第16話 追放テイマーと新しいパーティー


 カーテンの隙間から、あたたかい日差しが差し込んでくる。

 私は、ベッドから起き上がると窓を少しだけ開けてみた。

 

 一日の始まりをお祝いするよな、澄んだ青空が広がっている。

 丘を流れる風がすこしくすぐったい。

 うん、今日もいい天気。


 外から、使役獣たちのご飯をねだる声が聞こえてくる。

   

「待ってて、今作るからね」


 私は窓越しに声をかけると、キッチンに向かった。


 今日のメニューは、鶏肉と野菜のごろごろご飯。

 お肉をさっと焼いたら、その中に大きく切った野菜を入れて……。

 うん、いい匂い。

 最後に、お店で買ったドライフードをかけてと。


 よし、今日の朝食完成!


「みんな、お待たせー!」


 扉を開けると、4匹の……ううん。

 一匹と一羽と二頭の使役獣たちが、嬉しそうに整列してた。

 

 お皿をならべると、一斉に食べはじめる。

 今日も元気だなぁ。


 ……?


 ……一頭多いよね?


「王子、ストップ!! すぐに人間用の食事作りますから!」

「あはは、美味しそうな匂いだったから、つい」

「もう! ついじゃないですよ……」


 王子は人の姿に戻ると、部屋のイスに座った。


「それで、あれから賢者とやらは会ってるの?」

「んー……。毎日?」

「なんだって! 僕なんて忙しくて来れてないのに!」


 ……だって。

 ……すごい、ご近所なんだもん。


 私は王子の手をひいて、家の外に出た。

 

「ちょっと、朝からどうしたんだい? ずいぶん積極的だね……」

「もう! そういうのじゃないから」


 慌てて、つないでいた手をはなす。

 変なこというから……意識しちゃうじゃない。


「ねぇ、空からこの丘を見て、何か気づかなかった?」

「気づく? んーそういえば。なんだか煙突みたいなものがあったけど?」

「……あたりよ」


 私は、黙って家の裏側を指さした。


「あれ? こんな建物あったっけ?」

「新しく建てたのよ」

「建てた? 誰が?」


 王子は、白い塔のような建造物を見上げた。

 建物は三階建てで、円柱のような形。

 各階に丸い窓が付いていて、てっぺんには赤い屋根が見える。

  

「やぁ、ショコラ。今日もいい天気ですね。まるでアナタの笑顔のようですよ」


 突然、二階の窓が開いて、アレス様がさわやかな笑顔で手を振ってきた。

 

「おはようございます、賢者様」

「アレスと呼び捨てで平気ですよ?」

「あはは、ありがとうございます、賢者様・・・ !」

 

「あのさ、ショコラ……まさか?」

「うん、アレス様ね、ホントにこの村に移住しちゃったみたいなの……。それも隣に……」

「なんだって!」



**********

 

 私の小さな家にいるのは。

 ベリル王子と、私。それから賢者アレス様。


 みんなで、テーブルを囲んでお茶を飲んでいる。

 

「村の皆様がですね、私がここに住みたいと言いましたら協力してくれまして」


 アレス様は、嬉しそうに目を細めて私を見つめてくる。


 それはそうだよね。

 だって、『賢者の塔』出身のエリートだよ?

 おまけにイケメンだし!


 えーと確か、『賢者の塔』っていうのは。

 世界中の頭のいい人が目指す、前世で言ったら……そう! 大学みたいな研究機関かな。

 塔に入るだけでも憧れのスーパーエリートなんだけど、アレス様はそこで一番優秀だったんだって。


 勇者新聞アンケートだと、勇者様に匹敵する人気なんだから。

 

「それで、賢者アレス様は、勇者パーティーにもどらなくて平気なんです?」

「王子、ご心配ありがとうございます。ですが、使命よりも、この村が気に入ってしまったので」


 んー。


 私の故郷だから、褒められるとうれしいけどさぁ。

 この村にそんな魅力あったかなぁ?


「……ウソつけ。どうせ別の目的があるんだろ?」

「そういう王子こそ、お忙しいのに、何故わざわざ王都からはなれたこの村に?」


 アレス様のメガネがきらんと光る。


「はぁ! 僕がどこで何をしようと、誰と会ってても自由だろ!」

「ええ、もちろんそうなのですが。おかしいですね、この村に王子のお気に召すことでもございましたか?」

「……そ、それは!」


 真っ赤な顔をした王子と目が合った。

 なんだろう?


「と、とにかく。僕はショコラのパーティーメンバーだからさ。ほらみろ、この旗!」


 王子は、お金のシルエットの入った黄色い輸送ギルドの旗を取り出した。

 

「え? ちょっと、なんで王子までギルドの旗をもってるの?」

「この間、受付の子にもらったんだ!」


 きっと、リサのことだ……。

 ギルドメンバー以外には配らないって言ってたのに。

 大親友、イケメンに弱すぎるんじゃない?


「く、やりますね、王子。しかし、これを見てください!」


 アレス様は机の上に、一枚の書類を置いた。

 

 なんだろうこれ?

 えーと。


 『輸送ギルド パーティー申請書』 


 ……。


 …………。


 ハイ?


「ふふふ。もうすでに、私の名前と、ショコラさん名前は記入済みです」


 勝ち誇ったように、目を閉じて高笑いをするアレス様。 


 冒険者ギルドの時に、提出する書類は見たことあったけど。

 輸送ギルドにもあったんだ。


 今までずっとソロだったから知らなかった……。


「ふーん。じゃあ、ここに名前を書けばいいんだな?」


 王子は机の上の書類に自分の名前を書きはじめた。


「うわ、なに勝手に記載してるんですか! これは私とショコラさんとの……」

「ねぇ? 賢者様・・・ ?」

「どうかしましたか、ショコラさん」


「私、名前を書いた記憶ないんですけど?」

「ああ、ご安心を。私が書かせていただきましたので!」

「ちょっと! 勝手にパーティーとか作らないでください!」


「よし、できたぞ。ほら、ショコラ」


 王子は満面の笑みで、書類を私の目の前に差し出してきた。

 なにそれ、

 まるで子供みたいに嬉しそうな表情しちゃって。


 ……そんな笑顔反則だよ。


 胸がどくんと大きな音を立てた。


「これで、パーティーメンバーだね、僕たち!」

「いいえ、これは書き直します。ショコラさん、今度ギルドにいって書類をもらいなおしましょう!」


「おまちくださいませ! 話は外からもバッチリきこえましたわ!」


 突然、扉を開くおおきな音が聞こえて。

 すみれ色の長い髪をした美少女が飛び込んで来た。

  

「ミルフィナちゃん、お久しぶり!」  

「お久しぶりです、ショコラ様」


 ミルフィナちゃんは、ドレスのスカートを軽く落ち上げると、可愛らしくお辞儀をする。

 私もあわてて、お辞儀をした。


「あの、ショコラ様。その書類を見せてくださいませんか?」

「え? うん、いいけど」

「ありがとうございます!」


 彼女は可愛らしく微笑むと、受け取った書類に名前を書いていく。


「……え? ミルフィナちゃん?」

「うふふ、やりましたわ! これでパーティー結成ですわね!」


「なぜ、ミルフィナさまがここに……?」

「ちょっとまて。我が妹とはいえ、それはどうかと思うぞ!」


 私はテーブルに置かれた書類をじっと見つめていた。


 ……パーティーメンバー。


 冒険者じゃないけど、でも。なんだか。

 その言葉に、胸の奥があたたかくなっていく。


 またみんなで一緒に旅ができるんだ……。


 心の奥で凍っていた何かが、ゆっくりと溶けていく。

 そんな不思議な感覚がした。

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