樹の守り神たち(3)
冷たくなった
思いっきり自分の頬を彼に押し付けて、今の私の気持ちを表した。
絶対ひとりでは無理だと思う。でも守護神が連れてってくれるなら、あの人に会うことができるような気がした。
私のおばあちゃん、御神話 椿に会う勇気が持てるような気がした。
そうでなかったら、私がおばあちゃんに会えるわけがないから。
おばあちゃんは、私のために自分の命を落としたのだから。
なんて言えばいいの。なんて謝ったらいいの。なんて説明したらいいの。
私が産まれる前のおばあちゃんに会って、何と言って説明したらいいの。
そんなこと、今の私に分かるはずない。中学生の私には、おばあちゃんの気持ちを知ることなんてたぶん無理。
だけどだからこそ教えてほしい。樹の守り神たちを書き残した理由を。私を命がけで助けた理由を。あの物語の結末を。
私に教えてほしい。
『ツバキに会いに行くのだな』
「うん、ちゃんと私の口からおばあちゃんに説明したいの」
『ならば付き合おう』
「ありがとう守護神」
昇り切った朝日は、私たちの影を長くして露頭の壁に映した。
そこから家までの道のりは、私がおばあちゃんに会うまでの年月をさかのぼっていく階段をかけ下りるなんて、おかしな感じがした。でも結局2階の踊り場で下を見下ろす私。
「ウチの階段が個性的な形なのって、このためだったりして」
『だったりしていないと思うのだが』
「言ってみただけ」
『準備はいいのか?』
「うん」
本当は気持ちの準備なんてできていない。
今でも一言目はなんて話すのかも決めてない。
でもそれでいいよね。
初めて守護神と喋った時、部屋に光の粒が降って、その中に若いおばあちゃんが見えた。あの頃は何歳くらいだったのだろう。とにかく私が産まれていなければそれでいいんだ。
「前に本を読みに行って盗られた時は、家には誰もいない時間を選んだ」
『そうだったな』
「でも少しだけおばあちゃんに会いたいと思ってたんだよね」
『そう言っていたかも知れない』
「そうだっけ……」
梓、ジャンプ!!
「いてて、あれ」
私はめずらしく尻もちで着地してる。緊張しちゃったかな?
「あっ……」
「わわっ!」
「あれ?!」
「えー?!」
自分で飛んだのに、尻もち着いたまま立てない私が見上げた視線のすぐ先は……。
「おばあちゃん……」
「お、おばあちゃん?!あなたって……」
すごく若いおばあちゃん。こんな若い人に“おばあちゃん”だなんて、わけも話さずに失礼だよね。
すごく背が高くて綺麗な黒髪と長いまつげ。小さな私が抱っこされてたときは分からなかった。
それにやっぱりママに似てる。じゃなくて、ママが似てる。
てことは私も似てるのかな。
「あの、私、御神本 梓です」
そう聞いて、おばあちゃんは少し
「待ってた、梓、本当に来たんだね」
「え?」
「でもこんな
なんて自然で明るくて、私が名乗っても驚きもしない。すんなり目の前の物事を受け入れていて、とてもおおらかな人。
「私のこと、知ってるのはどうして、なの?」
「そっかアズサか、いい名だね」
「私が
「
「すごーい、みんな木の名前になってるよ」
「あ、あのね、私」
「そうだったね、じゃあ梓からここに来た理由を聞こうかな」
おばあちゃんには、なぜか私を見てさほど驚かなかった理由があるみたいだった。でも私は、自分の口からちゃんと説明するって決めてここに来た。
なのに、なのに、なのにどうして。
涙が止まらなかった。
たまらなくなって、どうしてもそうしたくって、おばあちゃんの胸に顔を
「うわあああああん、わあああああん、ごめんなさい、ごべんなさい」
ちゃんとするって決めたのに、ちゃんと説明しなきゃなのに、私は大泣きしてた。
ずっと、ごめんなさいと言えずに生きてきたことが私の心をたぶん駄目にしてた。だから本当はずっと言いたかった。こうしたかった。
戻らなかった記憶の中でも、取り戻した記憶の先にも、ごめんなさいと言えない自分が苦しくて、必死にもがいてた。
だからこうするしかなかった。
おばあちゃんは私を抱きしめて、頭を
私の涙で彼女の胸元がぬれてしまって悪いことしてるのに、変わってない彼女の匂いの懐かしさが、どうしても離れたくない気持ちにさせた。
会いに来てよかった。
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