第28話 ぎっくり腰  -その2-

直美先生のセッションの日。 

ぎっくり腰のせいで予約をキャンセルして 

日にちを変えてもらっていた。 

まだ、マークの機嫌は悪かった。


「上級スキャンに入ってから 

かなり日が経ちますが 

何か気づいたことはありますか?」


「自分の体の中の感覚にかなり

敏感になったと思います。 

何か起こったときに、

すぐに感情的に行動するのではなく 

まず、自分の体の中の感覚を意識するようになって 

冷静に物事を見るようになったと思います」


「そうですか。

常に体の中の感覚を意識することで 

自分に対する理解が変わったり 

物事を新しい見方で見るようになったのですね」 


「はい。今までだとマークが何かしたり、

言ったりするとすぐに反応して 

ギャンギャンまくし立てて 

最悪の状態になっていたのですが 

「観察」することができるようになって 

少し変わったように思います」


「前に反応壁について考えたのを

覚えていますか?

何かが起こったときに、

評価を加えることによって体が反応し、 

何らかの不快感を感じ、

それを除去するために 

何か行動するというものです。」


「はい。毎日の生活で評価と反応を

意識できるようになったと思います。」


「今日は、エリカさんの反応ではなく 

誰かほかの人の反応について考えましょう。

最近、何かありましたか?」


すかさず、ぎっくり腰が治りかけの私に 

膝の上に座れと言ったマークの話をした。

「では、この図に沿って考えてみましょう」





マークが「膝の上に座って」と言った時に 

「腰の調子が悪いから座れない」と言っただけ。 


マークは、私がマークを拒否したと感じたんだと思う。 

自分が否定されたとか愛されていないとか 

そういう感じがしたんだろう。 


それで、マークの体のどこかに

何か感じるものが起きたんだと思う。 


胸が締め付けられるとか 

頭をガンガン殴られる感じだとか… 

マークにとってはすごく嫌な感じがしたんだ。


そこで大声で怒鳴る。 

「もういい! あっちに行け!」。 

すると少しはスッキリしたんだと思う。 


こんなふうに、マークは自分が拒絶されたと思うと 

体のどこかに何か嫌な感じがして 

それを吹き飛ばすように怒鳴る。 

すると少しはスッキリする。 

だから、また同じようなことが起こると 

怒鳴ってスッキリしようとするんだ。


私はきちんと理由を言って 

「膝の上には座れない」と言っただけなのに 

マークの評価は「自分を拒絶した」という 

すこぶる悪いものだった。 


マークの反応を分析してみると 

彼が怒鳴る理由も 

まだ機嫌が悪い理由も理解できた。 


きっと体の中でずっと嫌な感覚が残っていて 

それに反応し続けているんだろう。


マインドフルネスの練習を重ねて 

「感覚」をかなり意識できるようにはなっていたが 

「感覚」に反応しないようにすることで 

マークとの関係が良くなっているのかは 

まだわからなかった。 


この地点では、なんだか私だけが

我慢しているような気になっていた。


次のトレーニング 

「体内横断スキャン」の練習を少しして 

この日のセッションは終わった。



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