第22話 節約お洋服選びデート

「へぇ。なんか、ユニクロみたいな感じだな……」


 東京都内某所のGU店内にて。最初に出てきたのがそんな感想だった。


「GUとユニクロは、親会社?が同じなんだってー」


 "GU ユニクロ 違い"でググった結果を見せてくる古織。


「なるほどなあ。でも、意外と普通なんだな」


 自分でも何を言ってるのだろうと思う。


「みーくん、一体何想像してたのー?」


 可笑しそうな表情をして、尋ねてくる。


「いや、レジが機械化されてるって言ってたじゃないか。だから、他の所も、色々機械化されてるのかなあと」

「たとえば?」

「そうだな……陳列してある服をロボットが持ってきてくれるとか」


 ちょっとボケてみる。


「そんなの、SFの世界だよー」

「Amazonなんかは完全無人店舗始めたらしいし、いずれはそんな日が来るかもしれないぞ」


 どこかのニュースで、Amazonがそういう店舗を米国でオープンしたと聞いている。


「それはそれで面白そうだけど……。服、選ぼ?まずは、みーくんの分」


 慣れた足取りで店内を歩く古織。しかし……


「男性向けの売り場までしっかり記憶してるんだな」

 

 正直、少し驚きだった。


「その内、みーくんと洋服選びながらデートしたらって考えてたのっ」


 嬉しそうに俺の手を引きながら歩いていく。


「ま、そう思ってくれたのは嬉しいけど、照れくさいな」


 うしろ髪をぽりぽりと掻きながら、ふと思う。

 俺が思うよりはるかに大きく、こいつは俺のことを考えているんじゃないかと。

 正直、「ここで古織とデートしたら……」なんて想像しながら歩くことなんてなかった。

 それに、古織に着て欲しい服なんてのも考えたことがなかった。

 今のこいつは十分以上に可愛いし綺麗だし、それでどこか満足していた。


「みーくんも照れるポイントがよくわからないよね。デートは何度もしてるのに」


 前に言ったことの意趣返しか。悔しいが言い返せない。


「彼女……嫁に服を選んでもらうのは居心地が悪いんだよ」


 正直に照れた理由を言うのは癪で、そう誤魔化す。

 そして、一瞬、彼女、と言ってしまいそうになった。

 まだ、夫婦より恋人意識の方が強いのかもしれないな。そう内省する。

 男物の洋服売り場にて。


「まずは、ボトムスだね。うーん……」


 男物のズボンを手にとっては眺める古織。

 正直、清潔で汚れて無ければと思うが、さすがに野暮だろう。

 

「これとかどう?白で、足もシュッとして見えるよー」


 ぽんと、そのズボンを渡される。

 ストレッチスリムパンツ、と札に書かれている。

 しっかし、なんで、ズボンのことをパンツと言うんだろうな。

 ともあれ、これを穿いたら、かっこよく見えそうだ。

 しかし。


「俺の足に入るか?ギリギリっぽいぞ?」


 さすがに窮屈なのは勘弁して欲しい。


「大丈夫!すっごい伸縮性が高い奴だから。きっとピッタリはまるよ」

「よく知ってるな―。ぱっと見だと全然わからなかった」

「みーくんも、もうちょっと衣服の勉強した方がいいと思う……」

「いや、悪い。確かにこれまで適当過ぎたよな」


 古織の奴が特に言ってこないものだから、つい適当になっていたのだった。

 反省、反省。


「そういうのもみーくんらしいから、いいんだけどね」


 勉強しようと決意を固めていたところに、そんな言葉。

 

「そうやって甘やかされると、勉強しないぞ?」


 その言葉がくすぐったくて、茶化してみる。


「うん、いいよ。その時は全部、私が全部選んであげるから」


 その言葉を聞いたとき、火がついたように恥ずかしくなった。

 「全部選んであげるから」

 心地よくて、とても恥ずかしい言葉。


「みーくん、どうして赤くなってるの?」


 対する古織は自分の言葉の破壊力に気づいていない模様。

 相手に選んでもらった服で固めるなんていうのは、妙な気分になる。


「お前の言葉の破壊力が大きすぎたんだよ……」


 この気持ちをどう言葉にすればいいんだろうか。

 照れてる?それだけじゃない。って、そうか。

 

「でも、そうか。これは、幸せって奴か……」

「み、みーくんも、すっごく恥ずかしいこと言ってるんだけど」


 気がつくと、古織のやつも大変顔を真っ赤にしている。

 俺たちは一体何をやっているんだろう。


「いや、悪い。試着だよな。ちょっと待っててくれ」


 居心地がいいけど、とても気恥ずかしい雰囲気。

 外でこんな感じになるのが少し気まずくて、試着室に逃げたのだった。


◇◇◇◇


「確かにピッタリはまるもんだな」


 鏡を見ながらつぶやく。

 古織が選んだ白のスリムパンツは確かに伸縮性が高い。

 鏡で見ると、一回り自分がほっそりしたように見える。


「洋服って言っても馬鹿に出来ないもんだな」


 穿くズボンを変えただけで、こうまで見え方が変わるとは。

 ちゃんと俺に合うものを見つける古織もさすがの観察眼だ。

 きっと、普段からそんな事を考えているんだろう。

 

「あいつ以上に愛してやりたいな……」


 誰かが聞いたら噴き出しそうな台詞をつぶやく。

 俺なりに古織のことは想っているつもりだけど、まるで叶わない。

 だから、もっとあいつの事を見てやりたい。


「みーくーん、試着してみてどう?」


 試着室の向こうから声が聞こえる。


「あ、ああ。十分合ってる」


 慌てて試着したズボンを脱いで元のを穿き直す。


 トップスは、紺に近い青色のシャツで、合わせるとなんだか爽やかな感じがする。

 結局、ボトムス1着にトップス2着をカゴに入れた。

 予算を考えると、2着ずつ買うと古織の分が買えなくなってしまう。

 

「やっぱり、お洋服は結構お金がかかっちゃうね……」

「まあ、残りは使い回すさ」


 俺のために古織が服を選んでくれただけで満足だ。


 続いて、古織の服を買うために、女物の衣服があるコーナーへ。


「うへぇ。なんか居心地が悪いな……」


 当然、周りは女性ばかりだ。


「でも、ほら。私達みたいにカップルで来てる人もいるよ?」


 古織の指差す先をみると、確かに仲睦まじくキャッキャしているカップルが。


「俺たちも、あんな風に見えてるのかね……で、古織は決まってるのか?」


 俺の分を選ぶ時は、だいたい決めてたような感じだった。

 だから、自然にそう思ったのだが-


「んー。候補は決めてるんだけど……。みーくんが私に似合うの選んでくれる?」


 恥ずかしそうにそんねおねだりをされる。

 

「い、いや。お前が選んだ方がいいんじゃないか?お前が着るんだしさ」


 やっぱりドギマギしてしまう俺。

 洋服選びのデートをしたことがなかったせいだろうか。

 

「照れてるのはわかるけど、デートで一緒に着る服なんだから、きちんと見て欲しいの!」

「そうだよな。悪い」


 どうにもとっさにいい受け答えが出来ない。

 まるで付き合いたてのカップルだ。

 一線を超えてからどれだけ経つのかとか、付き合ってどれだけ経つんだとか。

 そう思っても、しかし、気恥ずかしさは消えない。


「……こんなのどう?」


 下はショートパンツに植は白地のシャツ。

 元気な感じのイメージがする。


「ああ。似合ってるぞ。アクティブな感じのがお前らしいし」


 動揺を抑えながら言う。

 これを着て走ってる様子を想像すると……うん、非常にいい。


「そっか、そっかー。じゃあ、これは候補で。もう一つの着てみるね?」


 再び試着室に入って着替えて出てくる。今度は……


「ど、どう?ちょっと深層のお嬢様って感じ?あってないかな?」


 白地のワンピースに、麦わら帽子っぽいなにかを着た古織。

 

「い、いや、いい。すごくいい!」


 こいつは、いわゆる清楚系キャラじゃない。

 アクティブだし人懐っこいし、漫才好きだし。

 しかし、だからこそ、清楚な感じの服装はギャップがあっていい。


「そ、そう?ひょっとして、こっちの方が気に入った?」


 こっちの方が、か。悩む。

 元気系なファッションも当然いい。

 でも、清楚系なのもギャップがあってこれはこれでいい。


「どっちも買わないか?ど一着だけだと不便だろ」


 実家に置いてきた服も着るとしても、新しい夏物が一着だけというのも寂しい。


「結構ギリギリじゃない?」

「ちょっと計算してみるな」


 俺の服が、合計5000円程。古織の方が合計9000円近く。

 

「予算ギリギリだけ、なんとかセーフ。GUって安いんだな」


 ネットで調べた感じ、倍どころじゃないお金がかかりそうだったんだけど。


「そうそう。GUは学生の味方なんだから」

 

 古織はどこか誇らしげだ。

  

 結局、古織の分はショートパンツとシャツの上下とワンピースの2着。

 GUが安いとはいえ、二人分の洋服を少し買っただけでこの有様だ。

 必要経費だし、仕方ないか。


 諦めて会計に行くと、レジは無人で、なにやら窪みのようなものがある。


「ああ、これが例の。これにカゴ置けばいいんだよな」

「あれ?前に見たのと違ってる……」


 何故か、古織が驚いている。


「どうかしたのか?言ってる通りのものじゃないのか?」

「う、うーん。前に見たときは、棚にカゴを入れる感じだったんだけど……」


 何やら首をひねっている古織。


「ま、とりあえずカゴ置けばいいんじゃないか?

「う、うん……」


 俺たちの衣服が入ったカゴを置く。

 すると、一瞬で、合計金額14800円が表示される。


「おお。確かにすげえ!近未来的だなー」

「でしょ?それに、店員さんに気を遣わなくていいから気楽だし。でも、なんで変わったのかな。こっちの方が便利だけど」

「まあ、細かいこと気にしなくていいんじゃないか?便利なのは確かだし」


 セルフレジに感心しながら、俺達はGUを後にしたのだった。


 帰りの電車にて。


「いやー、いい買い物だったな。俺も服選び凝ってみようかね」

「でしょ?結構楽しいよ」

「でも。しばらくは、好きに服買えないんだよなあ」


 今日だって、予算を考えて割と絞りに絞ったのだ。


「うん。そこが悩みどころだよねー」


 洋服はお金がかかるという事を改めて実感した俺たちだった。

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