第23話 追放テイマーと光る剣


 甲冑の大男は、並べられた食事を次々と頬張っていく。

 テーブルはあっという間に空皿が増えていった。


「うん、美味いでござる。こっちも美味いでござる!」

「おじさま、よく食べますわねぇ」


 ミルフィナちゃんが目をまんまるにして、テーブルに加わった大男ドルドルトさんを眺めている。


「ははは、四天王……こほんっ、冒険者は健康が第一でござるからな!」

「ドルドルトさんは、冒険者なんですね」

「そうでござる! 我が国の夢を実現する為に、世界中を飛び回ってるのでござる!」


 私の質問に、大きく胸をはって拳をあげる。

 

「さっするに、そなたたちは、吟遊歌姫でござるかな? いやいや心が癒されましたぞ!」


 えーと、『吟遊歌姫』っていうのは、前世でいうと「アイドル」みたいなもの。

 酒場や広場を借り切ってコンサートを開いたりするんだけど、試験を受けてちゃんとした資格をとらないと名乗れない。

 なれるのは、本当に一握りの選ばれた人だけなんだって。


 一度、王都で勇者様と見たことあるんだけど、本当に笑顔がキラキラ輝いていて素敵だったなぁ。


「うふふ、わたくしたち吟遊歌姫に見えましたか?」

 

 ミルフィナちゃんが嬉しそうに、両頬を押さえる。


「ちがうのでござるか? てっきり……」

「私たち、運送ギルドの仕事をしてるんです。ほら、この旗」


 私はカバンから黄色い旗を取り出した。


「おお、なるほどでござる。あはは、失礼したでござるよ。でもお二人ならすぐにカワイイ吟遊歌姫になれるでござる!」

「ショコラちゃん、ショコラちゃん! 二人で吟遊歌姫目指しませんか!!」

「ゴメン、目指さないかなー?」

「おおお、拙者毎日応援にいくでござるよ! ラブリーショコラ、プリティーミルフィナ! ふっふー!」


 えええ?

 

 ……なんか踊りだしたんですけど!

 ……ちょっと恥ずかしいからやめて欲しいんですけど!


「うふふ、ショコラちゃん、一緒に吟遊歌姫の頂点を……」


 ミルフィナちゃんは真っ赤な顔で私に抱きついてきた。

 大きな目が潤んでいる。

 もう、また飲みすぎなんだからぁ。


「そうそう。運送ギルドの人であればちょうど良かったでござる。旅の途中でこの男を見かけなかったでござるかな?」

 

 ドルドルトさんは急に踊るのをピタッとやめて、テーブルに手配書のようなものを差し出した。


「これは?」

「拙者、親友のカタキを探しているのでござる!」


 みんなが、差し出された手配書のイラストを確認する。


 えーと……。


 髪の毛が数本まっすぐ生えてて、ぐるぐるな目と鼻があって、なにか棒のようなものをもってる……。


 ……。


 …………。


 …………カカシ?


「これ、人……なんですよね?」

「もちろんでござる! これは我が魔王軍……こほん。我が国で配布されている手配書でござるよ」

「もう少し特徴が分かればいいんですけど……」


 ――これで国が出した手配書なの?

 ――なんだかすごい国かもしれない。芸術の国とか?


 王子も、賢者様も、手配書を見て首をかしげている。


「なにか他に特徴とかありませんか? 見た目とか行動とか?」

「そうでござるなぁ……」


 ドルドルトさんは腕を組んでしばらく考えたあと、ゆっくりと口を開いた。 


「非常に女好きらしいのでござる。旅先で次々と女子をナンパしてるらしいのでござる!」

「ナンパですかぁ……」

「さらに、同じパーティーの仲間にも手をだしている最低野郎らしいのでござる!」


「なんだそれ。同じ男として許せないな!」


 えー……。

 王子様なんて……天然女タラシなのに……。


「どうしたの、ショコラ?」

「別になんでもありませんー!」


 私の視線に気づいたベリル王子が、にっこりと微笑んでくる。

 もう。

 だから、その笑顔反則だってば!


「非常に女好きのだらしない人物なのですね。他に特徴はありませんか?」


 賢者アレス様のメガネがキランと光った。

 なんか推理ものの探偵みたい。

  

「光る剣をつかって、我々の仲間を虐殺する極悪人でござるな」


 ……え?

 

 ……光る剣?


「なるほど、メモを総合すると、どうしようもない極悪人ですね」

「確かに。僕もそいつを探すのに協力しますよ!」

「おお、頼もしいでござる! わが友よ!!」


 王子とアレス様とドルトルトさんは、がっちりと拳を握り合っていた。


「よし、飲もう兄弟よ!」

「そうですね、乾杯ー!」

「いやぁ、気分がいいなぁ」


 よく見たら、三人共顔が真っ赤になっている。 


 

 私は、少しだけ風にあたりたくて、席を立って窓際に寄りかかった。

 空を見上げると、すっかり星空で埋め尽くされている。


 勇者様……。


 光る剣って聞いて、アナタを思い出しました。

 お元気ですか?

 怪我されたりしてないですか?

 

 無事に魔王を討伐されることを……遠い空からお祈りしています。




***********


<<魔王視点>>



 魔王城は今日も活気に満ちている。

 なにせ部下のやる気が違うからね!


「恐れながら申し上げます! 魔王様!」

「うむ、もうしてみよ」


「我こそは、偉大なる魔王様の燃え盛る参謀! 究極の魔人サンダーボルト!」


 側近の一人が、顔を手に当てながら決めポーズを作る。


「おおおお!」

「さすがサンダーボルト様。なんと素晴らしい決め台詞……」

「我々も見習わなくては」


 えーと、なにこれ。

 魔界お笑い大会第二幕開催?


「次は是非わたくしが! 偉大なる魔王様の最愛の側近、天才頭脳のファイヤーーーーエルツ!」


 側近のもう一人が、くるくる回転すると、大きくジャンプして両手を広げた。


「おおおおお!」

「さすが、気品あふれる素晴らしい決め台詞を!」

「側近の皆様はやはり違いますなあ」


 ……やめて、吹き出すから。

 ……ひざから崩れ落ちちゃうから。


「会議中失礼します!」


 突然、謁見の間の扉が開いて、伝令が飛び込んできた。


「貴様! 重要な会議中だぞ!」

「場合によっては死罪だぞ!」


「よい、申してみよ」


 オレは、口元に手をあてるとと、伝令に話しかける。

 

 いやぁ、危なかった。

 今回もギリギリだよ、ギリギリ。

 もうちょっとで、大笑いするところだった。


 ……伝令にはあとで褒美をとらせよう。


「はっ! 土の魔性ドルドルト様が、勇者討伐の為にグランデル王国へ向かわれました!」

 

 ――魔王軍四天王の一人、土の魔性ドルドルト。


 奴は、土を自在に操って、大量のゴーレムを作り出すことが出来る。

 強大な力で相手をせん滅する、不死の軍団。


 奴にかかれば、勇者どころか、王国そのものがチリになってしまう。

 あの国さ、王都が観光名所でお城とかキレイな場所が多いから、やめて欲しいんだけど。


「ドルドルトに、王都は我が居城とするため無傷で手に入れろと伝えるのだ!」

「はっ!」


 オレは笑いの余韻をこらえるために、マントをひるがえして口元を隠す。


「なんと……すばらしい決め台詞……」

「感動いたしました……」

「さすが魔王様……偉大なるオーラを感じましたぞ」


 ――え?

 ――伝令に頼み事をしただけなんだけど?


「我々も負けてられませんな! 我こそは偉大なる恐怖の魔王軍近衛兵ポルタロウ!」

「我こそは、偉大なる魔王軍の一般兵グラッチョ!」

「我こそは、魔王城で掃除を担当する、偉大なるホウキとハタキの使い手、メッシル!」



 偉大なる魔王軍の会議は、朝まで続いた。

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