第77話 追放テイマーとそれぞれの想い


「うわぁ、ついに勇者メンバー勢ぞろいじゃん。あとでサインしてもらってもいいですか!」


 ウェイトレス姿のコーディーが目をきらきら輝かせている。

 まるで憧れのヒーローに出会った子供みたい。

 

「コーディー、個室を貸してくれてありがと」

「ううん。大親友の頼みだからね。これくらいまかせてよ!」


 うわぁ。

 なにその笑顔。

 私の大親友ってば、まるで別人みたいなんですけど。


「それじゃあ、皆様ごゆっくりおすごしくださいね。あ。お料理は出来次第お持ちしますので」


 彼女は、私たちを奥の個室に案内すると、嬉しそうにキッチンに戻っていった。


 今私たちがいるのは、フォルト村の中央広場にあるレストラン。

 ちょっと前までは、村で食事を食べるって言ったら、ここしかなかったんだけど。


 今は人もたくさんふえたし、小さな丘を取り巻くように、美味しいお店もオシャレなカフェもたくさん出来た。

 田舎暮らしがしたかったはずなのに……。


 なんだか。

 どんどん賑やかになってるんだよね。


「えーと、あらためまして。お久しぶりです、ベルガルトさん!」

「そうだな。また、皆でこうしてそろうことになるとはな」

「いっとくけど、最初にお姉さまと合流したのは私なんだから!」

「いえいえ、それはこの賢者たる私ですよ、ダリアさん」

「順番なんて……旦那様はわたくしを情熱的にむかえてくださいましたわ」


 戦士ベルガルトさん。

 魔法使いのダリアちゃん。

 賢者アレス様。

 精霊使いのシェラさん。


 少し前まで、勇者様と一緒に旅をした、大切なパーティーメンバー。


 ……この暖かい雰囲気が、なんだか

 ……すごく懐かしい。 

 

「お、お姉さま?」

「どうした、ショコラ。なにかあったのか?」


 私の顔をみたダリアちゃんとベルガルトさんが慌てている。

 どうしたんだろ?


「ショコラさん、よろしければこれを……」

「旦那様、わたくしのハンカチをお使いください」


 アレス様とシェラさんが同時にハンカチを差し出してきた。


「……涙を拭いてくださいませ、旦那様」


 うわ。言われて初めて気が付いた。

 いつの間にか頬に涙が……恥ずかしい!


 慌ててシェラさんからハンカチを受けとると、濡れた頬と目を押さえた。

 手の平からラベンダーの甘い香りが広がってくる。


「ありがと……」

「いいえ、わたしくしのものは旦那様のものですので」

 

 シェラさんは、出会ったころからずっと優しい。

 こんなこと……冒険してた頃にもあったなぁ……。

 勇者様の態度や言葉に落ち込んだりして……。

 あの頃は……勇者様をめぐる自称ライバルだったのに。


 あ。

 そうだ。

 勇者様だ。


「ねぇ、ベルガルトさん。勇者様が地下牢に捕らえられたのって本当ですか?」

「ざまぁですわね。あんな生ゴミ……そのまま埋めてしまえばいいのに」


 優しいシェラさん……あれ?

 性格変わってません?


「勇者様か……勇者は、ショコラなのだろう?」


 ベルガルトさんが、私の腰にある聖剣を見つめて不思議そうにつぶやいた。


「あはは……そうですね。元勇者様、でしょうか?」

「そうだな。あと……俺に敬語なんて使わわなくていい」

「でも」

「良いんだ。お前は勇者なのだから」


 んー。


「えーと、慣れてなくて。なんだか違和感があるんですけど……」

「旦那様。ベルガルトは、旦那様と親しくしたいだけなのですよ~」

「お、お前! 何をいってるんだ!」

「冒険中も、ずっと羨ましそうにアレスやゴミムシを見てましたから」


 うわぁ。

 なんてさわやかな笑顔で、とんでもないこと話してるの、シェラさん!


「シェ、シェラ。お前性格変わり過ぎだぞ!」

「あら。もともとこういう性格だったんですよ。ゴミムシのせいで我慢していただけです!」


 シェラさんは嬉しそうに私の腕に抱きついてきた。

    

「お姉さま、私も私も!」


 反対側の腕にダリアちゃんがぴったりくっついてくる。

 なにこのハーレム状態。


 ってそんなことより。

 今は元勇者様の話を聞かないと。

 

「それで元勇者様と王国は今どうなってるんですか?」 

「ああ。元勇者は捕らえられて、今王国の権力は公爵家……あの女がにぎっている」


 あの女って……公爵令嬢のカトレア様?


「油断しないほうがいい……あの女は……危険だ」


 確かに。

 熱い視線は怖かったけど。

 悪い人には見えなかったけどなぁ。


「大丈夫だ。ショコラのことは今度こそ俺が守るさ……」


 ベルガルドさんが視線を宙に泳がせながらボソッとつぶやいた。


「え?」


「はーい! お待たせしました!! 当店自慢のフォルト料理ですー!」


 扉が大きく開いて、大きなお皿を抱えたコーディーが入ってきた。


「え? なに? もしかして大事な話し中だったりしました?」

「い、いや。そんなことは……ない」


 えーと?

 とりあえず、美味しい料理を食べてから色々考えよう。

 おなかが空いてたら、いいアイデアも浮かばないもんね。

 

 うん。     



**********


<<ベリル王子視点>>


「とりあえず、作戦は成功ってことかな?」

「そうですね。勇者もつかまりましたし。王国は魔界に降伏するそうですよ」

「うん。少し計画とは違ったけど、おおむね予定通りだね」


 思わず苦笑いする。

 公爵家がこんなに早く動くとは思わなかったな。

 

 本当は僕が乗り込んで勇者と対峙する予定だったんだけどな。

 

「それで、王子様はどうするんです?」

「どうもしないよ。アイツがショコラの邪魔になりそうだったからね」

「王位を取り戻したりはしないんです?」


 賢者アレスは腕組みをしながらまっすぐ見つめてくる。


 こいつ……。。

 僕の回答はわかってるくせに。


「そんなつもりはないさ。僕はね、王子としてではなく、一人の男として彼女の近くにいたいんだ」

「王族の義務を捨ててでも……ですか?」

「彼女の下にいたほうが、国民も幸せになれる。そう思わない?」

「まぁ、そういうと思いましたよ。ただ、もし彼女を悲しませることがあれば……」

「あはは、同じセリフを君に返すよ」

 

 瞳を見ればわかる。

 彼は僕の同士であり……ライバルだ。


「さて。これでご主人様はどう動くだろうね」

「彼女はノンビリ暮らすのが夢だそうですよ」

「……だろうね」


 転生勇者であり。

 魔王を倒した英雄で、僕やミルフィナや魔王、伝説の獣のご主人。


 やれやれ。

 肩書が多すぎて、とても彼女の望みは叶いそうもないだけど。

 

 それでも、全力でサポートをしてみせるさ。

 僕の。

 僕のすべてをかけてね。 


 ……。


 …………。


 視線を窓の外に向けて、彼女の家の明かりを愛おしく見つめる。



 彼女が元の世界に戻ってしまわないように……。

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