第36話 追放テイマーと調教スキルの光
フォルト村の中心にある大きな広場。
運送ギルドや商人ギルドの近くにあるのが、村で唯一のレストラン。
お昼時でにぎわっていた店内が、沈黙に包まれている。
……え?
……なに?
「……ほら、ショコラ。答えてあげたら?」
コーディーが頬を膨らませながら横を向いて話を振ってきた。
店内にいたお客さんや店員さんたちも、なぜかこっちのテーブルを見ている。
なにこの雰囲気。
答えっていわれても……。
「あの、私の分も注文してあるから、大丈夫ですよ?」
「あ、はい……」
「「「はぁ~?」」」
店内に大きなどよめきがおこった。
「ショコラさ、本気でいってるの?」
「……お姉さま? ウソですよね?」
コーディーとダリアちゃんが慌てて私に詰め寄ってくる。
なになに?
ちゃんと私、自分のオムレツプレート頼んだよね?
「あはは……オレお腹いっぱいだったからさ。ゴメンね、いきなり……」
「あ、そういえば、持ち帰りもできるんですよ?」
「……そうなんだ」
なんでこのイケメンさん、そんなに悲しそうな顔してるのよ。
「この子、昔からそうなのよね~。気を落とさないでね、お兄さん」
「お兄さま、大丈夫よ! 私がついてるわ!」
「あはは……ありがと……」
店内も、さっきから大きなため息が起きてる。
なんなのよ、もう。
「そうだ! 国って言ってましたけど。マオウデさんは、どちらの出身なんですか?」
「あ、ああ……やっぱりカワイイなぁ……」
黒髪のイケメンさんは、ぱっと嬉しそうな顔に変わった。
「……カワイイナア国?」
「ち、ちがうよ! オレは……」
マオウデさんが何かを言おうとしたとき、彼の胸のポケットがふるえた。
「ごめんね、ちょっと失礼。少し席を外していいかな?」
「あ、はい」
彼は、『名刺の入れ』を取り出して耳に当てた。
――うぁ。
――勇者様以外で持ってる人、初めて見た。
えーと。
この世界の『名刺』っていうのは、見た目は前世と一緒で、名前とかが書かれた四角い紙なんだけど。
実は唯の紙じゃなくて、会話の魔法っていうのがバッチリかけられている。
これを使えば、近い距離で簡単な会話だったら会話が可能なのね。
たとえば営業や商談で使用されたり、あと友達同士でおしゃべりしたりかな?
でも、もっと長い距離と時間を話をしたい人はどうするかっていうと。
魔道具の『名刺入れ』に入れて使用する。
スマホの簡易版みたいなものかな?
ただ、すごく高価なものだから、持ってる人は少ないんだけどね。
「すごーい……名刺入れなんて……お兄さんお金持ちなんだね!」
「お兄さま、ステキです!」
彼が席を立とうとする前に、名刺入れから声が聞こえてきた。
「私です、メルクルです。お近くにいらっしゃるとのお話でしたので、迎えにまいりましたわ」
「愚か者! 大事な調略をしておったところだぞ! なに? こっちにくる? ば、バカな。今向かうから待っておるのだ!」
マオウデさんは、慌てた様子でお店を飛び出していった。
あれ? さっきの女性の声と名前。
聞いたことあるような。
……どこでだろう?
**********
「帰ってこなかったね、お兄さま」
「うーん、きっと忙しかったのよ」
結局、あのあとマオウデさんは帰ってこなかった。
冒険者っていってたけど、あんなに凄い物もってるんだもん。
きっと正体は、大貴族か大商人の息子とかじゃないかな?
「はぁ、お兄さまカッコよかったぁ……」
「ダリアちゃんは、気になったみたいね?」
「だってあんなに素敵なんだもん。お姉さまは、どう思ったんですか?」
「どうって……」
頬を真っ赤に染めて、真剣な表情で私を見つめてくる。
風になびく金色の長い髪、青く透き通るような大きな瞳。
うーん、やっぱり天使みたいに可愛いな。
「心配しないで。特に何も思わなかったわ」
「ホントに?」
「うん、ホントホント」
変わった人だなぁとは思ったけど。
「そっか……よかったぁ。お姉さまが相手だと勝てないもん」
「あはは、ありがと。ダリアちゃんのほうが数百倍可愛いから平気よ!」
「……お姉さまはわかってないなぁ」
私たちは、村の中心部から丘のある家にむかって歩いていた。
手にはダリアちゃんの為の生活用品を抱えている。
「ねぇ、お姉さま」
「どうしたの?」
「久しぶりに、お姉さまの
彼女は嬉しそうに、私の周りをクルクルと周りだした。
「えー。調教したい動物がいないよ?」
「ふりだけで良いから。お願い!」
ダリアちゃんは何故か、その魔法陣と光が大好きなんだよね。
「お姉さまの魔法の光、すごく優しい気持ちになれるから大好きなの!」
「それじゃあ、家についたらね?」
「えー、今見たい!」
「……もう」
私は荷物を持ったまま振り返ると、目の前に見える空き地に向かって詠唱をはじめる。
地面に魔法陣が現れて、キラキラと輝きだした。
「やっぱりキレイ。私これ大好き!」
「いつもみたいに近づいても大丈夫よ。人間には何の影響もないから」
「わーい!」
彼女は嬉しそうに、光の中に駆け寄っていく。
「うわ、この光なんです?」
あれ?
光の中から、だれか別の声も聞こえるんだけど。
「わぁ、お兄さまだ。どうしたんですか?」
「い、いや。用事がおわったから追いかけてきたんだけどさ」
「ごめんなさい、それ
「ふーん。なんだかあたたかい光だね」
「私、これ大好きなの!」
……いつの間に光の中に入ったんだろう?
……周りに人なんていなかったと思うんだけど?
やがて。
魔法の光は収まって。
魔法陣があった空き地には、嬉しそうにジャンプするダリアちゃんと、優しく微笑むマオウデさんの姿が見えた。
「ふーん、すごいね。さすがヒロインだ。さすがにびっくりしたよ」
「スキルのことですか?
「いや、このオレを……なんてさ、ちょっと驚いたよ」
マオウデさんは、嬉しそうに片手を差し出してくる。
どういうことだろう?
「そうか。きっとオレは、このために転生してきたんだな。よろしくご主人様」
なんだか感動して涙を流してるみたいなんだけど。
――転生?
――ご主人様?
彼は、頭がはてなマークでいっぱいの私に向けて、自分のシャツをめくりはじめた。
私は慌てて抱えていた荷物で顔を覆う。
ええええ?!
なにこの人、もしかして変態さん?
「お姉さま、これって……」
「え?」
「……オレの人生のすべて貴女の為に」
ちらっと見えたマオウデさんのおなかには、大きな魔法陣が描かれていた
え。
これって、調教の証だよね。
……。
…………。
ええええええええええええええ!?
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