第26話 TVショッピング -その2ー

配達された大きな箱を見せながらニコニコして、

誇らしげでもあるマークの顔を見ていると 

イラッときて感情のままに 

文句を言いたい衝動にかられたが

直美先生の言葉を思い出して踏みとどまった。


「建設的」なコミュニケーションは 

一方的にならず、相手の都合を聞いて話し始める。


そして事実に基づいた問題を提示し、

それに対する自分の考えや感想を述べる。


相手の意見も尊重したうえで 

自分の希望をはっきり述べる。


理屈っぽいけど、要するに頭ごなしに 

感情的にならずに、ちょっと

考えて話してみるといいということだろう。


とりあえず、使ってみないことには 

「事実に基づいた問題提示」はできない。


使い方をYouTubeで見てみると 

若いお姉さんが、にこやかに 

微笑みながら片手でバンバンと

ジャガイモをポテトフライ用にカットした。

 

ほとんど丸ごとのジャガイモを 

格子の刃の上においてはさっと蓋を下す。


あっという間に 

大量のフライドポテトの準備ができていた。


スライサーは使ったことがあって 

使いにくいとわかっていたので 

このポテトカッターを試してみることにした。 


ジャガイモの皮をむいて 

格子の刃の上において上から抑える。 


すると、ジャガイモが刃にささって 

動かなくなった。


YouTubeのお姉さんは 

片手で軽々とジャガイモをカットしていたが 

私は力が足りないらしい。 


ジャガイモは動かなかった。 

ささったまま。 

取り除くにも刃が交差しているので危ない。


「マーク!見て」 

この時とばかりにマークを呼んだ。 


「ポテトがスタックして動かないわ」 

マークが試しても途中からだと

力が入らないのか動かなかった。


どうにか上下に出ている部分を包丁で切って 

刺さったまま残っている部分を一つ一つ

ナイフの柄を使って押し出した。


今がチャンス!とばかりにマークに言った。

「私のためを思って買ってくれたのはうれしいけど、 

見たよね。ポテトフライの準備が一瞬でできるのかと 

使ってみたけど私の力では無理だわ。

 

スライサーは少しの量の野菜なら 

いちいちこの道具を出してくるより 

包丁で切ったほうが早いの。 

だから、せっかくだけどこれは使わないと思う」


「エリーの役に立つと思ったんだ。 

CMの後、30分以内だと半額になるって言うし…」

「いくら払ったの?」

「99.99ドルが49.99ドル」


こんなものに50ドル?

あり得ないと思った。


「あのね、前にも言ったけど 

TVショッピングは高いよ。 

いくら半額って言ってもね。 

eBayのほうがずっと安いから」


喧嘩をすることもなく 

マークも納得して返品することになった。


もう一度、元通りにパッキングしなければならない。

もちろん、これは私の仕事。 

郵便局に持って行くと 

返品にかかる送料は20ドルだった。


心の中では「バカヤロー!」と叫んでいた。


マインドフルネスのトレーニングは 

「連続的スイープ」に入っていた。


頭のてっぺんからつま先まで 

途切れることなく感覚をスキャンしていくものだ。


「いい悪いの判断をせず 

エクアニマスな心でスキャンしましょう」

というガイダンスが繰り返されていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る