第20話 追放テイマーとフォルト村の発展


「すごいよ、ショコラ。いきなり『王室ご用達』なんて、大出世じゃない!」

「うふふ。いやだぁ、リサったら。それ断ったからね。あとココの支払いよろしくね?」


 正面に座っているリサに、両肘をついた状態で笑顔を作る。


「えー? ショコラってば、まだ怒ってるの?」

「うふふ、あのねリサ。ギルドの説明って受付の人がちゃんとするらしいよ?」

「いやぁ。ほらさ、親友だし、省いてもいいかなぁって」


「うふふ、そんなの理由にならない……でしょ、もう!!」

「だから謝ったじゃん。せっかく可愛い顔なんだから怒ったら台無しだよ?」


 ここは、運送ギルドの近くにあるレストラン。

 私たちは、パーティー結成祝いでお店を訪れている。

 もちろん……リサのおごりでね!!


「あはは、本当にキミたちは仲が良いんだね」

「そうなんですよぉ、子供の頃から大親友なんですぅ」


 リサは自分のグラスを、ベリル王子の持っていたグラスにそっと近づける。

 あーこれ。

 勇者新聞にのってた、『気になる異性を落とす方法』。

 さすが、大親友……あざとい。


「ところでぇ。ベールさんは、どのあたりに住んでるんですかぁ?」

「うーん。ちょっとこの村からは遠いかな?」

「そうなんですかぁ~。パーティー結成しましたし、この村に住んじゃうなんてどうですか?」


 そっか。

 リサは私たちをギルドマスターの部屋に案内したあとすぐに出たから、王子の正体知らないんだ。

 無理だから。

 もうすっごい豪華なお城に住んでるからね、この人!


「そうだね、考えとくよ」

「もしよければ、ギルドで物件お探ししますからね。なんでしたら、私のうちでも……キャー!」

「ちょっと、リサ! そのくらいに」

「あはは、気持ちだけ受け取っておくよ」


 王子はグラスをそっと私の方にずらすと、にっこりと笑った。

 ちょっと、なんでそこで私を見るかなぁ。


 しかも、まるで砂糖菓子みたいに甘い表情で……。


 思わず、顔が赤くなる。

 もう。

 そんな顔されたら……意識しちゃうじゃない。  


「ショコラちゃん、顔が赤いですよ? ひょっとして酔っちゃいました?」

「あはは、うん、そうかな?」

「うふふ、真っ赤な顔で可愛いですわ」


 ミルフィナちゃんが、潤んだ瞳で私に顔を近づけてきた。

 ……うわぁ、彼女の方が酔ってるよね?

 やわらかそうな頬がほんのり染まっていて、ものすごく可愛い。


「ねぇ、ショコラ。この人お姫さまよね? そんなに普通に話して大丈夫なの?」

「わたくしとショコラちゃんとの間に身分なんて関係ないですわ!」

「うわぁ」

「ショコラちゃん大好きですー!」


 ミルフィナちゃんは、イスから立ち上がると、私に抱きついてきた。

 彼女の長い髪がゆれるたびに、バラのような良い匂いが漂ってくる。

 どれだけ美少女要素満載なの、この子。



「そういえばさ、村の外れにものすごく大きな建物が建つの知ってる?」

「へー、そうなの?」


 私はミルフィナちゃんに抱きつかれたまま、リサに顔を向けた。


「まだ建築中なんだけどさ、ウチのギルドハウスより大きかったよ」

「運送ギルドより? ちょっとそれすごいねー」


「もしかして、冒険者ギルドが出来るのでしょうか?」


 私たちの話を聞いていた賢者アレス様が、真剣な表情でつぶやいた。


 ……。


 …………。


「えー? それはないですよ。この辺り魔物でないですし」

「まぁ、だよね。田舎だしこの村~」


 私とリサは顔を見合わせると笑い出した。

 冒険者ギルドって、周囲の魔物討伐とか護衛が主な仕事だから。

 この村で依頼なんてくると思えないし。


「うふふ。ちがいますわー。もっと素敵な建物ですの」


 ミルフィナちゃんが、私に頬をよせてきた。


 ……あー。

 ……王家が何かしてるのね。


「まぁ、あれだよね。賢者様の家も出来たしさ。最近この村も賑やかになってきたよね~」

「あはは……そうだね」


 あれ? おかしいな。

 田舎でノンビリとスローライフな予定だったんだけど。

 なんで村が賑やかになってきてるのよ?!

  


**********


<<勇者目線>>



「みんな、この新聞を見てくれ!」


 オレはテーブルの上に勇者新聞を広げた。


「なんだ勇者。魔王軍の動向でも載っていたのか?」

「なになに、『気になる異性を落とす方法』……ちょっと勇者、こんなの読んでるの?」


 うぉ。何読んでるんだこの金髪ロリッ子!

 そんなジト目でオレを見つめないでくれ。


「ちがう、そのページも気になるけど。それじゃなくて次のページ!」

「……お宝オークション記事……ですか?」

「そう! さすがシェラ。で、ここを見てくれないか」


 勇者新聞には、王都で行われるオークション情報が載っている。

 欲しい商品があった場合、上限金額を書いて期日までに郵送するか、直接会場に足を運んで落札するシステムだ。


 前世のオークションサイトに比べれば不便だけど、良い品が安く手に入ったりするんだよなぁ。 

 オレの鎧も、このオークションで購入したものだし。


「ふーん。あ、水晶の杖。これ欲しい!」

「いや、そんなのいいからさ。これ見てくれよ!」

 

 オレは、オークション記事の一番最後のアイテムを指さす。


「……ミスリルの盾……ですか?」

「おお! そんな貴重な品が出品されているのか!」

「へー? 珍しいわね」

「な! これさえあれば、魔王軍のグラッフェルとかいう奴にも勝てるぞ!」


 前回勝てなかったのは、装備の差があったからに違いない。

 そうじゃなきゃ、転生チートキャラのオレが負けるわけがないからな。

 ふっ、日ごろからお宝記事をチェックしてるオレに死角はないぜ!


 なんだなんだ。

 この静寂は?

 さては、みんな。オレのナイスなアイデアに言葉もでないんだな?


「ねぇ、アンタ。こんな高そうなもの、今の私たちに買えるとおもってるの?」

「勇者様……ミスリルは……さすがにちょっと……」

「国王からもらった支度金がまだ残ってるだろ。それを使ってさぁ」


「あんたバカなの? それを料理人と荷物持ちを雇うのに給料に使ったんでしょ?!」

 

 あーそういやそうだった。

 

「いやいや。でも料理人と荷物持ちは必要だったでしょ?」

「どっちも自分たちで出来たわよ! なに勝手に募集してるのよ!」

「勇者よ、ダリアが正しいとおもうぞ」

「勇者様……あの……今からでも」


「どうしたんだい? 料理人が女性だから嫉妬してるのかな?」


 なにせ、最後は顔で選んだからね。

 今のところ、あの二人は嫁候補その四と五だ。

 ふふふ、転生勇者といえばハーレムが基本だからな。


「ああ、もう我慢できない! 私、お姉さまを探しにいってくる!」


 魔法使いのダリアは、大きな声を上げると部屋を出ていった。


「はぁ、勇者よ。魔法使いも募集するか?」


 あのロリッ子ツンめ。

 あんなに妬かなくても……可愛い奴。

 仕方ない……嫁候補のショコラと一緒に、今度迎えに行ってやるか。

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