第5章 節約しない新婚旅行

第25話 友人たちからのお祝い

「おはよう」

「おはよー」


 二人揃っていつものように、教室の扉を開く。

 一瞬、視線が俺たちに集中するも皆も慣れたもの。

 そして、着席しようしたところ、その前には見慣れた友人二人の姿。


「ん?どうしたんだ、幸太郎こうたろう雪華せっか?何か用か?」


 朝からこいつとだべることは珍しくない。

 しかし、幸太郎たちがこうして目の前で待ち構えてるのは珍しい。


「はい。これ。パパが会社の人からもらったんだけど」


 と、雪華から笑顔で何やら封筒を渡される。


「……?これ、開けてもいいのか?」

「え、ええ。どうぞ」


 何やらもごもごと言いたげな雪華。

 どうにも妙だな。

 まあ、いいか。開けてみればわかることか。


「京都1泊2日旅行、ペアチケット?って、こんなのもらっていいのか?」

「う、うん。買ったら結構しそうだよー」


 俺たちは目を見合わせる。

 唐突なプレゼントに、喜びよりも戸惑いが大きい。


「き、気にしないでいいわよ。ど、どうせ、パパがただでもらったものだし。二人で新婚旅行を楽しんで来なさいよ」


 やっぱり挙動不審だ。


「それこそ、おまえら二人で行ってくればいいんじゃないか?」


 なんせ、幸太郎と雪華は交際しているのだ。

 ただでお泊りデートが出来るのに。

 気になって幸太郎の方を見てみると、微笑ましげに俺たちを見ている。

 何か臭うな……。


「ちょっと、幸太郎借りるぞ?」


 友人を引きずって廊下に連れていく。


「でだ。すっごく不自然なんだが。雪華の奴、どうしたんだ?」

「うんうん。あんな挙動不審な雪華ちゃん、初めて見たよー」


 強いて言うなら、恥ずかしがっている?

 しかし、あいつがプレゼントをくれる時は、いつも堂々としたものだった。

 結婚祝いもそうだったし、毎年の誕生日プレゼントもそうだ。


「ふぅ。雪華には内緒だよ?」


 諦めたようにため息をつく幸太郎。


「やっぱ、何かあるんだな?」

「難しい話じゃないよ。あれね、雪華が自腹で買ったチケットなんだよ」


 何でもないことのように、一言で理由を言い切られる。


「ってことはあれか?買ったなんていうと気を遣わせるからか」


 そこから導きだされた答えは簡単。


「そういうこと。全く、雪華は不器用でしょ?」


 ほんと仕方ないんだからと言わんばかりの顔だ。

 しかし、やっぱりおかしい。


 東京と京都は往復新幹線代だけで3万円はかかる。

 その上、二人での宿泊代となると7万円近くにはなるだろう。

 バイトで稼げない額じゃないが、一人で出すには少し大きな金額だ。


「ひょっとしてだけど。幸太郎と雪華、二人で買ったんじゃないのか?」


 涼しい顔をしている友人に疑問をぶつけてみる。


「はは。目ざといね。それも、節約生活の賜物なのかな?当たりだよ」


 いつも笑顔を絶やさないこいつだが、少し照れくさそうだった。


「新婚旅行のために、色々検索してたからな」


 京都といえば有名観光地。

 新婚旅行の候補地の一つだったので、大まかにかかる額を試算したこともあった。


「にしても、そこまで気を……」


 遣わないでも、と言いかけたのを遮ったのは古織。


(言わぬが華って奴だよ。みーくん)

(そっか。それもそうだな)


「……悪い。無粋だった。じゃあ、ありがたく頂くな」

「うん。ありがとうね、幸太郎君」


 夫婦揃ってお礼を言う。


「期間は今年中だから、好きな時に使ってよ」

「ああ、近いうちに使わせてもらう。ほんと、助かる」


 それだけ言って、教室に戻る。


「話は終わったの?」

「ああ。さっきのチケット、ありがとな。新婚旅行、楽しんでくるよ」

「そ、そう。貰い物だけど、夫婦水いらずで楽しんで来なさいよ」


 少し頬を赤らめながら言った雪華が印象的な朝の一幕だった。


◇◇◇◇


「しっかし、今日はほんと驚かされたよな。こんなものくれるなんて」


 二人での帰り道。チケットを見ながらつぶやく。


「うん。でも、本当にありがたいことだよね」


 しみじみと返す古織。


「本当、持つべきものは友だな。いい奴らだ」


 二人で負担したとして、一人3万円というところだろうか?

 決して安い金額じゃない。それに、旅行のプレゼントというチョイス。

 新婚旅行どこ行くー?と、こいつとなにげに雑談したのを聞いていたのだろう。


「で、いつ行く?俺としては来週くらいに行きたい気分だけど」

「うん。私も新婚旅行、行きたかったから。そうしよっか」

「ああ。せっかくだから、ぱーっと行こうぜ」

「でも、宿代と交通費はタダでも、拝観料とか色々考えないと……」

「おいおい。そこまで節約するのは止めようぜ」


 新婚旅行でかかる費用まで計算しだす古織に俺は苦笑い。


「でも……」

「こういう時のために、少しばかり貯金があるから。それくらいは大丈夫」

「みーくん、コツコツ貯めてたもんね。じゃあ、甘えちゃおうかな」

「おう。そうしとけ。新婚旅行なんて、一生に一回だからな」


 いくら節約生活といっても、そこまで節約するのはやりすぎというもの。


「帰ったら、どこに行くか相談しよっ」


 古織が、いつもより肩を寄せて、甘えた声ですり寄ってくる。


「ああ。色々楽しみだよな。ああ、でも、一泊だと、回れるところ限られるよな」

「じゃあ、朝一で出発しない?」

「えー?さすがに朝はゆっくりしたいんだけどな」

「それこそ、新婚旅行で無粋だよぅ」

「悪い悪い。じゃあ、朝一で出発するプランで色々考えようぜ」


 友人からプレゼントされた突然の新婚旅行。

 そんな新婚旅行をどう楽しもうとにぎやかに話しながら帰った俺たちだった。 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る