小さい頃の結婚の約束にマジレスしたら、可愛い幼馴染と結婚していた件

第9話 夫婦漫才

【次は、倉敷さんー。って、工藤？書き間違えかしら。倉敷古織さんー。自己紹介、お願いね」

　すっくと立ち上がって教壇に向かう古織。

　既に思いっきりぶちかましてやるって気持ちが伝わってくる。

　そして、教壇に立った古織は、

「はじめまして。あるいは、既に知っている人にはこんにちは、ですね。倉敷古織（くらしきこおり）改め工藤古織（くどうこおり）です。いつもだったら、自己紹介はぱっぱと済ませちゃう方なんですが、今日は私の相方をご紹介したいと思います」

　いい笑顔でそんな事を言い放つ古織。

「相方ってあいつなあ……」

　俺もそろりそろりと教壇に向かう。

　当然、周りはざわざわ状態だ。古織を知っている奴は、

「あれ？なんで工藤？」

「道久君の名字がそ確か工藤だったはずだけど」

「あのバカップルだから、まさか結婚したとかいうんじゃないだろうな……」

「そういうネタでしょー。いつも、私らが夫婦ってからかってたからさー」

　と夫婦ネタでも披露するのだろうと予想しているようだが、甘い甘い。

　古織を知らない奴らは、

「大人しそうな娘だな。でも、結構可愛いかも」

「清楚系っていうのか？言い方にも品があるよな」

「まあ、さすがにあんなレベル高い娘は売約済みだろーな」

「でも、なんで名字が変わってるんだ？そういうネタ？」

「さあ？」

　と訝しんでいる。

　その間に、俺は教壇にたどりついて、古織と向かい合う。

「ちょ、ちょっと。工藤君の自己紹介はまだですよ？」

　春先生は戸惑っているが、今回は我慢して欲しい。

「じゃあ、始めようか。みーくん」

　ニヤリと俺を見つめる古織。俺も古織を笑いながら見つめる。

「相方っていうのも、言い得て妙だな」

「でしょー？」

　と小声で言い合う。

「相方のみーくんこと工藤道久（くどうみちひさ）君です！」

「工藤道久です。この度、こいつの相方になりました」

「みーくん、みーくん。相方って言っても、皆には伝わらないよー」

「そうだな。この度、工藤古織の旦那になりました！よろしく！」

「というわけで、お嫁さんになった私は倉敷古織から工藤古織となったのでしたー」

　周りがざわざわとし始める。知っている奴らは、

「あいつら、マジで結婚したのかよ」

「春ちゃんが倉敷の事工藤って呼びそうになってたしな」

「妙に春休み付き合い悪いと思ったけど、ひょっとして……」

「あの二人も……。こういうことするの好きなんだから」

　大体の事情を察してくれたようだ。知らない奴らは、

「どういうこと？」

「さあ？どうも、二人が結婚したらしいけど」

「高校生で結婚なんて珍しいね―」

「あ、思い出した！2年の時にすっごいバカップルが居たって」

「バカップルがそのまま結婚したってワケ？」

　などと言っている。

「で、自己紹介だけど、ただの自己紹介だと芸がないので、夫婦でお互いの事を紹介することにしました。みーくんから見た私はどう？」

「っていっても、付き合いもいい加減長くなってきたしなあ。もう15年か」

「幼稚園で、大人になったら結婚する！って言ったのが始まりだったっけー」

「タイムマシンで戻れたら、「お嫁さんにする！」って約束してたぞ」

「ひどいよねー。まず恋人にならないと、なんて、マジレスするんだもん！」

「じゃあ、恋人になりたい、とかいうお前も大概だと思うぞ」

　そう。古織が考えた自己紹介というのは、トーク形式。

　お互いに漫才ぽいトークをして、キャラを知ってもらうというものだ。

　元々、いつもべったりだった俺たちにはちょうどいいのかもしれない。

「そんなわけで、恋人……と言っても、幼稚園の頃は、恋（・）人（・）の（・）よ（・）う（・）な（・）も（・）の（・）ですけど、そこから付き合いを始めて、こうして、結婚することになりました。ぱちぱちぱちー」

「間を飛ばすなよ。お前が今年の1月、結婚したいとか抜かしてきたんだろーが」

「乙女からの逆プロポーズをそんな風に言われると傷つくよー」

「今更、古織はそんなことで傷つかないだろ？」

「わかった風に言ってー」

「じゃあ、傷ついたのか」

「別に傷ついてないけど」

　怒涛のように、トークを繰り広げる俺たち。

　ある奴はまたやってら、という目で。

　ある奴は空いた口が塞がらないといった顔で。

　またある奴は、空気読めよバカップルといった感じで見つめてくる。

「思い出話になってるよ。みーくんから見た私を紹介して欲しいんだけどー？」

　ワクワクといった視線で見つめてくる。

　もちろん、打ち合わせがあるわけじゃなくて、ノリで好きなことを言ってる。

「つってもな……。まずは、まあ、可愛い！」

「可愛い？」

「こんな風に撫で撫ですると、いっつも嬉しそうにしてくるんだぜ？」

　髪型をくずさないように、優しく髪を撫で付ける。

「人前で犬みたいにふはふはしないよー」

「と言っても、表情がだらしないが？」

「と、こんな感じで可愛いのが一つ。それと……家事全般得意だし、勉強も運動も出来る。ノリも良いし、一緒にいてて飽きたことは一度もないな。何気に必死こいて頑張ってたりする見栄っ張りなところもいいところかな」

　幼い頃から今までを思い出す。

　全般的に何事も平均よりかなり良く出来るのが古織だった。

　でも、最初から出来たなんてことはなくて、色々努力をしていた。

「も、もう。みーくんってば、褒め言葉ばんばん言うんだから」

「別にいいだろ？あとは……俺にとっては恩（・）人（・）かな」

　この事だけは今でも照れくさいのだけど、ノリに任せてそんな事を言う。

　この事についての感謝はいくらでも言いたい気分だ。

「お、恩人って……。あんなこと、何でもないのに」

　古織も予想外だったのか、恥ずかしそうにしている。

「まー、そんな感じで一緒に居てて飽きることはない楽しいやつだから、夫婦揃って仲良くしてくれると助かる。と、俺から見た古織はそんな感じかな」

　と一息で言い終えると、周りは、

「おいおい。ここは披露宴の会場じゃないんだぞー！」

「いやいや、もっとやってもらった方が楽しくね？」

「そうそう。もっと聞いてみたいよねー」

　という反応と、

「惚気たいのはわかるんだけど、うーむ」

「ちょっと寒くない？」

「そういうのは内輪でやってほしいよね」

　という反応の二つに分かれた。

　ろくに知らん奴の内輪エピソード話されてもな、というのは、わかる。

　でも、知り合い連中からは概ね好評だったのは良かった。

「続きなんだけど、古織から見た俺はどんな感じだ？」

　古織からも言ってもらわないと始まらない。

「うーん。まずは……思いつかないや」

「俺にさんざん語らせといて、そのオチはないだろ、古織さんや」

「居心地がいい、以外の感想が出てこないんだよー」

「もっと言葉をひねり出してだな。国語はお前得意だろ」

「それとこれは別！でも、そうだなー。やっぱり、カッコいい、かな」

「ホントかー？お前にカッコいいと言われたこと、ほとんどないんだが」

「照れくさかっただけだよー。背中の辺り見てると、こう、グッと来ちゃう！」

「桃色の話に持っていくのやめい！」

　ぺちんと古織の頬を軽くはたく。

「えー？私から見たみーくんの印象を語れってお題でしょ？」

「もうちょっと内面とか、外見にしても、顔とかさ……」

「背中だって別に露出してないと思うけど？」

「ああいえばこういう……。まあ、背中はいい。他には？」

「あとは……みーくんは、私を弄って遊ぶのが大好きなサディストだけど……」

「そんな人聞きの悪いこと言うなよ」

「でも、その後は色々優（・）し（・）く（・）してくれるところはきゅんっと来ちゃう。飴と鞭？」

「俺達が変態プレイしてるみたいな誤解振りまくのは止めろよ」

「意地悪が好きなのは本当だと思うよ？」

「お前が弄りたくなるような隙があるのが悪い！」

「それは横暴だよー！」

　気がついたら、時間が10分も経ってしまっている。

「というわけで、ちょっとしゃべり過ぎたけど」

「こんな感じで、いっつも楽しくやっています！この1年間、改めてよろしくー」

「よろしくー」

　二人揃って頭を下げて、自己紹介は終わったのだった。

「工藤さん……いえ、籍を入れたのだから、下の名前で呼んだ方がいいでしょうか」

　席に戻ろうとしたら、春先生が仄暗い視線で俺たちを睨んでくる。怖い。

「はい。どちらでも」

　思わず、背筋を正してしまう。

「後で職員室に来て下さい」

「わ、わかりました」

「は、はい」

　凄い迫力だったので、反射的に頷いてしまう。

　古織の自己紹介・漫才風味はこれにて終了したのだった。

　まったく、俺の相方は、突発的な奇行をするのが好きなものだから。

　それに応じるのが満更でもない俺も同類か。

　この話が全校に広まって、色々な影響が出てくるのだが、それはまた別の話。