85. 顔合わせ

 まさかの事実に驚きはしたものの、落ち着いて考えると事の流れが見えてきた。

 おそらく、アルティストの実家からシルヴィ宛てに荷物が届く途中で賊に襲われ、盗られたものの中にあの魔法唱板エルヴァントーレも入っていたということだろう。


「そ、それって大丈夫なの?」

「大丈夫なわけありませんわ!早く御者と中身の無事を確認いたしませんと…」


 走りながら発されたリーサの質問に、シルヴィは振り向きもせず答えた。

 警備員の近くまで行って、シルヴィは声を張り上げた。


「わたくしはシルヴィーナ・アルティストですの!積荷の確認をさせていただきますの!」

「シ、シルヴィーナ様!?大変申し訳ございません、少々お待ち下さい!!」


 その場にいた職員がギルドの中へと飛んでいき、すぐに戻ってきた。


「こちらへどうぞ!荷物および御者の方々はこちらで待機されております!」


 シルヴィは駆け出そうとして、しかし足を止めてバッと振り返った。


「エルジュ、リーサ、ヒロキ!着いてきてくださいませ、文句は言わせませんわ!」

「い、いいのか…?」


 こうして、俺たちは困惑しながらもシルヴィに着いていくことになった。



「オクシス!オクシス、大丈夫なの!?」


 部屋に入るなり、シルヴィは馬車に乗っていた一行の方へと駆けていった。


「えぇ、大丈夫ですよ、お嬢様。幸い怪我も少なく済みました…しかし、積荷をいくつか奪われてしまいました。本当に不甲斐なく思います」

「そんなのどうでもいい!襲われたと分かって、どれだけ心配したか…」


 安堵に崩れ落ちるシルヴィを尻目に、俺は被害に遭ったという荷物を眺めた。

 袋は破け、箱は壊れ…と、かなり悲惨な状態だった。

 何もわからない状態で見たら魔物にでも襲われたのだろうと考えていたところだが、魔法唱板をスリが持っていたということや野次馬から漏れ聞こえてきた『賊』という単語を考慮すると、やはり盗賊による被害だろう。

 そんなことを考えていると、不意に声をかけられた。


「リーサちゃんにヒロキ君?来てたんだ」

「エーシェンさんこそ」

「僕はこれでもギルドの偉い人だからね。こういう現場には出なきゃいけないわけさ」


 言い終えて、この三人の中で面識のないエルジュが会話に入ってこれていないのを見たエーシェンさんは、エルジュに話しかけた。


「初めまして。ボクはエルディラット・ギルド副長のエーシェン・メール・スートローヴァという者だ。どうぞよろしく」

「エルジュ・オングスティートです。ヒロキやリーサ、シルヴィとは同じ研究室の友人です」

「シルヴィ…シルヴィーナ様のことか!ず、随分と軽く呼ぶんだね…」

「高校の友人ですから」


 シルヴィが割り込んできた。

 後ろにはさっきまで話していた男性がいる。


「私はオクシス・ヴォーテッロと申します。アルティスト家専属の御者を仰せつかっております。シルヴィーナ様がいつもお世話になっております」


 そこからは自己紹介の流れになった。

 オングスティートの孫ということでエルジュが知られているのは予想できたことだったが…


「ヒロキ・アモンです。シルヴィとは新入生対抗戦で戦いました」

「シルヴィーナ様からお話は伺っております。誰もが持たぬ知識を持ち、それでいて実力のある冒険者だと。…貴方のような方が護衛についてくださっていれば、この度の賊も撃退できたのでしょうか」

「買いかぶりすぎです。俺はたまたま勝ち上がった一介の学生に過ぎません。それに、その言葉は守ろうとしてくれた護衛の方々に失礼ではありませんか?」

「護衛は皆、力不足を痛感しております。私も含めてです」

「…お二人とも、シルヴィーナ様への事態の説明に移りたいのですが…」


 エーシェンさんが俺たちの間に割って入り、そこで話はおしまいとなった。

 …なんか、話しづらい。

 それが、俺がオクシスという人に抱いた第一印象だった。

 悪い人ではなさそうなんだけどな。

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