第68話 追放テイマーと新聞記者


「それではインタビューをスタートさせていただきますね~」

「……ハイ。よろしくお願いします」


 目の前のソファーには、インタビュアーの女性。

 その横にキツネ目の編集長さんが座っている。

 テーブルの上には録音の為の魔道具がキラキラ光っている。


 はぁぁぁ~。

 あれからずっと拒否してたのに。

 結局インタビュー受けることになっちゃったんだよね。


 仕方ないよね。一応魔界のトップなんだし。


 ――よし!

 私は覚悟をきめて頭を上げた。


「なになに? そんなに緊張しないでよ。勇者様~!」


 インタビュアーさんは、両手を伸ばして私の手を包み込んでくる。

 柔らかな手から温もりが伝わってきた。


 元気そうにクリクリ動く瞳。

 栗色の髪を横に結んでいて、サイドテール風にしている。


 人懐っこそうな明るい笑顔。

 私と同じくらいの年齢かな?

 隣に編集長がいなかったら、記者に見えない感じのオシャレな子。


「ホントずっと会いたかったんだよね。うわーホント感激。マジヤバだわ!」


 彼女は立ち上がると、私の隣に座ってきた。

 好奇心いっぱいの目がキラキラ光っている。


 なんだかこの子、圧がすごいんだけど!?

 

「ねぇねぇ、記念にツーショットで撮ろうよ。ハイ、せーの!」

「え? え?」


 パシャっと音が鳴って、彼女の持っていた魔道具が光る。


「イエーイ! ベストショットだよ!! ほらほら」

「ローザさん、今は仕事の時間ですよね?」


 編集長ヘルガークさんの一言で、ローザの背がピンと伸びた。


「だって、編集長。本物ですよ! 本物のショコラちゃんですよ!! マジ尊すぎっしょ!」

「落ち着いてください! 勇者様もひかれてますよ?」

「大丈夫。見てみて、こんなに可愛いの!」


 彼女は持っていた魔道具を編集長に差し出した。

 小さく光る窓のような場所に、笑顔のローザさんと、ひきつった顔の私が映し出されている。


 ふーん。

 なんだか、スマホの写真アプリみたい。

 

「すいません、勇者様。これでもうちで一番優秀な記者でして……」

「この特集号も私がつくったの。見てくれた? すごいっしょ!!」


 彼女がカバンから取り出したのは、例の私の特集号。


「ホントはさ、本人に直接取材したかったんだけど。勇者……あー、元勇者だっけ。そいつが許可しなくてさぁ~」

「そうなんですか?」

「そうなの、ひどいっしょ? あと敬語いらないって。私らタメだから!」

「タメって?」

「私も十六歳ね。よろしくーっ!」

「あ、う、うん」


 彼女は手でピースサインを横にしたようなポーズを取る。

 あーわかった。この子って。

 前世でいうギャル系のノリのなんだ。


「はぁ……いいから、取材をはじめなさい。お忙しい中時間をいただいているのですから」

「んじゃ、そろそろ始めますか。ショコラっちも準備いい?」


 ……ショコラっち?


「あ、うん。大丈夫」

「それじゃあ、さっそくいっくねー! 最初の質問はぁ~」


 よし!

 今日の日の為に、いろいろ想定して回答は考えてあるから。

 どんな内容でもどーんとこいよ!!


「ショコラっちの好き人はだれ? これもちろん、ラブのほうだからね?」

 

 ……。


 …………。


 え?


「ほらほら、特集号の写真なんて、完璧に恋する乙女っしょ!」

「え。これは……べつに……」


 だって。

 その写真って。

 あの時大好きだった……勇者様が撮ったものだから。


 まぁ……魅了チャームの魔法のせいだったんだけど……。


「やっぱり、元勇者? それとも魔王との禁断の愛?」

「どっちも違います!!」

「私の独自取材だと、ベリル元王子なんて名前も出てきてるんだけどなぁ~」


 ええええ!?


 ちょっと。

 なんでそこで王子の名前まででてくるの!


「ふーん。わかったからいいや。へー。そうなんだ~」

「え、ちょっと?! なにがわかったの?」

「それは、ねぇ……」


 ローザさんはにやにやしながら、口元を押さえている。


「こら! 聞きたいことはそれじゃないですよね! しっかりインタビューしてください」

「いたぁい!」


 編集長さんが近づいてきて、彼女のあたまにこぶしを落とした。 


「本当に申し訳ありません。本人にはあとで強く言い聞かせますので……」

「なによ。私は読者が知りたい情報を……」

「ローザさん!!」

「……ハーイ……」


 彼女の表情が急に真剣になる。

 まるで何かのスイッチが入ったみたい。


「それではあらためまして。ショコラ様は魔界の主ということですが、どのようにしてトップに立たれたのでしょうか?」


 なにこれ。

 口調までいきなり変わってるんだけど。


「はい、調教のスキルで魔王さんの主になってしまいまして」

「なるほど、勇者の力で魔王を打ち倒したというこことですね」

「いえ。そうではなくてですね、偶然、調教魔法の中に魔王さんが飛び込んできて……」


「なるほどなるほど。聖なる力で魔界を平定されたのですね。さすが勇者様!」


 ……あの?

 ……人の話聞いてます?


「次の質問です。先の王国との戦いでは、先陣をきって聖剣を振るわれたとの話でしたが、やはり偽勇者が許せなかったのでしょうか?」

「違います! あれは目くらましのつもりで!!」


 賢者アレス様が授けてくれた作戦で。

 聖剣の光が眩しくてひるんでるうちに、倒してしまおうっていうものだったんだけど。


「なるほど。聖剣で戦えば、おのずと王国にいるのは偽物だとわかりますよね」

「言ってない! そんなこと一言も言ってないから!」


「次の質問です。魔王軍が使用していた光る棒ですが、あれはなんだったのでしょうか?」

「あれは吟遊歌姫のコンサートとかで使用されてる応援用の……」

「ふむふむ。魔王軍が勇者様の聖剣をリスペクトして……なるほど。奥が深い武器だったのですね」

「違うってばぁ!」


 もう! 取材ってこんなのだっけ?!


「その戦いで、グランデル王国の半分を占領されましたが、このまま王都に攻め込む予定でしょうか?」

「いえ。戦いの後に、魔界に入りたいといってきた村や町が加わっただけなので。攻め込む予定は全くないんです」

「なるほど。今の国王は偽勇者だ! 倒してやると!」

「思ってないし、言ってないってばぁ!」


「こら! 取材もインタビューも正確に!」


 再び、キツネ目編集長ヘルガークさんのげんこつが振り落とされる。


「いたぁい。だってこんなの……お約束の内容しか期待されてないっしょ?」

「それでも、読者に誠実でありたい。それが私のモットーです」

「でもさ、その方がきゅんで絶対売れるって!」

「……なるほど。確かにそうですね」


 編集長のメガネが怪しく光る。

 え、冗談ですよね?


「読者に誠実でありたいんですよね?」

「勇者様。読者が求めている内容を提供する。それも誠実なありかたの一つだと思いませんか」

「思いません!」


 かっこつけてるけど。

 ようはウソじゃないですかぁ。


「ふむ、心優しい真の勇者様は、人知れず魔王を倒し世界と魔界に平和をもたらしていた。そういう筋書きでいきますか……」

「やっぱそうでしょ? それしかないっしょ?!」

「これは……五倍……いやもっと売れますね……」


「そういうのって、本人の目の前でいいます?!」


 私はハイタッチを交わす二人に抗議する。


「なになに。ショコラっちも加わりたい? イエーイ!」

「ほらほら、勇者さまも。イエーイ!」

「イエーイじゃありませんってば!」


 あーもう。

 勇者新聞なんて、今後絶対信じないんだから!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る