鮮血の暴走者/親に虐げられてきた公爵令息の俺が本当の幸せを掴むまで

シュート

第?話:朱色ノ狂想曲

 『我がリベリオン家は王家と共にあり』


 これは俺のいた家で守られてきた言葉である。今の俺にとってはクソみたいな言葉だが。

兵士たちの肉塊が辺りに散らばり、謁見の間は血で赤く染っているのが目に入る。


 まるで地獄絵図をそのまま表したような状況だが、正直そんなことはどうでもよかった。なぜなら俺には目の前にいる若き国王を殺すという明確な目的があるからだ。

殺戮の欲望とに体がうずき、呼吸が自然と早くなる。


 「反逆者を殺せ! 」


 国王の命令で複数の兵士たちが俺に刃を向ける。兵士たちもやはりこんな国王と共に骨を埋めようとするのだろうか。

俺は笑みを浮かべながら右手をあげると謁見の間に染まっていた血が一気に自分の元へと集まってくる。


深紅クリムゾン・ウァツァイガー! 」


俺の詠唱と共に血液が凝固して針のように鋭くなると兵士たちに襲いかかった。


 血液操作魔法――

俺の全ての思いを凝縮させた暴走魔法である。今は怒りによって想像力も残虐な方向へと加速し、遂に危険な領域へと突入していた。


「ぎゃあああぁぁぁぁぁ!!! 」


 兵士たちの断末魔が小気味よく聞こえ、血腥ちなまぐさい匂いが辺りに充満する。

まぁそんなことはどうでもいい。別にこの騎士たちがターゲットでもないのだ。


「何もかも腐りかけている。この俺が何もかも……変えてやる」


 俺はバタバタと倒れていく兵士に吐き捨てるように言うと国王の方へ歩みを進める。


 「デューク!正気なのか!」


王様の声は震えていた。

俺の名前を呼ばれるだけでも反吐が出そうになるが、何とかそれを飲み込みながら歩みを進める。


「何を言っているんですか?俺は正気ですよ」


 俺は一息つくと付け加えるように話を続けた。


「むしろ陛下の虚言癖を直すために様々な手を尽くしたことが正気じゃありませんでした」


 あの時は第1王子だっただろうか。俺は彼のせいで1度死の淵をさまよった後に様々な葛藤からこの決断を下したのだ。


「昔からそうでしたよね。虚勢を張っていいように見せてるだけで実際はなんにも伴ってないですから」


 こんな国を見捨てて亡命して別の土地で建国したりすることだって出来たのだ。しかし俺がその選択を取らなかったのにも訳がある。俺はこの国を愛していた。だからこそ昔から虚言癖があり、国をなんとも思ってない国王が心底憎かったのだ。


「そんな陛下に仕えるのは限界です。だから……」


 俺は周りの空気を味わうように言葉を切る。あまりにも異様な光景ながらも内心にやりとすると口を開いた。


「だから陛下、死んでください」


 その言葉に反応するように血液が右手に集まり剣を精製し始める。

柘榴石ガーネットのように輝き、針にも負けない鋭さを持つそれは魔剣と呼ぶに相応しかった。


 レーヴァ邪剣テイン――

邪神ロキが作り出した魔剣であり、ヴィゾーヴニルと呼ばれるユグドラシルの1番高い枝にいる雄鶏を殺せるのだ。

 その言い伝えの通りこの剣で俺は国のトップにいる王様を殺してやるという思いが通じたのだろう。僕はそれを握ると王様に刃を向けた。


「この私を嘘つきとは貴様ッ! 」


 国王は目を見開くとレイピアで俺を斬りつけてくる。彼は王子だった頃にも碌に鍛錬もしていなかったのか動きが完全に見えていた。

俺は彼の攻撃をいなすように避けると相手はよろめいた拍子に転倒する。


「き、貴様……そこまで堕ちたのか」


 国王は蒼白した顔で立ち上がるとレイピアで俺の胴を狙っていた。

それに対して咄嗟とっさに剣で弾き返すと一進一退の攻防がしばらくの間続いていく。


 武器と武器が擦れ合う音でふと王子だった頃に剣を通して思いを語り合った記憶がふと蘇ってくる。

あの頃に戻りたくはないがふと懐かしさを覚えていた。それもまだ取り返しがつく時だったのだ。

そう、あの頃までは――


「嘘をついて国を没落させようとした王様がなにを言っているんですか? 」


 耐久戦にもつれこんだせいか国王の動きに段々と隙ができていた。

俺はその隙を突いて国王の胴や胸元などに傷をつけていく。たとえ彼の返り血が飛ぼうがそんなことは気にもならなかった。


 彼の血が段々と彼の白い服に広がっていく。この出血量では死には至らないが貧弱な国王にはこれだけでも十分な傷だろう。


「許せぬ……貴様、許せぬぞ! 」


 国王は最後の力を振り絞ると襲いかかるようにレイピアで素早い突きを繰り出してくる。

それを全て弾き返すとがら空きになった首元に剣を突き刺した。


 しばらくして赤く暖かい液体が頭に降り注ぐ。

恐らく国王の口と貫通した喉から血が溢れ出たのだろう。血が段々と俺の服を赤く染めていく。


「やった……やったんだ」


 まだ血を吐き出している国王を横目に全身が血で染まってしまった俺は歓喜に震えていた。少々呆気なかったとはいえ勝利には変わりはない。

 俺は拳を突き上げた。ふつふつと実感が段々と自分の身に押し寄せてくる。


 勝利の雄叫びを、歓喜の瞬間を、本当の自由を。

俺は今までの思いを込めて叫ぶ。


「俺はやったんだぁぁぁぁぁ! 」


 その声は謁見の間に留まらず城全体に響き渡った。


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