異世界生活の王候補者生活計画書
花道優曇華
第一章「常盤色の大罪人」
第1話「騎士と騎士と従者と私と」
思えば、踏んだり蹴ったりな人生だった。
運動は学年で、否、学校内でワースト1位だった。生まれつきの癖毛は
コンプレックスであった。
その自分とはオサラバする時が来たようだ。
「しっかり―」
叩き起こされると真っ白な空間には二人だけいた。顔は同じなのに、サラサラの髪を
持っていて美しい容姿の少女にマナミは驚いた。
「私はレイチェル・フローラ。貴女に私のすべてをあげるわ」
「待って。どうして…そんなことを?何がどうなって」
レイチェルはマナミの両肩に手を置いた。
「私よりも貴女のほうが王様の素質があるから」
異世界に存在するハルモニア王国では新たな王を選ぶ王選抜と呼ばれる
ものが行われており彼女はその参加者。
「貴女に私の記憶も全て上げる。二度目の人生を貴方に譲るわ…
新しいレイチェル――」
シャー、という音を立ててカーテンが開かれ陽光が射す。
レイチェル・フローラとしての生活が今日から始まった。大丈夫、記憶も
引き継いでいるから記憶喪失なんてことも無い。
窓の前に立って、せっせと動いていた青年がレイチェルのほうを見て
ニコッと笑った。
「おはようございます、レイチェル様」
「…リア」
黒い制服を着込んだ青年の名前を呼ぶと彼は返事を返した。
リアが色々仕事をしている間にレイチェルは部屋を出る。外に、王都に
やってきた。レイチェルは王都で起きている不可解な事件を知らない。
それは辻斬り、古風な事件だがここでは不思議ではないかもしれない。
起こっていても違和感はない。今までの、前世の常識も勿論通用することが
あるだろう。だが半分は、少なくとも半分は通用しないだろう。
細い道を通るときは注意しなければならない。特にレイチェルはそれなりの
生活が出来ている人間だ。並の生活が出来ていない人間の多くが彼女を
狙う。仮面をつけた10人程度の人間がレイチェルを取り囲む。
「金目の物を頂く」
「え、大胆過ぎじゃない!?その犯行!衛兵さ~~~ん!!!こっちです!!!!
盗人が襲ってきてるんです、助けてぇぇぇェェェェェェ!!!!!」
レイチェルが叫ぶのとほぼ同時に集団が動いた。それぞれ武器を握っている。
短剣が多い。四方八方から迫る刃をレイチェルは、今のレイチェルはきっと
避け切ることが出来ないだろう。が、呼ばれたヒーローは遅れてやってくる。全ての
刃が真上に向けられた。
「叫びを聞いて来たが…大丈夫かい?」
炎のような赤髪に、青々とした碧眼、二つの特徴に加えて青年は特殊な剣を
腰にさしていた。その剣を持っている人間は剣聖と呼ばれる。
エレオノール・グラン・フェルナンデス、今の剣聖。最強の剣士であり、
王国の騎士団の人間である。
「さて、これ以上やるというのなら手荒な事をさせてもらうが…」
エレオノールが十字架の鍔の剣を抜こうと構えると彼らはすぐに身を引いた。
入れ替わるように別の青年が姿を現した。銀髪に碧眼、隻腕の青年は屋根の上から
飛び降りてエレオノールに声を掛けた。
「やはり遅れてしまったか、早い…というよりたまたまその場に
居合わせていたのか」
「ベディヴィア。君も彼女の声を聴いて?」
「ベディヴィア!!?」
その名は前世でも記憶にある。有名な円卓の騎士の一人に隻腕の騎士として
ベディヴィアという名前がある。それによく、テレビ等では中性的な容姿で
描かれることが多い。彼もまた中性的な美しい姿をしている。
彼はレイチェルのほうを見て少し目を細めた。
「僕はベディヴィア・ビアンコ。貴方は?」
「私はレイチェル、レイチェル・フローラです」
フローラ、その名前は一部の限られた人間だけが聞き覚えのある名前であった。
この出会いは偶然か…しかしこの出会いを偶然で済ませるわけにもいかない。
ベディヴィアはレイチェルにあるものを握らせる。
「何?これって…」
「今、このハルモニア王国は王が不在です。それは国にとって由々しき
事態なのです」
レイチェルは相槌を打つ。
「新たな王候補を見つけるための魔道具。徽章、ですよ。これは候補者が
触れることで光を放つ。因みに光の色は違う。王族は銀色の光を放つ」
説明している間にレイチェルは徽章を握った。3人が思わず目を伏せる。
鋭くも、優しい銀色の光を徽章が放っていた。二人の勘は確定した。
彼女はもしかすると――。
「レイチェル・フローラ、否、レイチェル様。王選抜に参加してくださりませんか」
「しまった。こっちはベディヴィアに先を越されてしまったか」
4人の候補者が存在する。
そう告げたのは竜の歴布石、国宝だ。竜は、伝説の存在とされている。彼らは別の
空間に住んでいる。その石は未来を予測し、文字が浮き上がると言われて
いるようだ。
「――」
レイチェルが暫く黙り込んでいた。彼女がやっと口を開いた。
「もう少しだけ、考えさせてほしい。私は自分が王様になるところは
想像できないから…キッカケが欲しい。必ず答えは出す、だから考えさせて」
レイチェルは徽章をベディヴィアに返した。
彼女が細道を出た後に二人も外に出た。
「さっきの光、やはり彼女は―」
「そう言うなエレオノール。まだ確信にはならない。確かに銀色の光だった、
彼女が王族と何らかの深い関わりがあることには違いないと思う」
陽が傾き始めた頃、流石のリアもレイチェルの帰りが遅すぎるために動こうと
していた。それを引き留めたのは精霊だった。
小さな、小人のような弱い精霊。彼らはリアの袖を引っ張っていた。
―ダメダメ。
―レイチェルを探すのは
―もう少しだけ待ってて
―彼女なら大丈夫
小さな可愛らしい声で告げ、姿を消した。彼らは、確か…レイチェルの母が
可愛がっていた精霊たち。
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