第19話 追放テイマーと王族の力


 運送ギルドの二階には、事務員の休憩スペースとたくさんの書物。

 そして、通路の一番奥にギルドマスターの個室があった。


「リサ、初めて二階にあがったよぉ。なんだか緊張するね」

「大丈夫よ、別に悪いことしたわけじゃないでしょ?」

「そうだけどさぁ」


 私は、ギルドマスターの部屋の前でドキドキする胸を押さえる。


 今ギルドマスターの扉の前にいるのは、私と親友のリサ。

 それから新しいパーティーメンバー。

 ベリル王子、ミルフィナ王女と、賢者アレス様。

 

 ……あれ?

 ……もしかしてだけど。


 王族を輸送ギルドに誘うのって、不敬罪とかになったりするんじゃないかな?

 賢者様を勇者パーティーから引き抜くのも、国家反逆罪だったり?


 ノー!

 ノーだよこれ!


 私の不安そうな顔に気づいたのか、親友のリサは背中をぽんと叩いてくれた。


「なによ、パーティーリーダなんだからさ。堂々としてなさいって!」

「え?」


 私はびっくりして、リサと顔を見合わせる。


「えって? 書類に書いてあったわよ?」

「ウソ、え? そんな欄なかったよね?」


「ショコラさぁ。名前記入欄の後ろに、マークがあったでしょ?」

「それって、ネコのマーク?」

「そうそう。それに丸がついてる人がリーダーってことなのよ」


 私は、慌てて書類を確認する。

 いつの間にか、私の横のネコに丸がついていた。


 ……。

 

 …………。


 私は慌てて後ろを振り返る。

 ちょっと、なんで視線をそらしてヒソヒソ話してるのよ!


「ほらぁ。だから、わたくし言いましたわよね? ちゃんとお願いしましょうって」

「いやそれだと、ショコラが断りそうだったからさぁ」

「私は、ショコラさんの指示以外は従いませんけどね」


「そこ! 聞こえてるからね!」

 


**********


「失礼します。ショコラさん・・・・・・・ のパーティーを連れてきました」

「入ってもらいなさい」


 リサが扉をあけると、ちょびヒゲのギルドマスターさんが笑顔で出迎えてくれた。

 今、さらっとショコラさんのって……。


「大丈夫だよ、僕が必ず君を支えるから」


 隣に立っていたベリル王子が耳元でそっとささやく。


「うぁぁ」


 いきなり王子のあまい吐息がみみにかかって、おもわず叫んでしまった。

 王子は口元に指を当てて、小さくナイショのポーズをとっている。


「どうかしましたか?」

「あ、いいえ。お騒がせしました」

 

 私は慌てて頭をさげる。

 もう……。

 絶対ワザとだ。いたずら好きなんだから……。


「あらためましてようこそ、ショコラさん。そしてみなさん」


 ギルドマスターのフェイさんは、片手を前にだして、うやうやしく礼をした。


「それでは、運送ギルドのギルドマスター・・・・・・・ として話をさせて頂きます」

 

「望むところですわ!」


「それはよかった。ベリルさん、ミルフィナさん」


 二人の王族の質問に、堂々と受け応えるフェイさん。

 ベリル王子も、ミルフィナちゃんも嬉しそう。

 はぁ~。やっぱりギルドマスターってすごい人なんだ。


 ……あれ?

 ……今、『ベリルさん』って言わなかった?


「どうです? 運送ギルドの情報も、なかなかのものでしょう? 王族でも同じ扱いですからね」


 驚く私たちに、ギルドマスターはヒゲをさすりながら嬉しそうに微笑んだ。



**********


「ではまず、輸送パーティーのランクについてはご存じですか?」

「すみません。パーティー組む予定がなかったので……」

「よろしい。では、各ランクの色から説明しましょう」


 フェイさんは部屋の白板に図を書きはじめた。


 えーと、ふむふむ。


 輸送ギルドは、ランクごとに旗の色が分かれていて。

 黄色は、個人かパーティー初心者のグループ。

 青色が、中級パーティ。

 金色が、上級者パーティ。


 あー、だから私の旗は黄色だったんだ。


「旗や荷物に掛けるカバーは、ただ色が違うだけではありません」

「そうなんですか?」

「ええ。どのランクでも共通して、危険を察知した場合、自動的に魔法の結界を張ります」


「え?」


 私は思わず、手に持っていた旗を見つめる。

 これってそんな効果があったの?


「ですが、ランクが上がるごとに危険な仕事も増えますので、色によって結界の強度が強くなっています」


 フェイさんは、白板に『黄色=効果小、青色=効果中、金色=効果大』と書き加えていく。

 なるほど。そういう理由だったんだ。


「ですから、魔物や盗賊に襲われても、最悪のケースを回避することができます」


 なんだ。

 ただ、派手な旗をもって恥ずかしい思いをしてたわけじゃなかったんだ。

 

「本来は……最初に聞くはずの内容なのですが、リサさんがサボりましたね……」

「あはは……私の記憶力が悪いだけです、きっと」


 ……リサの説明。

 ……カバー付けて適当に旗を振ってれば襲われないから……だけだったのに。


「なぁ、まさかとはおもうけど。ショコラしらなかったの?」

「……うん」

「大丈夫ですわ。わたくしも初めて聞きましたし。お仲間ですね!」

「そうですよ。彼女はずっと私と共に勇者パーティーにいたのですから!」


 ミルフィナちゃんが、なぐさめるように私の腕に抱きついてきた。  

  

 もう。もうもうもう!

 大親友のバカぁ。

 すっごい恥ずかしいよ、これ。


 ……今度絶対、一番高いご飯おごらせてやる!

  

「さて、書類にも問題がないようですし。ショコラさんのパーティーの申請を受理しましょう」


 フェイさんは、書類に目を通した後、奥の棚から荷物を取りした。

 

 私たちの騒ぎにも動じないし、王族にも媚びたりしないし。

 はぁ、さすがギルドマスター。本当に堂々としてるなぁ。

 

「さっそくですが、こちらの旗とカバーをお持ちください」

「ありがとうございます」


 私の手に、数本の旗を手渡してきた。


「さぁ、広げてみてください」

「わかりました」

 

 ゆっくり旗を広げてみると、紫色に剣とドラゴンの大きなマークが入っている。

 この模様どこかで見たことあるような……。


「実は既に登録は受理してましたので、あなた方はこれで正式な運送ギルドのパーティーです!」

「あの……フェイ様?」

「なんでしょう?」


「この色は、先ほどの説明にはなかったのですが……」

「ええ。ありませんね」

「しかも、この模様、王家の紋章にみえるんですけど?」

「ええ、その通りですね」


 ……。


 …………。


「ちゃんと説明してください! なんで私たちのパーティーの旗が紫なんですか!」

「それは、『王家御用達パーティー』の証なんです。王国でも数えるほどしか持てないんですよ?」

「それでは、先ほどの説明と違うじゃないですか!」


 私は渡された紫色の旗をたたむと、フェイさんに突き返す。


「普通の旗にしてください! 王族も同じ扱いって言ってましたよね!」

「最初から、キミたちが受付にきたら『王家御用達パーティーにしろ』って言われたんですよ!」

「言われたって、誰にですか?!」

「国王様から直々にですよ。ギルドからご用達がでると大出世なんです! なんとしても受け取ってください!」

 

 私とちょびヒゲのギルドマスターは、しばらく紫色の旗を押し付けあった。


「ごめんショコラ。父にはちゃんと言っておくから……」

「お父様やりすぎですわ……」



 もう、前言撤回!

 王族の権力ってやっぱり、怖い……。

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