「センパイ、何だか嫌な予感がします…」


「それが優良さんと先輩の出会いなんですね!!」


もぐもぐとドーナッツを食べながらずっと話を聞いていた猿投クンはそう言ってニパッ、と笑った。そんな彼に私は首を縦に振って答える。


「それから必死に勉強してセンパイと同じ高校に通えるって分かった時は嬉しかったなぁ…」


「好きな人と同じ学校とか羨ましいです! 俺、まだ中学生なんで…」


猿投クンはそう言って少し眉を八の字にして笑った。


「猿投クンは何年生なの?」


「中一です!」


「なるほど、通りで制服とかエナメルバッグが綺麗なわけだ」


「そんな所から分かったんですか?! さすが優良さんです!!」


「褒めるところかなぁ…?」


そう言いながら私はジュースを飲む。しかしズズッ、と音がする。どうやら気が付かない間に全部飲んでしまったようだ。

するとそれに気づいた猿投クンが席から立ち上がった。


「おかわり、買ってきますね!」


「あっ、大丈夫だよ。もうドーナッツも食べ終わったし、帰ろうか」


「でも…っ」


「ね?」


私はやや無理やりそう言ってトレーを持ち、席を立って言いくるめる。長々と話してしまったが、センパイの許可なしで良かったのだろうか。

まぁ、あのセンパイが「他の男の人と出かけないでください」とは言い難いが。


あとでセンパイにも話しておこう。


と思いながら私はトレーを返却口に置き、後ろからついてくる猿投クンを見る。


「それじゃ、帰ろうか」


「……………」


さっきまでの元気はどこへやら。猿投クンはかなり落ち込んでしまっているようだ。ここまで落ち込まれると悪い事は何もしていないはずなのにしてしまったのではないか、と思ってしまう。

お店から出て、端に寄って私は猿投クンに話しかける。


「猿投クン? 別に今日が永遠の別れじゃないんだから…。…ね?」


「……でも…」


猿投クンは駄々っ子の子供のように俯いて小さな声を出した。少しだけ可哀想だな、思ってしまい、どうしようかと頭を悩ませる。

会う気がないのに「また会おう」と言うのも無責任だし、かといってこのままサヨナラしたら猿投クンがぐずった挙句、泣いてしまうかもしれない(ないとは思うが)。


「猿投クン、さっきも言ったんだけど…。センパイに悪いからもうこうしてお茶出来ないんだ。…ごめんね」


私がそう言うと猿投クンは小さくため息を吐いてこう言った。


「そうですよね…」


「うん」


「すみません。いきなり待ち伏せなんてして…」


あ、やっぱり待ち伏せだったんだ。


「でも…」


猿投クンはニヤリ、と笑って顔を上げ、私をしっかりと見ながら続けた。


「でも、会う分にはいいんですよね?」


「え……、うん…。まぁ…、そんな事なかなか無いとは思うけど…」


「それでいいんです! それじゃ! 優良さん!! また今度!」


やや早口でそう言うと猿投クンは手を振りながらタタタッ、と帰っていってしまった。


センパイ、何だか嫌な予感がします…。

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