第8話 転生勇者は困り果てる
<<勇者目線>>
グランデル王国の北にある大森林の奥。
勇者のオレが率いる冒険パーティーは、地図に記されている古代のダンジョンに足を踏み入れていた。
「なんだよ、荷物がじゃまで上手く戦えない!」
「落ち着け! 勇者よ!」
「勇者様……あの、荷物は、えーと……」
荷物を背負いながら魔物と戦うなんて、オレの知ってるゲームやアニメで見たことないぞ。
オレは、がむしゃらに剣をふりまして、なんとか目の前の
とがった耳に緑色の肌、金色の目をしている。
普段なら、こんなザコ魔物なんて一瞬なはずなのに!
息を整えながら、残った
なんだよこれ。
弱小モンスター相手に苦戦とかさ。
……今オレ、すっげーカッコ悪くないか?
くそう!
くそう!
なんとか嫁候補たちにいいところを見せないと!
「次いくぞ! オレが飛び込むから、みんな支援して……」
言い終わる前に、オレの横を炎の塊がすり抜けていく。
……へ?!
次の瞬間。
目の前にいたはずの
うぉい! まてこら。
こんなのがもしオレに当たってたら……。
「さぁ、終わったわよ。さっさと進みましょ」
すぐ後ろから、魔法使いダリアの嬉しそうな声が聞こえる。
「ダリア、おまえ! 今のホントに危なかっただろ!」
「え? なにが?」
あわてて振り向くと。
ダリアは満面の笑みで、地面に置いてある自分の荷物を持ち上げている。
やっぱり可愛いなコイツ。
金髪ロリッ子、おまけにツンだし。
荷物を背負おうとする姿も、ランドセルを背負う子供みたいで可愛い……。
……いやまてよ。
……まてまて。
よく考えたら、今の状況おかしくないか?
「なんだよ! なんでお前、荷物置いて戦ってるんだよ!」
「はぁ? 当たり前でしょ?」
ダリアは、顔を少し傾けて、不思議そうにオレを見つめてくる。
――うぉぉ可愛いな。
前世だったら絶対に近づくこともできなかっただろう美少女だよな。
いやいやいや。
今はそうじゃなくて。
「なぁ。森に入るときに、冒険者は荷物を背負って戦うのが常識とか言ってなかったか?」
「はぁ?」
「あの……ですから勇者様……荷物はですね……」
「勇者よ、移動中や不意打ち以外では荷物を置いて戦うのだぞ?」
よく見たら、戦士のベルガルトも、精霊使いのシェラも荷物を背負っていない。
先にいってくれよ!
めちゃめちゃカッコ悪いじゃないか!
「ふっ、知っていたさ。でもあえて荷物を持った状態でも余裕なところを見せてあげようとおもってね」
「はぁ? なんでそんな必要があるのよ?」
「なんでって? それはオレが勇者だからさ!」
剣を華麗にさやにしまって、決めポーズを取る。
……決まった。
……バッチリだ。
嫁候補たちも、惚れ直したにちがいない。
「あの……勇者様? みなさん先に進んでますよ……?」
シェラが申し訳なさそうに、オレ袖を引っ張る。
「ねぇ、ホントにこの道であってるのかしら?」
「勇者は女神から知恵を授かるらしい。きっと大丈夫なのだろう」
「知恵……ねぇ?」
気が付くと、戦士ベルガルトと魔法使いダリアが先の通路を進んでいる。
「ちょっと待て! リーダーのオレより先に進むな!!」
オレは慌てて、二人の後を追いかけた。
**********
――おかしい。
ダンジョンをいくら進んでも、最下層にあると言われている伝説の鎧にたどり着けない。
むしろ、同じところをぐるぐる回っている気がする。
「ねぇ、ここ前にも通らなかった?」
「うむ。俺もそんな気がしているのだが……」
「そんなはずないだろ。ほら、印をしながら進んでるんだし!」
オレは壁を指さしてマークがないことを強調する。
ダンジョンに入ったら、必ず壁にマークしていくこと。
そして、細かなマッピング。
前世で数多くの高難易度ゲームをクリアしてきたオレの知識をなめるなよ!
「でも、あの……勇者様……やっぱり見覚えが……」
「ダンジョンなんてどこも同じにみえるんだよ。大丈夫、オレがついてるから!」
「はぁ、アンタが抜けて……お姉さまと賢者アレスがいたらよかったのに……」
「うぉい。今オレの話きいてた?」
――賢者アレス。
緑色の髪に眼鏡をかけたイケメン野郎だ。
世界中から頭のいい奴が集まる『賢者の塔』で一番優秀だったらしい。
国王の出した勇者パーティー募集のお触れをみて、仲間に加わってきた。
美青年で頭が良いとか……。
とんだリア充野郎だな、ホント。
まぁ、今のオレほどじゃないけど!
あいつは……。
『天啓がなくなってしまいます』
なんてわけのわからん事を言って、ずいぶん慌ててやがったけど。
ひょっとしてショコラに惚れてたのか?
そんなことをしても……彼女もオレの嫁候補だから無駄なのになぁ。
考えてみたら、ぷぷぷ。
イケメンなのに、ずいぶんかわいそうな奴だ。
「……少し休まないか。このダンジョンはなにかおかしい……まるでなにかに騙されているような気がする」
「ちょっと待て。決めるのは勇者でリーダーのオレだ!」
「……じゃあさっさと決めなさいよね! はい、休憩決定! みんな休むわよ!」
ダリアは地面に荷物を下ろすと、安全の為に魔法の結界を唱え始めた。
このツンデレめ!
「あの……皆様、お茶をいれましたので……どうぞ」
「ありがとう。シェラの入れるお茶は最高だね。キミの愛がこもってるからかな?」
シェラはオレの差し出した手を、華麗にスルーした。
この照れ屋さんめ。
「ところで勇者よ。なぜ最近手を抜いて戦っているのだ?」
「へ? 手を抜いて?」
「そうだ。聖剣の力を使えば、どんな敵も一瞬であろう?」
聖剣は、勇者だけが力を引き出せる特別な剣だ。
勇者の力に反応して金色に輝き、強力な一撃を放つことが出来る。
「バカだな、そんなことをしたら、オレだけで戦いが終わってしまうだろ? オレ達はパーティーなんだからさ!」
「俺たちの実力に合わせて戦ってくれてるということか?」
「まぁ、そういうことだ!」
「さすが……勇者さまです! そこまで考えて戦われていたのですね!」
「これまでずっとブンブン光る剣をふりまわしてたくせに。何をいまさら……」
あはははは。
……。
………。
……違うんだ!
……何故か使えないんだよ!
オレは休憩中に、こっそりと聖剣をさやから抜いてみた。
今までは、ほっておいても勝手に輝いていたのに……今は全く光を放つことが無い。
一体どうなってるんだ、これ?!
ひょっとして、充電が切れたのか?
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