第73話 王都動乱
<<元勇者目線>>
「うし! それじゃ、グランデル王国の防衛会議をはじめますか」
王宮の会議室に並んだ大臣や貴族たちに、高らかに宣言した。
参加者の顔色は暗く、どいつも疲れ果てた印象を受ける。
やれやれ。
前回の魔界との敗戦が影響してるんだろうな。
「なんだなんだ、一回負けたくらいで。元気出していこうぜ!」
転生チートキャラの俺が無事なんだぞ?
こんなのさ。
いくらでも挽回できるにきまってるじゃないか。
「恐れながら……陛下……」
「なんだ? どうした?」
「すでに王都の目前まで、敵は迫ってきております……」
ハイビスの城のから地平線を眺めれば、大きなハートの旗がはためているのが見える。
先日すぐ近くの街が離反したからなんだけど。
「別にさ、アイツらに攻めこまれて負けたわけじゃないでしょ。勝手に離反した奴がでただけで」
「それが問題なのです!」
大臣は真っ赤な顔をして立ち上がった。
「残された国民が動揺しております」
「ふーん、一回負けただけだぞ?」
「恐れながら、勝ち負けだけではなくて……ですな」
大臣は言いにくそうに視線を逸らす。
「いいよ、言ってみて」
「はっ。陛下が……偽勇者だとのウワサが……」
「ふーん? それを大臣は信じてるの?」
「そ、そんなことはございませんが……」
「まぁ、心配しなくていいよ。これも計算のうちだからさ。すぐに魔王も魔界の主もたおしてやるから」
「おおお!」
「本当で……ございますか!」
会議室のどよめきがおこる。
「して、どのような方法で」
「あはは、もう手は打ってあるからさ。俺に任せておけ!」
わかってないなぁ。
一度ピンチになってからの、最後に奇跡的な能力やら現象やらがおきて大逆転!
これ、転生チート物のお約束だから。
「会議中に失礼いたしますわ」
会議室の大きな扉が開いて、赤髪の美女がゆっくりとちかづいてきた。
公爵令嬢、カトレア。
伝統ある公爵家の一人娘にして、この俺の嫁。
グランデル王国の第一王妃だ。
「カトレア様……」
「相変わらずお美しい……」
「お。カトレア戻ったんだね。ちょうどよかった。さ、例の話をみんなにしてやってよ」
胸元の大きくあいたドレスに、目が釘付けになる。
いつもながら、美しいなぁコイツは。
ショコラやシェラとはまた違った大人の色気があって……うん。大変よろしい。
「……陛下」
「どうしたの。みんな快く快諾してくれたでしょ?」
俺の前でうつむいて固まっていたカトレアは、何かを決意したように頭を上げた。
「うふふ。そうですわね。お父様から次のような報告を受けましたわ」
妖艶な微笑みとは、彼女の表情を言うのだろうな。
おもわず息が止まりそうになる。
よし、今夜は久しぶりに……。
彼女は口元に扇を当てると、言葉を続けた。
「神聖帝国も、隣国ファルトマも、海洋王国アクアスも、勇者様へ協力と支援を約束してくれましたわ」
「おお!!」
「大陸の残る強国全てではないですか!」
「さすが陛下!」
さすが、この国で一番大きな影響力のある公爵家だ。
こいつの父に交渉を任せて正解だった。
ここに居並ぶ大臣や重臣たちとは格がまったくちがうよ。
もっとも。
俺が人類の壁になって大陸を救うとなれば、協力しないわけないよなぁ。
だてに前世でラノベやアニメが好きだったわけじゃないからな。
こんな展開は何度も見てきたんだよ。
これくらい余裕だぜ。余裕。
「カトレアも、公爵もよくやった!」
「もしも……『本物の勇者』だったら、だそうですわ」
……ん?
……今なんていった?
カトレアはニコリと笑うと、優雅にお辞儀をした。
「ここまで、ですわね。ほんと残念ですけど、お別れですわ」
「……どういうことだ?」
「うふふ。どうって……」
彼女が手に持っていた扇をぴしゃりと閉じると、会議室に兵士がなだれ込んできた。
「カトレア……まさか裏切ったのか?」
「裏切っただなんて。貴方がここにいる全員を騙していたんですのよね? 偽勇者さん?」
――こいつら。
――公爵家の兵士達か。
一体どうやって城の中にこれだけの兵士を……。
「みなさま、聞いてくださいませ。ここにいるのは勇者を名乗る詐欺師です。私たちは騙されたのですわ!」
「貴様!」
会議室にざわめきがおこる。
「さぁ、こいつの持っている偽の聖剣をとりあげなさい」
「はっ!」
俺は兵士たちに左右から取り押さえられ、テーブルに押し付けられた。
「これが、聖剣……だそうですわよ」
「な、なんと」
「これが聖剣とは……」
会議室のざわめきが大きくなる。
一度、戦士ベルガルドに砕かれた剣はしばらくすると自然に直っていた。
しかも、余計な文字がプラスされて。
『これ偽物なんですけど。おもちゃの剣なんですけど。クスクス』
『まぁ私も鬼じゃないから、自動修復機能だけは追加したわよ。感謝してよね』
刀身に何書いてやがるんだよ!
あのバカ女神!
「……なんだか文字が変わってますけど、皆様、これどう見ても偽物ですわよね?」
カトレアは見せつけるように剣を大きく上にかかげた。
「ではやはり……勇者新聞の情報通り……」
「魔界の主が……勇者なのか……」
「なんてことだ……」
彼女は大きくうなずくと、偽物の聖剣を俺に向けた。
「偽の勇者を名乗り、王国を乗っとった。貴方こそ、裏切り者……ですわよね?」
「カトレア……貴様!」
「わたくしたちは騙されていただけ。魔界の主ショコラ様なら、わかっていただけますわ」
カトレアは両手を組むと、うっとりとした表情でつぶやいた。
「ああ。愛しのショコラ様。わたくしが、貴方様の為に偽物を退治してみせましたわ!」
まるで、ここにいる全員に見せつけるように、芝居がかった仕草で胸に手を当てる。
こいつ!
今度はショコラに取り入るつもりか!
「さぁ、偽物を早く地下牢にぶち込んでくださいませ」
「……俺は転生チートキャラなんだ。絶対に後悔するぞ!?」
「うふふ。なにそれ。聞いたことない言葉ですわ」
彼女は、今までに見たこのないような冷たい視線をおくっている。
くそっ!
まさかこんなヤツだったなんて!
美しい顔立ちと大きな胸に……完全にだまされた……!!
「さぁ、こい! 偽物め!」
「とっとと歩け!」
俺は、公爵領の兵士たちに囲まれて、地下に連れられて行く。
牢に向かう途中、城中の人間から罵声を浴びせられた。
周囲を見渡すと大臣や側近……元国王までいやがる。
こいつら……。
みてろよ。
――復讐してやる。
――必ず、復讐してやるからな!!
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