十一月の物語 Novelber 2020

小田島静流

Day01 門

 からくり時計が正午を告げる。

 賑やかなファンファーレ、踊る人形達。そして最後に砂時計がくるりと回れば、お待ちかねの『開放時間』だ。

 『門』をくぐって、異世界からの客人がやってくる。


 大きな荷物を背負った商人、黒猫を従えた魔女。鹿撃ち帽を被った探偵に、羽衣をなびかせた麗人――。

「なんだいなんだい、仮装大会でもあったのかい?」

 いつもに増して個性豊かな客人達の姿に、屋台の女主人は思わず首を傾げた。

 ここは魔法街ザナヴェスカ。異世界からの旅人も数多く訪れる街だが、今日の来訪者達はどこか異質だ。

「騒がしくてごめんなさいね、昨夜は四番街でお祭りがあったのよ」

 注文ついでに教えてくれたのは、常連客の一人だ。いつもは黒い長衣姿の彼女も、今日は色鮮やかな衣装に身を包み、小脇にカボチャを抱えている。

「本来は厳かな行事だったらしいのに、今や単なる仮装パーティね」

 なんでも、年に一度、異界に繋がる門が開くとされている夜に、仮装をして『異界のお化け』をやり過ごす風習が変化したものらしい。

「元々は六番街から伝わった風習らしいんだけど、年々規模が大きくなっちゃって。今年はもう、お祭りというより乱痴気騒ぎだったわ」

 だからね、と楽しそうに笑う常連客。

がどんなものか、見せてあげようと思って。招待してあげたのよ」

 ああ、これだから。

 魔女という生き物は恐ろしいのだ。

「……命だけは勘弁しておやりよ?」

「当たり前じゃない。私は優しい魔女だもの」

 元の世界に戻る手がかりくらいは教えてあげるつもりよ、と微笑んで、好物の串焼きに齧りつく。

 背後では、ようやく事の重大さに気づいたらしい客人達が騒ぎ始めていた。

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