第27話 追放テイマーと迫りくる魔王軍


「ありがとね。可愛いらしい配達人さん」

「ママ、お馬さん可愛かったぁ」

「またね、バイバイ。お馬さんとまた会おうね」

「それでは失礼します、またのご利用をお待ちしております」


 私とベリル王子は、小さなおうちの入口で、女の子とお母さんに手を振る。

 女の子は扉が閉まるまで、一生懸命手を振っていた。

 可愛いなぁ~。

 黒馬のチョコくんも嬉しそうに尻尾を振っていた。



「さて、これで宅配終了だね。この後どうする、ショコラ?」

「……え?」

「……ショコラ?」

「う、うん。ゴメン。えーと、みんなとギルドで合流した後、報告かな」


 私たちは、メルクルさんにお礼をいってお店を出た後、残りの配達を続けていた。

 今のが最後の荷物だったから、これでお仕事終了なんだけど。


 ……なんだけどね。

 

 うぁぁぁ、どうしよう。 

 メルクルさんのお店を出てからずっと恥ずかしくて。


 ――王子の顔がまともに見られないよぉ。

 

「それにしても、勇者の話が本当なら……許せないな……」

「私がなにかミスをして偶然かかったのかもしれないし。彼は神様から選ばれた勇者様なんだよ?」

「そんなはずないと思うけどな。一応父上には報告しておくよ」

「えええええ!?」


 私は慌てて、うつむいていた顔を見上げる。

 イタズラそうな顔をした王子様がすぐ近くにあった。


「やっと顔を上げてくれたね」

「もう! 報告なんてされたら、私が変な人におもわれるじゃない!」


 味方のはずの勇者にスキルをかけられたパーティーメンバーなんて。

 どう考えてもおかしな人物なんだけど! 


「あはは、そういうと思ったよ。名前は出さないから、勇者の危険性だけ伝えておくね」

「勇者様……どうして……」


 言いかけて言葉がつまる。


 だって……ね。

 思い出せば思い出すほど、勇者様のいいところが思い浮かばない。

 まるで悪い夢でも見てたみたい。


「そういえば、ショコラ。お店を出るときになにかもらってなかった?」

「タオルの入った袋とね、名刺をもらったの。なにかあったらいつでも連絡してって。ほらこれ」


 私はカバンからメルクルさんの名刺を取り出した。

 この世界の『名刺』は魔道具の一つで、渡した本人と魔法で短い会話をすることが出来るんだって。


 スキルを解除してもらったうえに、こんなに親切にしてくれるなんて。

 本当に素敵な人だったなぁ。

 魔法国へのスカウト、ちょっとくらい考えてもよかったかな? なんて。


 名刺には前世の名刺みたいに、彼女の名前と役職が文字で書かれいていた。

 えーと。 


 『魔王軍四天王 水の魔性メルクル』


 ……。


 …………。


 え?



**********


<<魔王目線>>



 魔王城では、今後の進軍に向けて重大な会議が開かれていた。

 

 謁見の間には、赤い鎧に身を包んだ魔王軍親衛隊が隊列を整えてひざまづいている。

 その周囲には真っ赤なローブを着た宮廷魔術師たち。


 ――赤装束は、魔王軍スーパーエリートの証だ。


「魔王様、こちらをご覧ください」

「うむ、ご苦労」


 オレは玉座から、壁に貼られた巨大な地図を眺めていた。


「これまでの領地に加え、新たな領地『ハファルル』、『ウラヤシス』を合わせますと、大陸の三分の一は既に我らのものです」

「なるほど、順調ではないか!」

「ははっ! すべては魔王様の為に!」


 側近の一人が、地図にペンで赤丸を付けていく。

 

「して、新たな領地についてはどのような状況か?」


 オレの問いに、親衛隊長が一歩前に出て頭を下げる。


「おそれながら申し上げます。温泉地ハファルルでは、新名物の『魔王まんじゅう』が飛ぶように売れているそうです」

「おお、さすが魔王様だ!」

「年越しはハファルルに決定ですな!」

「いいですなー、温泉を出てすぐ紅白吟遊合戦を見る。最高でしょうなぁ!」


 謁見の間にどよめきがおきる。

 

 ……なに『魔王まんじゅう』って?

 ……聞いてないんだけど?


「ウラヤシスの遊園地は連日、行列が出来ているそうです。報告によると魔王グッズが大好評とのことです!」

「さすが、『魔王ランド』に改名しただけの事はある!」

「おお、さすが魔王様だ!」


 ……なに『魔王ランド』って?

 ……それも聞いてないんだけど?

 

 それじゃあ、魔王の着ぐるみとか、魔王ショーとかあるわけ?

 なんだ見てみたいぞ、それ!


「……魔王様?」

「……うむ、皆のものご苦労!」

「ははっ!」

 

 部下たちにねぎらいの言葉をかける。

  

「こほん、では、今後の我が魔王軍の侵攻先について続けてくれ!」

「はっ! 説明させていただきます」


 側近が地図に各軍の動きを赤ペンで記入していく。

 

 ――それ、さっきから突っ込み待ちなの?

 なんで赤ペンなんだよ!!

 魔法で投影とかできるはずだろ!!


「美しい城と湖のグランデル王国、花の都フランソール公国、水上都市ベネッツなんかが今のお勧めですね」


 側近は、本に目を落としながら地図を指さしている。

 おいそれ、旅行雑誌『大陸ウォーカー』じゃないか!?

 

「おお!」

「どれも捨てがたいな」


 周囲からどよめきがおこる。


「それでは、僭越ながら、さっそく回しますぞ」


 側近のひとりが、地図の横にルーレットを設置してまわし始めた。

 ルーレットかい!

 それなら、赤ペンの説明意味ないよね?!


 ――こいつら絶対つっこみ待ちだ。

 ――くっ、その手にはならないぞ!


「さぁ、魔王様、こちらをどうぞ」

「これは?」

「この矢を、ルーレットにお投げください」


「グランデル! グランデル!」

「グランデルで、勇者と戦って観光しましょう!」

「行こうぜ、グランデル!!」


 ……。


 …………。


「ダーツで決めるんかい!!」


 うぉ、思わず突っ込んでしまった。


「おおおおお!」

「さすが魔王様、素晴らしい気合いですな!」  


 オレの手を離れたダーツはどうやら的に当たったようだ。

 ルーレットの回転がゆっくり停止していく。


 『グランデル王国』


 会場から割れんばかりの大歓声が沸き起こる。


「さすが俺たちの魔王様だぜ、もう、最高っす!」

「魔王様、抱いてー!」

「魔王軍、はっ! 魔王軍、はっ!」


 部下のテンションはマックス状態だ。

 

「皆のもの、落ち着け。グランデルにはすでに、土の魔性ドルドルトが向かっていたな?」

「はっ! 他に水の魔性メルクル様もグランデル王国に入られております」

「ほう……?」


 オレは、伝令の言葉に興味を持った。

 四天王が自ら二人も向かうなんて、人間の勇者は要注意ってことだよな。

 よし、それじゃあ。

  

「聞け! グランデルには我自らが出陣する!」

「おーーーーー!」

「魔王様ーーーーっ! 我々もお供させてください!」


 久しぶりの外出、楽しみだな。

 旅行雑誌『大陸ウォーカー』、チェックしておくか。

 

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