第13話 ほのかな光

 闇の国の王子様が化けた

「白馬の王子様」に、のこのこと

ついていったのは私。


「囚われの身」を嘆いていても

仕方がない。

おとぎ話のように

誰かが助けに来てくれるはずもない。


 マークは相変わらず

家にこもりがちだったが、

毎日、毎日、暗く沈んでいる

わけではなかった。


 「また、アカウンタントの

コースに行こうと思う」

とある日私に言った。


 ブリスベンにいるときに、

会計士の資格を取ろうと思って

夜間のコースに通っていた。


そのコースの一部が

終わったタイミングで

ゴールドコーストに転勤になったので、

途中切れの状態だった。


 幸い学校は彼の「結界」の中にあった。

昼間のコースはフルタイムで、

毎日行かなければならないので、

週2回の夜間のコースに行くことにした。


 医者から処方された薬も

少しは効いていたのか、 

歩いて10分ぐらいの距離は

車に乗らなくてもよくなっていた。


 「一人で大丈夫だよ」と言って

機内持ち込みの小さなトランクを

引きずって学校に通い始めた。


 週に2日、マークが家にいない3時間。

空気がすがすがしく、

心が軽くなった感じがした。


 ショッピングセンターでの

パニックアタックを見て以来、

キャシーもマークに対して

少しナーバスになっていた。


 だからマークが出かけると、

キャシーと二人で

小さなパーティを開いた。


簡単なおつまみとワイン。

乾杯して話が弾んだ。


 キャシーの元夫はアル中になって

毎日のようにキャシーを罵ったそうだ。

3人の子供のために

しばらくは我慢していたみたいだが、

アル中の父親と一緒にいるほうが

子供たちに悪い影響を与えると思って、

離婚したらしい。



「結婚より離婚のほうが大変だった」


「なかなか

別れようとしてくれないので

子供たちを連れて家を出たよ」


オーストラリアでは、1年間

別居をすると離婚できる。


 キャシーは最低限の荷物を持って、

3人の子供を連れて

避難所みたいなところに行った。



色々と大変だったけれど、

離婚が成立し、子供たちと

平和な時間を過ごした。


その子供たちも、もう成人して

独立している。


「一人だと、

全部自分で責任を持たないと

いけないけれど、

自分で決めたことだから

後悔はしてないよ」


「今が自由でしあわせ」と笑った。


形は違うけれど、私のつらい気持ちは

よくわかるとも言ってくれた。


「我慢ばっかり、

しなくていいんだよ。

自分のことを考えて

自分の時間をもって」



 キャシーの言葉にいつも涙が出た。

「ここに私を分かってくれる人がいる」

と言うだけで救われた。



 マークも学校に行くのを

楽しみにしていた。

教え方の上手な先生の授業は

わかりやすく、新しい友達もできた。


課題もあるので、家にいても

PCに向かう時間が多くなり

ただ、テレビを見ているだけ

ということもなくなった。


おとぎ話のような

「めでたし めでたし」

ではなかったけれど、

闇の国にも、少し光がさしてきたような

希望がわいてきた。

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