エリカの日常

@erika-routine

第1話 終わりを告げた日 

 私の結婚生活は些細なことで終わりを告げた。





 あの日私はワインを飲んで

ちょっぴりほろ酔いでいい気分だった。

3か月後には二人でマークの故郷の

メルボルンに行くことになっていた。


 1年前に彼の弟のクリスが

脳溢血で倒れて入院した。

その後ケアハウスでリハビリし、

今はどうにか一人で暮らせるようになっていた。


そんな弟が心配で一緒に暮らしたいと

マークが言い出した。

「一緒に来てくれる?」と、私に聞いたが

彼の中では私も当然行くものと

決めているのが分かった。


 私は行きたくはなかった。

このころにはマークと二人の生活でさえ

彼の要求に応じることにうんざりしていた。

少しでも思い通りにならないと

必ずマークは「もう、おしまいだ。

もう、お前なんかいらない。」と

私を怒鳴りつけていた。


そのうえ、

左半身がほとんど動かなくなった弟と

一緒に暮らせば

私が大の男二人の世話をすることになる。

「クリスの世話をする必要はないから。」と

マークは言うけど

そんなわけにはいかないだろう。


 しかもマークは私には

何でも自分の意見を押し付けてくるのに

兄や弟が何か言うと

必ずその通りにするところがあった。

「行きたくない」と言っても

「自分のことしか考えていないのか?」とか

「家族のことが心配じゃないのか?」とか

言って私を責めるに決まっていた。


 仕方なく覚悟を決めて

私もメルボルンに行くことにしていた。

「一緒にメルボルンには行くけど、向こうで

もう別れる、とか言ったら

ほんとに別れるからね」。

ワインのせいか、つい言葉が出てしまった。

おまけに、もうひとこと。

「あなたって自分の家族には弱いよね」。


 すると、彼の怒りは一気に沸点に達して

「お前を絶対許さない。

もうこれで終わりだ。

その言葉はお前の結婚生活で

代償を払うべきだ」と言った。


「はぁ~?何言ってるんだろう。

どうせまたいつものおしまい宣言だ」と

この時は軽く受け流しておいた。


 しばらくして寝室に入ろうとすると

鍵がかかっている。

マークが中に閉じこもって

ノックしても開けてくれない。


「開けてよ」。とガンガンノックしても

開けようとしない。


なんの権利があって私を閉め出すのよ!

お前だけの部屋じゃないだろ!と

だんだん腹が立ってきた。


「今日中にすることがあるから開けて」

と言っても完全に無視。


 かたくななマークの態度に、

私も意地になって、

30分もガンガンしただろうか?


 ふと寝室の鍵があったことを思い出して

取りに行った。

私が鍵を使って中に入ると

びっくりした顔でマークが私を見た。


無言のまま、私は自分の必要なものを取って

寝室を出て、

もう一つのベッドルームで寝ることにした。


 どうせ明日になったら

「やっぱりエリーがいないとだめだ。

別れられない」とか言うに決まってる。

今日はもう何も言わずに一人にしておこう。


 翌日、ネットで支払いをしようと

口座にアクセスしたら、

パスワードが違うと出た。

おかしいと思ってマークに聞いたら

パスワードを変更したと言う。


二人の共同口座なのに勝手に変更するか?


「どうやら今回は本気かもしれない」。

そう思ったら、なんだかホッとした。


 これで本当に別れられるかもしれない。



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