第9話 追放テイマーはスキルを使う


 私と王子はテーブルを挟んで向かい合っている。


 丘の上にあるこの小さな家には、ちゃんと大きな厩舎がついてる。

 昔、ここで羊に似た動物『フォルト』を飼育してた人が利用してたんだって。


 でもね。

 家のほうはあくまでも飼育のための仮だったらしくて。

 この小さな家は、部屋が一つしかない。


 一人でいる分には何の問題もなかったんだけど、王子さまがいるとね。


 ……距離がすごく近い。

 ……近いんですけど!


 あらためてみると……。

 この人、すごくカッコいいよね。

 まるで黄金のような金色の髪、澄んだ青い瞳、整った顔立ち。

 小説やゲームの主人公みたい。


「どうしたの? ぼーっとして」

「え? ううん、なんでもないよ」

「そう? ならいいけど」


 朝食のベーコンを優雅に食べながら嬉しそうに笑う。

 ホントに食べるの大好きだよね、この人。


 ――ホントに、幸せそうに食べるんだから。


「王子様、あれから毎日食べに来てますけど」

「うん、ショコラの料理美味しいからね!」

「うーん。簡単料理なんだけど? よかったらレシピをお渡ししますけど」

「あのさ、ショコラの料理だから、美味しいんだけどな?」


 私の料理だったら、誰が作っても同じだと思うんだけどなぁ。

 もしかして、あれかな?

 王宮の料理が豪華すぎて、シンプルな料理が珍しいとか?


「さて、ご馳走になった分、働きますか!」

「お仕事に戻られるんですね。頑張ってください!」


 王子は、一瞬呆けた顔をした後、口元を押さえて笑い出した。


「違うよ。今日は荷物を運ぶ仕事があるんだよね?」

「……あれ? 私王子にその話しましたっけ?」

 

 私の不審そうな顔に気づいた王子が、慌てて顔の前で手を振る。


「ち、違うんだよ。先輩たちがそんな話をしてたから!」

「先輩って、チョコくんとかアイスちゃん?」

「そうそう。動物の先輩たちが教えてくれたんだよ」

「ふーん?」


 ……なんだか、王子様すごく焦ってるけど。


 そっか。

 あの子達とはなせるんだ。

 いいな。うらやましいな。


「ねぇ、ベリル様が、動物の言葉わかるのって、やっぱりドラゴンに変身できるから?」

「んー、そうなのかなぁ? 意識したこと無いんだよね」

「そうなの?」

「ショコラこそ、調教師テイマー のスキルでわかるんじゃないかな?」


 私は、テーブルに肘をついて両手で頬を支えた。


「あのね、調教師テイマー のスキルってね、使役獣が機嫌が良いとか悪いとか、何をして欲しいかはわかるんだけど」

「何を話してるか、まではわからないのかな?」

「うん、そうなの」


「それじゃあさ、今僕がどんな気持ちかわかる?」

「え? なんで?」

「だって、僕はキミの使役獣なんだよ?」


 そういえば、そうだった。

 なんだか変な感じだけど。


「んー、調べても平気なの?」

「さぁどうぞ、ご主人様」

「もぅ。それやめて欲しいのに」


 私は、調教師テイマー のスキルを発動すると、王子をじっと見つめる。


 ちょっと、なんでそこで頬を染めてるのよ。

 こ、こっちまでつられて……緊張してくるじゃない。


「ねぇ、なにかわかった?」

「え、えーとね。すごく楽しそうな気持ちが伝わってくるかな?」

「うん、正解!」


 王子は甘い表情で私を見つめてくる。


 この人……。

 何気に、天然のタラシなんじゃないのかなぁ?

 親友のリサがきゃーきゃー騒ぐ訳が分かる気がする。


「じゃあさ、どうして楽しいか理由はわかる?」

「さぁ? そこまでは調教師テイマー のスキルじゃわからないから、いつも推測してるんですよ~」

「なるほど。じゃあ、僕の理由を推測してみて?」

「んー……美味しいごはんが食べれたから?」

「半分正解! それじゃあさ、僕は何をして欲しいでしょうか?」


 なにって、言われても。

 私は再びスキルを発動させる。


 頭の中に、イメージが浮かび上がってくる。

 

 ……。


 …………。


 え?

 

 なに今の。


 なんで。

 なんで。


 なんで王子が私を抱きしめてるのよ!!


「なにかわかった?」

「……あはは、やっぱり王子様は人間だから、よくわからないみたい?」

「ふーん、そうなのかぁ」


 ベリル王子は私の表情を見ると、くすくすと笑いだした。


 てっきり、ご飯をたくさん食べるイメージが出てくる思ったのに。

 なんなのよ、あれ!

 まずいよ。胸のドキドキが王子に伝わるくらい、大きくなっている。


 ああ、もう!!


 ノー!

 ノーだよ私!


 今の私、耳まで真っ赤だよね。

 変な人だと思われるよ、絶対!


 おもわず、頬を押さえてその場にしゃがみ込んだ。



「……ごめん、本当に考えてることがわかるんだね」

「え?」

「ちょっと試してみただけだから。そんなに警戒しないで?」


 王子がそっと片手を差し出してくる。


 ……まさか。

 ……今のって、イタズラだったの?


「もう! ホントにビックリしたんだから!」

「ごめんね。なにもしないからさ。……今はね」


 私は王子の手をとると、ゆっくりと立ち上がる。

 

 あれ?

 最後に、なにか変なこと言わなかった?


 あらためて王子の顔を見上げると、片目を閉じてウィンクしてきた。



 うわぁ。

 この人……ホントに。

 絶対、天然の女タラシだよ!

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