第58話 追放テイマーと温泉の効能


 光輝く聖なる剣。

 それは、勇者だけが使える、お約束の武器。


 なんだか聖なる力が与えられてたり、精霊の力が込められていたり。

 小説やゲームによって多少ちがったりするけど。でも。

 

 普通は、普通はさぁ。

 伝説の最強武器だよね。


 ピピピピピピッ!

 ピピピピピピッ!


 ――突然、聖剣から大きな音が響き渡る。


「いけない、もうそんな時間なのね!」

「……エリエル様、これって?」

「ああ、それは時計のアラーム機能よ」

「え?」


 キョトンとする私をみて、女神様が大きな声で笑い出す。


「ちょっとちょっと、なんで驚いてるのよ。スマホなんだから、時計の機能くらい当然でしょ」


 うわー。

 あらめて、刀身の表面にきらきら輝く画面をのぞき込む。

 

 ……うん、完全にスマホだよ!

 ……剣なのに……聖剣なのに!!


「さて、私の仕事は終わったわね。一度天界に戻って女神長に報告してくるわ」


 エリエル様は満足そうにうなずくと、背中の小さな翼を羽ばたかせた。


 宙に浮かび上がる、金髪の美少女。

 白い翼が忙しそうにパタパタ動いてる。


 可愛いぃぃ。

 可愛すぎる!!

 

 エリエル様は、私の視線に気づくと、頬を真っ赤にしながら投げキスのポーズをした。


「絶対絶対連絡してよね! やっと話せるようになったんだから!」

「う、うん」


 剣に話しかけるのかぁ……。

 人がいない時にこっそり使うしか……。


 彼女は光を放ちながら、ゆっくりと吹き抜けになっている神殿の空に上がっていく。


「一応、私がこの世界に来れることは秘密だから、時間を少しだけ巻き戻して再生するわね」

「そんなこともできるの?」

「あたりまえよ! 私はスーパー女神だからね!」


 彼女は最後に両手を口元にあけて、大きな声で叫んだ。

 

「ね、願い事。女神様との結婚とかでもいいんだからね! 考えといてね!」


 やがて光が小さなくなって。



 ――いきなり、目の前にリサの胸があった。



**********


 なんなのこれ。


 くくく、苦しいぃぃ。

 おもいきり押し付けられてて、息が出来ないんだけど!


「ちょっとぉ、いきなりあばれないでよ、ショコラ!」

「もごもごもご」

「あのさ、リサ。それショコラが苦しんでるんじゃ?」


「あー……」


 ぷふぁぁぁ。

 リサの腕から解放された私は、思い切り空気を吸い込む。


「ショコラ、大丈夫ぅ?」

「あはは、ごめんごめん」

「はぁはぁ……、もう少しで別の世界にいくとこだったよぉ」


 ちょっともう!

 なんてとこで巻き戻すかな、女神様!


「ねぇ。この女神像って、光ってたよね?」

「うん……光ってたとおもうんだけど……」


 リサとコーディーが、私の背中をさすりながら、不思議そうに女神像を見上げている。


「あはは。陽の光が差し込んだんじゃないかな? ほら、この神殿、女神像の上が吹き抜けになっているし」


 私は、天井の隙間から見える太陽を指さした。


「うーん、そうだったのかな、どうも記憶があいまいなのよね」

「私も私も。んー、そうね。アイドル的こういう時には……」


 珍しくコーディーが真剣な顔をする。


「「こういう時には?」」


「おもいっきり、歌っておどっちゃおう!」

「……え? なんで!?」


 頭にハテナが浮かんでいる私たちの前で、コーディーが嬉しそうに両手を広げる。

 

「よく見てよ。陽の光を浴びる女神像をバックに歌ったら、絶対楽しいと思わない?」

「はぁ? 全く思わないわよ」

「ごめん、私も思わないかな」


「いいから、二人ともこっちに来て! 温泉の湯けむりがステージのスモークみたいでしょ?」


 私とリサは、コーディーに引っ張られて、陽の光を浴びた女神像の下に連れられていく。


 ……あれ?

 今、湯気の奥に影見えたような……。


「ストップ! 今向こうに影が見えなかった?」

「えー? 誰もいないよ?」

「ほら、人が来たなら邪魔になるから。おとなしく湯舟に入るわよ!」


「その声はショコラ達だよね。いやぁ偶然だね!」


 湯煙の中からさっそうと現れたのは、金髪に青い瞳のイケメン王子。


 ……。


 …………。


 え?


「……あれ。なんで……タオルは……?」


 ベリル王子はそういうと、トマトのように顔を真っ赤にして固まる。


「「「きゃーーーー!」」」


 私たちは慌てて、湯舟の中に飛び込んだ。


 そうだった。

 ここ混浴だよね。



『神殿でめぐり合う運命の二人』だっけ。


 もしできたら王子と……なんて。


 ……思ってたよ。

 ……思ってたけど。


 でもでもでもでも。

 なんで、こんなタイミングなのよ!!


「ゴメン! 見てない……いや、見たけど湯煙でほとんどみてないから!」


 恥ずかしくて、ぶくぶくと温泉の中に口元までつかる。

 

「ま、まぁ混浴だからね。こんな日もあるわ」

「ねぇねぇ、ベールくん。三人のなかで誰が一番好みだった?」 


 リサとコーディーがお湯に入ったまま王子に近づいていく。


「い、いや。好みって……それは……」


 ベリル王子が耳まで真っ赤にしながら、私にちらっと視線を向ける。


 私はおもわず背中を頭まで温泉の中にもぐってうずくまった。

 

 ぶくぶくぶく。

 

 なんなのこれ。

 この温泉の効能、逆ハーレムとか溺愛だったよね。



 全然効果なさそうなんですけど!?

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