Day07 秋は夕暮れ
秋は夕暮れがよい、と綴った作家がいるそうだが、それは電脳世界においても概ね同意できる。
CGであると分かっていても、VR世界《EDEN》のYAMATOサーバにおける秋は、これでもかと言わんばかりに郷愁を誘う。
爽やかな風に混じる乾いた土の香り、はらはらと舞い散る色とりどりの木の葉。どこからか漂ってくる焚き火の煙に、何やら鳴き交わす鴉達。
極めつけは、やはり夕暮れ時の空だ。
空の色なんていつでも同じだと思っていたのだが、少なくともこのYAMATOサーバにおいては、秋の夕暮れは赤く、紅く、朱く――。とにかく、圧倒的に美しい。
茜色に染まった空に落ちていく黄金の夕陽。そうして、あっという間に暮れていくさまは、美しいと同時に、なぜか寂しいと感じる。
「それは、物悲しいというんです」
フレンドのチアキが教えてくれて、なるほどこれがワビサビというやつか、と言ったら大層驚かれた。
「あなたの口から侘び寂びなんて言葉が出てくるとは思いもしませんでした」
「うちのじーちゃんが日本好きでさ、よく言ってたんだよ。意味はよく分かんなかったけど、多分こういうことだろ」
「そうですね、私も詳しくは分かりませんが、きっとこういうことを言うんでしょう」
そうして、いつまで二人して空を見上げていただろう。
やがて夜の帳が下り、星々が瞬きはじめたのを合図に、チアキがさて、と腰を上げた。
「今日は日本食レストラン《雅》で期間限定の茸料理が食べられるそうですよ。行ってみませんか」
「いいね! 食欲の秋、とも言うんだろ」
「日本人はなんでも季節に絡めたがるだけですよ。過酷な四季に苦しめられてきた民族ですからね」
それも今となっては昔話ですが、と寂しそうに微笑むチアキ。
地球から四季が失われて半世紀。電脳世界にしか季節が存在しないというのは、何とも皮肉な話だ。
今や、《EDEN》に求められているのは「現実では出来ない冒険」ではなく「失われた世界のサルベージ&アーカイブ」なのだ。
「僕らにとってはここも、もう一つの現実だ。だからこの物悲しさも本物だし、いつか僕らの思い出になるんだよ」
無味乾燥な自室では味わえない世界を、僕らはここで堪能する。
ここで過ごした日々もまた、僕らにとっては本物なのだから。
「あなたにしては詩的なことを言う。明日は雪ですかね」
「うるせー」
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