第22話 追放テイマーと街での出会い


 グランデル王国の北にある、城塞都市『クルストル』。

 夕暮れの街に、大きな鐘の音と門番のアナウンスが響き渡る。


「まもなく、門がしまります。どなたさまもご注意くださいー!」


 私たちは、城門に向かって走っていた。

 

「急いで! これを逃すと街の外で一夜明かすことになっちゃう!」

「うふふ、それはそれで、楽しそうですわね」

「僕が外で先導するから、みんなは馬車に!」


 王子の合図で、みんな馬車に飛び乗った。



 周りには、同じように門を目指すたくさんの人たち。

 荷物を抱えた商人っぽい人や、剣や盾を持った冒険者。


「いそげー! このまま門に飛び込むぞ!」

「これに間に合わないと、次の魔物討伐の依頼が間に合わない!」

「テントをレンタルしますよー! 諦めた方は是非こちらまで!」 


 街の入り口は、たくさんの人で大騒ぎ。

 私たちの馬車が通り過ぎてしばらくすると、後ろから門が閉まっていく大きな音がした。


「街への飛び込みは大変危険ですのでご遠慮ください!」

「ここまでで閉門しますので、下がってくださいー!」


 笛の高い音と、門番達の大きな声が聞こえる。

 まだギリギリで飛び込んでいる人がたくさんいるみたい。

 あはは。

 なんだか、前世の満員電車に似てる気がする。


「普通に間に合ったね、チョコくん、アイスちゃんエライ!」


 私は馬車を飛び降りると、黒い仔馬のチョコくんと白狼のアイスちゃんをやさしくなでる。

 二匹……じゃくて、一頭と一匹は嬉しそうに目を細めて私にすり寄ってきた。

 ホントにカワイイ!

 

「それじゃあ、まず運送ギルドに行くんだよね?」


 王子がぽんと私の肩を叩く。

 金色の髪が夕日に照らされて、ものすごくカッコいい。

 

 私は馬車でのひざ枕を思い出して、思わず固まってしまった。


「……ショコラ、どうしたの?」

「う、ううん。まずは輸送ギルドで荷物を降ろして。それから食事に行きましょう!」

「賢者の私が、美味しいお店を調べておきましたよ」

「うふふ、ショコラちゃんと一緒のお食事。楽しみですわ!」


 はぁ、まだ胸の奥がドキドキいってるよ。

 顔が赤くなったの、バレてないよね?



**********


 運送ギルドと冒険者ギルドの間にある、大きな酒場。

 夕飯時ってこともあって、店内はたくさんの人でにぎわっていた。


「すごくにぎやかですわね、ほら、ショコラちゃん。向こうで歌を歌っている人がいますわ!」


 隣にすわっているミルフィナちゃんが、うれしそうに私の腕にだきついてきた。

 奥のテーブルでは、吟遊詩人が自分たちの冒険を楽しい歌にかえて、その場を盛り上げている。


「吟遊詩人って、こうやってパーティーの戦意をあげたりしてるんだね」

「歌の力ですわね。すてきですわ!」


 ……歌の力……かぁ。

 ……私は勇者パーテーでなにか役に立ててたのかなぁ。


「ショコラちゃん、わたくしも何か歌いましょうか?」

「えー? ミルフィナちゃん吟遊詩人じゃないでしょ?」

「でも歌は得意ですよわ?」


 ミルフィナちゃんは、立ち上がるとニッコリと微笑んだ。

 もしかして、私の落ち込んだ表情に気づいたのかな?


「旗をふって進もう~旗を振って進もう~、大事なにもつを届けるために~」


 彼女は軽くステップを踏みながら楽しそうに歌いだす。

 この歌どこかで聞いたことあるような……。


 ――運送ギルドのテーマ曲だ!


「ほら、ショコラちゃんも一緒に歌いましょう!」


 ミルフィナちゃんが、手を差し伸べてくる。


「えええ?! 私?」

「いいぞー! 嬢ちゃんたち!」

「カワイー! 歌って歌って!」


 近くのテーブルにいた人たちが、一斉にはやし立てる。


「ショコラ、歌ってみたらどう? きっと気分転換になるよ」

「私もショコラさんの歌を是非聞いてみたいのですが」


 王子も賢者様も、にこやかに拍手で送り出そうとしてくる。


 ――もう。

 

「うふふ。一緒に歌えるなんて夢みたいですわ」

「……同じ曲でいいの?」

「もちろんですわ!」


 私は彼女の手をとると、覚悟をきめて歌い始めた。

 ミルフィナちゃんも私に合わせて同時に歌いはじめる。


「「旗をふって進もう~旗を振って進もう~、大事なにもつを届けるために~」」


 周囲のテーブルから一斉に歓声があがる。


「「真心こめてどこまでも~、幸せを届けるために~、あの山こえて谷こえて~」」  


 ミルフィナちゃんは歌いながら、可愛らしくステップを踏んでいる。

 なにこのカワイイ生き物。


「いいぞいいぞー!」

「二人とも天使みたい。カワイイー!」

「是非うちのパーティーに嫁にきてくれー!」


 みんな知ってる曲だから、いつの間にか周囲の人も歌い始めて、ものすごくもりあがった。

 歌い終わって席に座ると、口笛と大きな拍手が巻き起こる。


 正面には、満面の笑みで頬づえをついてるミルフィナちゃんの顔があった。


 ――恥ずかしかったけど、でも。

 ――すっごく楽しかったぁ!



********** 


「いやぁ、いいもの見せてもらったよ。ほら、これは店からのおごりさね!」


 テーブルいっぱいに美味しそうな料理が運ばれてきた。


「え。私たち、こんなにたくさん頼んでないですよ?」

「いいのいいの。いやぁ、みんないい気分で飲んでるみたいだし、ありがとね」


 かっぷくのいい女の店員さんは、嬉しそうに親指と人差し指で丸を作る。

 うわぁ。

 儲かったってことなのかな?

 

「こんなにたくさん。ありがとう、お嬢さん」

「お嬢さんだなんて。あら、あなたハンサムね。私があと数年若かったら!」


 店員さんは、王子の言葉にけらけら笑うと厨房に戻っていった。

 ……でましたよ、天然の女たらし。


「もう、少しは考えて話しかければいいのに……」

「あれ? ショコラなにか怒ってない?」

「別に怒ってませんー!」


 なんで私イライラしてるだろ。

 うーん。

 お腹がすいてるからかな?


「それじゃあ、いただきましょうか?」

「とても美味しそうですわ!」

「ショコラさんと姫の素敵な歌声も聞けたことですし」

「よし、それじゃあ、初めての任務に乾杯!」


 王子の合図で、みんな持っていたワイングラスをこつんとぶつける。

 

 さぁて、どれから食べようかな。


「ぐぅぅぅぅぅぅ」


 ……。


 …………今の音なに?


「ぐうぅぅぅぅぅ」


 もしかして。これって、おなかの音?!

 みんな一斉に、音のする方を振り返る。


 斜め前にあるカウンターに座っていた大きな人から、聞こえてくるみたい。


「イヤ失礼。あまりに美味しそうだったのでな。わはは!!」


 甲冑を着た大男は、席から立ち上がると豪快に笑い出した。


「先ほどは素敵な歌をありがとうでござった! ぐぅぅぅぅ」

「あはは、ありがとうございます……」


 よく見たら、テーブルには水の入ったコップと、おつまみが少しだけしか置いてない。

 

「あのよかったら、少し食べませんか? 私たちだけだと食べきれないので」

「本当でござるか、かたじけない! 拙者の名は、ドルドルトと申す」


 甲冑の男は嬉しそうに手を差し伸べてきた。



 ドルドルト……。

 あれ? どこかで聞いたことある名前なんだけど。

 うーん?

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