橋の端と端(7)
「待ってくれ、頼む!やめてくれ!」
あの少年は必死に叫んでいた。
この封筒を渡さないでくれと叫ぶ声。
なのに今、走る私の呼吸の音だけがなぜか聞こえた。
息を切らす自分の呼吸が。
生きて呼吸してる私は誰?
「エリス!!」
叫んでるあの少年は誰?
あの少年の記憶。
私にはあるはずのない、あの少年の記憶。
「私はパパを止めたいの」
「僕と一緒に止めようよ」
頭の中でふたりの会話が聞こえた。
私はあの少年と約束した。
『梓、君は自分だぞ。惑わされるな』
そして守護神の声に救われた。
「あーっ!!私、なんで走ってるんだっけ?!」
『その封筒は一体何なのだ?!』
「それだよ、なぜあの少年はあんなにやめてほしいのかってとこ!!」
『エリスの父親は何をしようとしているのだ』
「あっ!!キョコがいる!!」
「エリス様、こっちです!!」
「キョコ、添乗だったんじゃ?!」
呼び込まれた部屋もまた
「おお!来たか来たか、会いたかったぞ我が娘よ!」
部屋の中央に立つ男性は、私を見て我が娘と呼んだ。
この人がエリスの父親でここのオーナー、ジィオスって人なんだ……。
白髪のライオンみたいな
「ただいま……あの、私」
「おお、その封筒か?」
「そちらエリス様からのご提案です!!」
「えっ?!キョコ、何それ?!」
「そうか、そうであれば
「実行って?何のこと?」
「なんだ、知ってるだろう父の仕事を」
「だけど、どういうこと?」
「はっは、我が社は“
「
「仕方ないじゃないか、もうお金持ちは満足しないんだぞ?エリス、お前も見たじゃないか、天災や戦争の歴史をなあ。それを見て大喜びする客をなあ」
「天災や戦争を……
「今さら何を言うかなあ、これから起こす地球上最高のイベントだってもう準備されいるじゃないか、あとはバーンだ」
「何よ!!それ!!」
「ユーラシアプレート巨大地震だろう?三賀山断層はそのスイッチなのだろう?」
真っ黒に流れる悪意が私の体の中に入り込んでしまった。ドロドロにうねり渦巻く
お腹が痛い。苦しくてもう立ってられない。
この人はお金儲けのために、過去の人々の苦しみをショービジネスにして楽しんでる。しかもそれだけじゃ飽き足らず、わざとこれから天災を起こさせようとまでしてる。
「狂ってる」
何もかも狂ってる。
時間旅行も、この商売も。
「ぬかせ!!これが我が社だ!!はっは、これが世界ブランド【
「駄目だ!!エリス!!」
「あっ!!」
「エリス様!!その者は
また私は
キョコからの頼み、あの少年からの反対、判断は私が下さなければならない。
これって……。
キツネ顔の女からの頼み事と、タヌキ顔の男からの頼み事。
そのどちらかは嘘。
マコトを見極めよ。
たしかそうだった。
「マコト!!」
「エリスこっちだ!!」
少年の名はマコト。
マコトとエリスの手はしっかり繋がれてふたりは走り出す。
マコトはエリスとある約束をしていた。
「パパはもう自分では止められなくなってる。お金儲けのためにわざと大きな災害を起こさせようとしてる。マコト、私はパパを止めなきゃならない」
「絶対にそんなことさせちゃ駄目だ。巨大地震を起こさせるなんて絶対に。僕と一緒に止めよう、自分たちの祖先になる人々を守ろう」
「ありがとう、マコト」
エリスはちゃんとそのことを憶えてたみたい。
本当によかった。
《反逆行為発生》
《反逆行為発生》
《反逆行為発生》
「マズイぞ!!ねえ、エリス!!緊急脱出ルートから出るけど、逃げ切るまで絶対にあの亀の奴ら“
「うん、大丈夫」
マコトが案内してくれたルートから抜けて開かれたハッチはタワーの根元に通じていた。
こちらに吸い込まれる外の空気が、エリスの長い前髪を踊らせてる。
「さあ、行くんだエリス」
「マコトも行こう、すごく前の遺跡で会ったでしょ、あの時代に行こう」
「えっ、エリス……君は」
「あそこだ!!あのハッチだ!!」
「浦島亀だ!!アイツらに捕まったら終わり、
「うん!!」
「今だ!!」
「マコト待ってて、きっと迎えに来るから!!」
そして私は何も考えず全速力で走り出した。
「守護神!!あの橋まで行けば、橋の上から後ろジャンプで逃げられるよね!!」
『そうしよう、それしかない』
大丈夫、亀に追い付かれそうだけど、もう少しで橋に入る!!
でもその時に少しだけ気になったことがあった。
「あ、あの子って……」
橋のこちら側にあのリカちゃん人形のような少女がいた。
『梓!!飛ぶんだ!!』
「うん!!」
私は橋の欄干に足を掛けて立ち上がった。
なのに。
「何これ?!透明な壁がある!!飛べない!!」
橋は飛び降りできなくなっていた。
『無理だ!!もう追い付かれるぞ!!』
「あなたたち、どこへ行くの?」
《追跡行為検知》
「あなたたち、どこへ行くの?」
《追跡行為検知》
「あなたたち、どこへ行くの?」
《追跡行為検知》
「邪魔だ!!追跡行為ではない!!あの者は反逆者だ!!セキュリティを切れ!!」
「何?!どうなってんの?!」
『梓、構うな!!走るんだ!!』
振り向けば、橋の向こうで亀の集団は足止めされていた。私は無事やっとの思いで露頭の崖までたどり着いた。
でも、ここまで走りながら思い出してた。
『君は実に才能があるな』
「は?落ちたら死ぬでしょ?」
『エルクァフゾに落下はない』
「そんな単純なの?」
『ナノレベルに噛み砕いているのだ』
「やっぱ無理、怖すぎる」
『背後はフワフワの雲だ』
「イヤ!!やめて!!」
『さあ!!ジャンプだ!!』
ジャンプ!!
私はあの時よりも勢いよく飛び出し、ただ青い空を仰向けに眺めながら後ろ向きに“
元の世界へ。
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