83. 発覚した事実

 コースヴァイトにおける騎士団は、軍事部門と警備部門に分かれている。

 そのうち、警備部門の方は警察の役割を果たしている。

 街中にある騎士団の詰所というのは、いわば交番のようなもので、実際に訪れてみても日本で見た交番に似たような雰囲気を感じた。


「そうか、災難だったな…この書類に必要事項を記入してくれ」


 人の良さそうな警備員のおじさんが、書類…被害届を渡してきたので、スリに遭った場所、時間、中身などを書いていく。


「しかし、スリも増えたなぁ…『赤い剣姫』が居てくれりゃよかったんだが、彼女は今オーチェルンのほうで討伐をやってるって噂だからね」


 突然現れた『赤い剣姫』こと以前のリーサに話題が移り、リーサはビクリと肩を震わせた。


「『赤い剣姫』?それとスリに何の関係があるんですか?」

「冒険者というのは騎士団の軍事部門の方と協力して賊の討伐をやることがあるんだよ。だから、有力な冒険者というのは存在するだけで犯罪を防止する抑止力になるんだ。残念ながら、エルディラットは今の所そういう象徴を欠いていてね。いっそ君が象徴になってくれないかい、ヒロキ・アモン君」

「えっなんで俺の…って、そうだ、俺優勝してたわ」

「シルヴィーナ様も強いお方だから、実質的な戦力としては申し分ないはずなんだけどね。何か印象的な出来事があると良いかもしれないよ」


 良いかもしれないよ、と言われても困るのだが、とりあえず俺は曖昧にうなずいておいた。

 ふとリーサの方を見やってみると、少し申し訳なさそうにしていた。

 リーサから聞いた彼女の過去を考えると、『赤い剣姫』時代は諦観とか焦燥感とかで修羅になっていた時期と言える。

 現実的な話、リーサと俺が出会ってから稼ぎは上がっているし、そもそもリーサには赤魔族という金持ちルートが約束されている。よってそういったネガティブな感情はだいぶ減っているはずだ。

 そんなわけで、リーサが『赤い剣姫』に戻る予定はない。俺としてもリーサが辛そうにしているのを見たくはないのでそのほうがいいのだが、いかんせん代償が街の治安というのはだいぶ大きい。

 リーサは何も悪くないんだけどな…



 詰所を出て、帰途についた。

 とりあえず、今夜までにもう一回ギルド併設の銀行でお金を下ろしてメシ代を確保しなければ。

 そう思って、本来財布が入っていたはずのポケットに手を入れてみると、何か固いものが手に触れた。


「…あ」

「どうしたの?」

「あいつが使った武器、説明するの忘れてた」

「あっ!!」


 そう、例の少年が落としていった謎の武器だ。

 今からでも証拠として届けるべきだろう、と思いつつ取り出してみる。

 その黒い板状の物体に、俺は見覚えがあった。

 正確に言えば、少し違う部分はあるのだが、おそらく実態は同じものだ。


「…ねぇ、これって」

「…だよな」


 その物体は、どう見てもシルヴィの開発した魔法唱板エルヴァントーレだった。

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