了解。でも、昨日今日とスイーツ食べまくってないか?」
「新婚旅行の時くらいいいでしょ?」
「そうなんだけどな」
というわけで、金閣寺を後にした俺たちは、次なる目的地へ。
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