死について自覚と覚悟を持つべし

 鮎川哲也賞の一次選考の結果発表は、例年、十二月末頃です。

 個人的な話ですが、年の瀬に亡くなった友人がいます。

 昔、それこそ、新人賞に応募をするようになる前から、一緒にミステリーをつくっていました。大学ノートに二人してネタを書いたり、名探偵っぽい名前を考えたり、自作の推理小説を読ませあったり。


 推理小説には、当たり前のように死がついてまわります。

 いわゆる「日常の謎」を考えればわかりますが、本格ミステリの本質は謎解きであり、暴力による理不尽な死の真相を明らかにすることが芯ではありません。

 理不尽や、もう語ることのできない死者と生者をつなぐのは、本格ミステリの大きな魅力です。「魅」の一文字を取り去ってもよいでしょう。

 ときに「これはつくりごと、すなわち、嘘なのだ」と割り切って、(私たちミステリーの紡ぎ手は)記号的に死を用いますが、実際に二酸化炭素を吐き出し、酸素を吸って呼吸して、心臓というエンジンを稼働させている以上は、死に対する尊厳(裏を返すまでもなく生への尊厳でもあります、逆もまた真なりですから)を持っておきたいもの。

 本格ミステリはゲームでもあり、遊ぶからにはふざけないで本気でなければならないと思うのです。

 あらゆる愉しみは、生きているからこそ享受できるわけですから。

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