都市伝説(3)

 湿った寒風かんぷう寒気さむけとなって私の背筋をゾッとさせたのか、女子中学生の自宅前で朝の登校を待ち伏せる変態男子中学生のストーカー行動に恐怖を感じたためなのか、たぶん今の自分を鏡で見たなら、きっと強張こわばった表情で、凶悪事件の犯人なんかをニュースで見る自分が鏡の中にに想像できた。

 このままこの玄関のドアを閉めると共に、私は自宅に戻ります……と無言で言い残し、ジワリと後退あとずさりする私をこのまま見逃すものかと、ストーキング男子がさらに声を上げた。もうそれだけでおののくほどの恐怖。


「お願いだ、教えてほしいんだ!!」


 この意味不明な発言そのものが、初めからだけど心の底から怖くて、足の裏が地面についているハズなのに、その感覚が全然なくなってしまってて、地面を踏んで立っている感じがしない。ってことは、つまり歩けないってことなんだよね。例えば強烈に足がしびれて、足の感覚が全然ない状態で、もう足がどこに触れているのかさえ感じられないカンジ。

 この感覚、私は夢の中でよく体験する。

 逃げたいのに、逃げられない。

 体をこう動かしているつもりなのに、思い通りに動かない。

 声を出してこう叫びたいのに、声がまったく出ない。それと今まさに同じ。


「御神本さんが見たUFOに乗っていたのは、どんな生き物だった?!」


 こわいこわいこわい!!もうやだ!!マジでやだ!!

 強引に動かない足で逃げようと試みる。とりあえず無理そうだけど、こうなったら、へっぴりごしでも、スカートがめくれていても、もうどうでもいいから今この恐怖から逃れたいとだけ思った。


「たのむ!!こんなこと誰にも聞けないんだ!!」


 その声に、私の余計な好奇心からなのか、わずかに視線だけは声の方へ向いたらしく、自分の背後で『たのむ!!』と叫んだ声の主(ストーカー)が、なんと地面におでこをこすりつけてる姿が目に入った。

 驚きのあまり、のける私。

 なおも、人んちの玄関先で土下座継続中の学生服姿のストーカー。

 そこに偶然にも通りかかる近所のご婦人。

 このどう見ても異常な光景。

 その直後、私は居ても立ってもいられなくなり全速力で走って逃げだしていた。あの土下座系男子をうまくけたのか、踏み越えてきたのか、飛び越えたのか知らないけど、とにかくその後は、学校までの道のりを必死に駆け抜けるだけ。

 なのに、なのにどうして、ストーカーもまた必死に私を追いかけてきている。

 こんなときこのシチュエーションを察して助けてくれる大人なんて、きっといないんだろうな。どうせ中学生がじゃれ合ってる程度にしか思われてないんだよね。ってそんな余裕ない!!

 でもあと少しで学校だし!!私の勝ちだし!!


「あっ、梓ちゃん今日は早ーいんだねー」

 やはり彼女は神!!

 私の女神、見角 棗!!

 自分に舞い降りた女神の後ろに、すかさず隠れる私。

「えっ?!えっ?!なに、どうしたの梓ちゃん大丈夫?」

「私!!若林に襲われるかも!!」

「えええー!!なんでー!!」

 そして追っ手はフラフラとゾンビみたいにゴールして、ゼエゼエ言いながら、なおも何か言葉を発しようとしている。

「ぜ、だんぜ、ぎげぐんだよ」

「ぶ、ぐ、ぶなぐ、うまく、言えない」

「うまく言えないんだ、なんて言えば相手に理解わかってもらえるのか、自分の気持ちを伝えるにはどうすればいのか」


 なんか今は普通、そう思った。


「いつも自分は変な風にしか話せないから、およそ気持ち悪がられて、でもどうせ修復しても意味ないから友達なんていらないけど、御神本さんにはどうしても教えてほしくて……」


「梓ちゃん、話だけ聞いてみない?」


 たぶん、若林って、自己表現が下手ヘタで周囲からは勘違いされるタイプなのかも……。

 それって、私も似てる……?

 そう感じながら、私は親友の提案に返答する。


「ぜーったいヤダ!!」

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